歩いてきた路を尊ぶ
“飾りつけやってるから買い出し頼むね。あ、カボチャも忘れずにね”
突然やってきたキラに追い出され……もとい、ハロウィンの買い出しを言い渡され外出するはめになった。
「通じないようですわね」
そして今に至る。
「本当にこんな事あるんですね……」
「なかなかありませんわよね。エレベーターが止まって閉じ込められるなんて」
今の状況はラクスが言った通りだ。
本来なら困るべき状況なのに嬉しそうに聞こえるのは気のせいだろうか。
「通信も駄目となると……あ!」
ラクスが何度か試した緊急時の通信手段も応答なし。緊急時に使えないなら付けるなと言いたい。
こういう時の連絡手段である携帯電話を探そうと買い物袋を床に下ろした。
「あれ?」
「どうかしたのですか?」
コートのポケットを探るも目当ての物は見つからない。あらゆる場所、買い物袋も探してもない。
どうやら車の中に忘れてたきたらしい。
「いえ……すみません」
何だか情けないあまりに言い出せず謝ってしまった。
「ラクス?」
視線を下に向けているとラクスのくすくすと笑う声がエレベーター内に僅かに響いた。
「ごめんなさい、可愛らしかったものですから」
ラクスはまだ口元に手をあてながらそう言った。
「可愛いって……俺が、ですか?」
「はい」
「それは何というかフクザ……わっ」
複雑と言い終わる前に目の前のラクスが見えなくなった。
止まっただけではなく電気まで消えてしまい真っ暗だ。
「ラクス、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですわ」
段々と目が慣れてきて薄ぐらい空間にラクスの姿が見えてくる。
電気が消える前と同じ場所に佇んでいる。彼女も目が慣れてきたのか視線が合った。
「ラクスはいつでも冷静ですね」
「そうですか?」
「止まった時も慌てずに通信で連絡をとろうとしましたし、今も特に騒いだりもしませんでしたし」
俺の彼女の印象は天然のマイペースで冷静な人だ。最初は掴みどころがなくて困った。
「止まった時も今もびっくりはしましたわ」
あまりにも見せてくれない彼女に落ち込みもした。
そう思った時にいつのまにかラクスが気になって知りたくなっている自分を知ったんだ。
「それに“いつでも”なわけではありません。アスランと離れてると心配でたまりませんわ」
「……それはヘマしてないかの心配ですか」
「それだけではありません」
冗談っぽく言うとラクスは少し笑いながら言ってくれた。
彼女がずっと心配して、無事を願っていてくれた事も知っている。何度危険な状況を知って冷静ではなくなったかも知っている。
だから、知ってるからあえてそれを口にはしない。
「アスラン、座りませんか?」
「そうですね」
ラクスが近寄って来たので俺はその場に腰を下ろした。すぐにラクスが隣に座る。
「しかし何でカボチャを忘れずにって言ったんでしょうか?」
「ジャックランタンを作るのだと思いますわ」
「じゃっくらんたん?」
こういう事は疎くて仕方がない。前のハロウィンでもトリックオアトリートと言われてどうすればいいかも知らなかったし。
「このカボチャをくり抜いて顔にしてランタンにするんです」
買い物袋からカボチャを取り出しそう説明してくれるラクス。
「顔?」
「はい。こう」
細い人差し指でカボチャの表面に目二つと大きな口を描いた。
「何か怖くないですか?」
「そうでしょうか?」
口がぎざきざだと少し怖いような気もする。仮装とかするならその類で怖くしてるのだろうか。
ラクスはカボチャを自分の目線まであげ見つめていた。
「ハロウィンには付き物なんですか?」
カボチャを見つめていた瞳がこちらに向いてドキッとした。
何でもかんでも聞き過ぎてしまったのかと謝りそうになる。
「付き物、というか」
再びカボチャを見つめて額をつけていた。少し羨ましいと嫉妬する自分は変なんだろうか。
「悪い霊が近づけないようにするためと聞いた事がありますわ」
「ああ、お化けの仮装とかしますからね」
怖い話をすると何かが寄ってくると言うがそれと似たようなものか。
「あとは旅人が迷わないための道案内……」
「旅人?」
ラクスの言葉に何かが過ぎった。
小さなカボチャの置物。確か変わった顔……というか少し怖かったような覚えがある。
あれはラクスからの贈り物だった。誕生日の贈り物とは別にされて届いたんだ。
「迷っても出口に行けましたよ」
カボチャを下ろしたラクスの視線が真っ直ぐにこちらに注がれる。
しばらくしてふっと微笑んだ。
「よかったですわ」
安心したような嬉しそうな表情。
俺はその表情に触れたくて手を伸ばした。片方の頬を片手で包むように触れるとラクスがすりよるようにする。
もう片手が伸びて、顔が近づく。唇が近づいて、目が閉じていく。
しかし唇は触れ合わずに目は閉じられた。
「アスラン、動きましたわ」
「え……あ、そうですね」
エレベーターが動くほんの少し前に点いた電気の眩しさに閉じた目に、手をあてながらゆっくりと開いた。
エレベーターが止まって扉が開く。
「いたいた。すみませ〜ん!友人二人いました!」
「大丈夫かっ?」
聞き覚えのある二人の声を聞き、がっくりと肩を落とした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「戻ってくるのが遅いから行ってみてよかったよ」
「そうだな…」
帰りの車の中、助手席に座るキラを少しだけ恨めしく思う。
別に今更キスなんてと思うが何度しても…その、いいものだし。
後ろにいるラクスとカガリもエレベーターが止まった事について何か話しているようだがこちらにはあまり聞こえてこない。
こちらの会話もあまり聞こえていないだろう。
「キラ、まさかとは思うがお前が何かしたわけじゃないよな?」
「やだな〜、さすがにできないよ」
「そうだよな」
「最近調子が悪くて止まりやすいとは聞いてたけど」
安堵もつかの間やはりキラに嵌められたのか。でもまさかそんな確実になるわけでも…。
「前の時仕返しされたから更に仕返したわけじゃないよな?」
あの時は確かに俺も大人げなかった。そしてあのあと俺も痛い目を見て自業自得だった。だからおあいこのはず。
「まさか〜。あはははは」
「否定してくれよ!」
「自然に見せかければ仕返しされる事もないしね」
「キラ……」
もはやどこまでが本当か冗談かわからないので追求するのはやめた。
「アスラン、帰ったら楽しみにしてて下さいね」
「え?」
後部座席から顔を覗かせるラクスを横目で見る。
「今年はなかなかのアレだよ」
「アレ?」
「ほ、本当にアレを着なきゃいけないのか?」
カガリの言いにくさからあまりいいものではない事を察知する。
「アレならいたずらしやすいしね」
「それでアレなのか……」
「アスランのためなら頑張ってアレを着ますわ」
「だからアレって何なんですかー!?」
俺の絶叫は帰ってからわかる事となるがそれはまた別の話。
どこに迷いこんだかもわからない旅人が
何のためかもわからない贈り物を頼りに
捜し人を知らない旅人が
顔もわからない人を頼りに
ただその持つ明かりに
吸い寄せられて
出口まで君と共にいただなんて知らず
今は歩いてきた路を尊ぶ
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