羽:2


 


アスランから連絡が入り変装をした上でラクスの護衛としてついていったとのことだった。
元々アスランには秘密裏にしていて今回カガリに同行するよう指示したラクスがどうするかはわかっていなかった。

「窮屈だろ、キラ」

車内で隣に座るカガリが小声で話しかけてくる。両脇には護衛。広い車とはいえ四人で座るには狭い。でもカガリの立場としてはこれくらいは普通だろう。

「僕が前の席に行けば良かったね」
「いや、それはいいんだが……」

言いにくそうに俯かれる。体をカガリに寄せ肩を押し付けた。

「キラ?」
「会えるの久しぶりだからね」
「……ああ」

こうして少しの時間でも体を寄せたい気持ちになる。カガリも察してくれたのか頭がこちらへ傾いた。


ある施設へ到着しカガリは呼ばれ僕が先に目的の一つである部屋へ向かった。
無機質な部屋。病室のようだった。ベッドには少年が眠っている。機械音が規則的に屋内に響く。

「ん……」
「おはよう、アウル」

少年の名を呼ぶと開かれた目がこちらへ向けられた。

「お前……」

保護された少年。着用していたパイロットスーツから地球軍だろうと推測されムウさんが確認するとMSパイロットでエクステンデッドだという。内密に保護し治療している。

「キラ、だっけ?」
「そうだよ。気分はどう?」
「頭ぼんやりして最悪」

そうと返してベッド脇にある椅子に座った。
彼はエクステンデッドである副作用で記憶があやふやになることがあり不安定だ。何とか普通に暮らせるようにできないかと尽力はしていても資料も少なすぎるし彼に実験的に投与するしかない。

「早く外出たいなー」
「外に出て何がしたいの?」

彼が自分からそう言うのは珍しかった。問いかけても大体は閉鎖空間で息が詰まるからと答えられた。

「バスケ」
「え?」
「知らないの?」
「あ、知ってるよ。好きなんだ?バスケ」

予想外の回答に驚いた。

「わかんない。やりたいだけ」

今日の彼の記憶がどこまであるのかはわからない。それでも彼に何かをやりたい、それが日常生活でのことなのが嬉しく思いながらはがゆかった。


部屋から出るとカガリが壁に寄りかかっていた。

「入ってきたらよかったのに」
「今日はやめておく」
「そう」

カガリはもうひとつの目的のほうに行っていたのかもしれない。車内で話していた時より覇気がない。連日休みもなく肉体的にも精神的にも疲弊していくだろう。それでも代表として民を思い行動する。それでもここへきて彼女に会うとこうして幾度となく折れそうになる。

「外に出ようか。敷地内なら平気だよね」

そう声をかけて屋外へ向かった。


「カガリは来ないほうがいいよ」
「いやだ」
「言うと思った」

前方にはフェンスが見える。後方にいるカガリはきっと不貞腐れたような表情をしているだろう。

「意思を持ってるから喜怒哀楽があって、そこに幸せがあると思ってる。だから僕は戦った。僕の周りにいる人達を守りたかったから」

ギルバードデュランダルの目指す未来に賛同はできなかった。平和にはなるだろう。常に管理されているのは作られたものだ。

「シンは僕の戦いで家族を失った。シンの戦いでそうなった者もいる。戦いはそうした連鎖しか生まない」
「キラ!」

僕の言葉を止めるようカガリが叫ぶ。

「きっと答えなんてないんだ。ただ普通に暮らしたい。なのに戦わないと守れない。力を持っていなければ良かったのかな」
「私はキラがいなければどうなっていたかわからない。今よりも良くなってたかもしれないし悪くなってたかもしれない。でも私は来てくれて嬉しかった。私の気持ちを、代表としてはいけないとわかっているのに……」

振り向くとカガリは俯いて震えていた。少しだけ空いた距離を縮めて抱き締め頭を軽く叩く。

「カガリに少しでも楽にさせたかったのに僕が励まされちゃったな」

君のせいじゃないは言えない。僕がやってきたことをそう言われたところで行ったことは消えない。

「責めてもどうしようもないのに責めちゃうから、話していいよ」

カガリはぽつぽつと話して泣いた。


「夜風で腫れ引かないかな」
「そんなに目立たないよ」

そろそろ戻る時間が近づきカガリは両手を広げて伸びをした。

「キラ、ありがとな」
「こちらこそ」

そう返すとカガリは微笑む。

「最近はキラのその格好見慣れてきたな」
「そう?僕はオーブ軍の方が着なれてたけど。裾長いのが慣れないよ」

今はザフト軍に在籍している。アスランは混乱を招くだろうと戻れず、話し合い僕が入隊することとなった。企てをできるだけ察知しやすい位置にいなければいけなかった。着慣れることはないだろう。

「間違ってると言われても仕方ないんだ。衝突しても絵空事と言われても先に争いのない未来があると信じてる」

そう言って夜空をカガリが見上げる。戦いのない日常を過ごしたいと願うのは一人ではない。結果が見えない願いなのかもしれない。それでも守りたい人達と共に歩んでいく。



H27.4.14



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