どんな時も二人同じ時間を
この生活を始めて数年が経っていた。
「アウル?」
「あ、ごめん」
買い出しの途中道端で立ち止まった僕を少し先を歩いてラクスが呼び掛けてくる。
ショーウィンドウから視線を外しラクスに駆け寄った。
「さむっ」
箱を抱えながら呟く。幾度となく通り見かけたショーウィンドウに差し掛かると歩みが緩くなる。
時計が並べられ、見たことのない時計もあった。数字で表記しておらず針が記されている数字を指している。常に動いている針が規則的でつい見つめてしまう。
「何がそんなに良かったんだろ」
ショーウィンドウを通りすぎ目的地に向けて寒さを紛らわすように走った。
自身で金銭を稼いだことはなかった。どうしているのかをラクスに聞いても答えはしない。必要なら渡すと言われても特に欲しいものもないと断った。
そんな経緯があったからラクスには黙ったままバイトをした。自分ができそうな働き先は少ない。身分が証明できないのが一番大きい。断られながら何とか荷物を届けるだけの仕事を見つけた。儲けは少なくても何日か働けば買える金額にはなる。そうしているうちにいつしか季節は変わって寒くなっていた。
「ラクス〜?」
帰宅して夕日だけが射し込み薄暗い1階を見渡してみる。
夕食の仕度をしている時間なはずがいない。一応2階のラクスの部屋や僕の部屋、空き部屋全てを確認してもいなかった。
「書き置きもないし。あれ……」
外に出てきて探しに出ようとして浜辺をこちらに歩いてくる人影が見えた。
風で長い髪が揺れていてラクスだとわかる。
「ラクス!」
駆け寄って名前を呼ぶと俯いていた顔を上げ微笑んだ。
「おかえりなさい、アウル」
ラクスは何も聞かない。少し出てくると出て帰ってきても行き先をきくことをしなかった。
今日が自分の誕生日だとしてもきく素振りはない。
「夕飯は?」
「もうそんな時間なのですね」
今本当に気づいた様子で海に顔を向け沈んでいく太陽を眺める。
「あのさ、これ」
「これは?」
横顔が寂しそうに感じられその寂しさをなくしたくて持っていた小さな箱を差し出した。
開けるよう促すように更に前に差し出す。恐る恐ると受け取り包装をとり箱を開ける。
「時計……」
「ずっとバイトしてたんだ。誕生日にあげたくて」
左手首を前に出す。すでにそこには腕時計がはめられていた。ラクスが見比べるように僕の手首と箱の中を見る。
「ペア、なんだって。珍しい形とかで他のより高くて時間かかった」
「それでずっと?」
出掛けていたのはこの時計を買うためだと説明するように言う。頷くとラクスが箱の中の時計を見つめた。
「一秒一秒を刻んでいますわね」
「目にしてから気になってさ」
「これなら夕食を作る時間も忘れませんわ」
顔を上げたラクスからは寂しさはもうなかった。
箱を取り上げ中の時計だけラクスの手に乗せる。
「つけてみてよ」
「はい」
細い手首に買ってきたばかりの時計がはめられる。
手を差し出すとラクスの手が触れ握りしめた。引くように家へ歩き出す。
「ありがとうございます、アウル」
一秒一秒を刻んでいく。どんな時も二人同じ時間を。
H26.2.4
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