羽:1


 


普段なら気がつかなかったかもしれない。階段を降りていくラクスを上階から見かけて動きが気になった。
抜けるわけにもいかず用件を済ませるために急いだ。急いだところでラクスに直接聞けるかはわからないが。


時刻を確認すると帰還予定時刻までにはまだあった。普段なら執務室に戻っているのだろうか。議会は今日はないことは確認したがラクスのスケジュールまではわからない。
とりあえず執務室へ向かってみようと早足で角に向かった。

「わっ!?」
「す、すまない!」

角でぶつかりそうになり反射的に謝る。すぐに見知った人物だとわかった。

「気をつけて下さいよ、アスランさん」
「シン、来てたのか」

見慣れたザフトの赤服を着用しているシンが不機嫌そうな表情をしていた。早足で歩いていた自覚はあったためもう一度謝罪する。

「プラントなんですからいますよ。アスランさんこそ一人でオーブ服でうろついていると変な目で見られますよ」

オーブ服であることよりもオーブ服を着用したアスランザラがいることで奇異の目で見られると言っているのだろう。
何度が訪れてそれは理解しているつもりだった。だがザフトに戻ることはしない。

「ラク……クライン議員に面会したいんだが今日は出ているかわかるか?」
「さっき会ってきたばかりですから執務室にいますよ」

シンはあっさりと答えた。それならこのまま執務室に向かえば会えると思うとともにシンが今日ここにいるのはラクスに呼ばれたからなのかと気になってしまう。

「何の話かはアスランさんには関係ありませんから。それじゃあ」

横切るシンの腕を思わず掴んでしまった。

「何ですか?」
「ラ、ラクスは元気だったか?」

咄嗟に出た言葉に驚かれるもため息を吐かれた。

「俺が付き添いますから自分で確認して下さい」


執務室に向かうまでシンは何も言わずラクスに俺が来たことを告げ去ってしまった。
通された執務室でラクスはいつものように微笑んで出迎えてくれた。

「こちらにいらっしゃってたのは聞いてましたわ。お忙しいですからお会いできないと思っていたので会えて良かったです」

ラクスの言葉に婚約者時代を思い出す。婚約者ならばやはりあまりにも長く会わないのは失礼ではないかと短い時間でもと突然訪問していた時期もあった。

「突然すまない」

今は敬語ではなく会話をなぞることはない。でもやはり流れは同じでラクスは苦笑した。

「お茶を飲んで行かれる時間はありますの?」

頷くとラクスはお茶の用意を始めた。やはり歩き方に違和感がある。最近着用している服は裾が長く足はほとんど見えない。足を引き摺るほどではない。でも歩きにくそうに見えた。

「ラクス、足を捻ったのか?」
「いえ……何かおかしいですか?」

座るよう促されても座らずにラクスの足を凝視する。
テーブルにはティーカップが置かれた。

「今日の予定は?」
「少ししたら外に出ますわ」

詳細は聞かずとも歩くことは確実だろう。
ラクスが不思議そうにしながら座るとその足元に膝をついた。

「アスラン?っ……」

裾を捲り片足を取ると痛がるような声が微かに聞こえた。

「……すみません」

そっと床に降ろしてラクスを見上げる。
ラクスは視線を逸らし何と言うか思案しているようにもみえた。

「応急措置をするから手当ての道具がどこにあるか教えてくれないか?」
「机の一番下の引き出しに……」

小さく答えられすぐに机の引き出しから手当ての道具を取り出した。再びラクスの足元に戻り膝をつく。

「裾、持っていて下さい」
「はい」

たまに敬語が出てしまう。それは自然なもので彼女との時間が短くなかったのがよくわかる。それが自然となっていたから出てしまう。

「ラクスがこんな怪我をするなんて意外ですね」
「意外ではありませんわ。気をつけてはいるのですが……アスランが上階に見えて」
「俺が?」

ヒールを脱がせて膝の上に足を乗せて手当てをしていると意外な言葉が聞こえて顔を上げた。

「少し踏み外したら捻ってしまいました」
「俺のせいですね」
「そんなつもりは……!」

俺が気づいたのはラクスが俺に気づいたあとということだ。視線が合うこともなかった。まるで婚約者時代の俺達のよう。俺は彼女に気がつけない。

「いつも遅れて気づかされる」

手当てを再開する。まるで後悔のような言葉。後悔はしていない。それでも過るのは過去のこと。

「ですがアスランは気づいて下さいました」
「君が怪我をしてからだ。歩き方に違和感を感じてここに来たんだ」
「こんなことを言ったら怒られてしまいますが、嬉しいですわ」

嘘ではないということは彼女を知っているからわかる。
手当てが終わり巻かれた包帯は避けて足をさする。

「ありがとうございます」

本来はやってはいけないことだと頭ではわかっている。婚約者時代ならまだしも今の俺がしていいことではない。でも婚約者時代でもやろうとしたのかと考えると結局過去を悔いている部分があるからこそ現在の考えに繋がっているのだと思う。同じように悔いたくはない。

「服を借りてラクスに同行させてはもらえませんか?」
「アスランがですか?」
「今日は元々泊まりの予定だったので規定時刻に報告さえ済ませればあとは自由なんです」
「私なら大丈夫ですわ」
「俺が、そうしたいんです」

ラクスが断るなら引こうと思った。でも大丈夫は断っていることにはならない。ラクスならはっきり言うはずだ。昔ならまだしも今なら尚更。

「では、お願いします」
「はい!」

黒いスーツに着替え、髪型も変えサングラスを着用し執務室から出る際にはラクスには聞かずに抱き上げた。



H26.4.21



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