羽:4
「シン、お菓子食べたい」
「そういうことはキラさんに言ってください」
書類を届けるなり言われ突っ返されかけた書類を受け取らない意思を見せるように両手を後ろへやった。
「……言いにくいわよ。それに!敬語はやめてって言ったのに」
「……」
「無視なんてひどーい!」
ラクスクラインを知ったあとだと見た目が同じでもこうも違うと完全に別人に思える。そもそも先にラクスクラインとして会ったのが彼女なだけに偽物と言われてもピンとこなかった。
「わかりました。キラさんに聞いてきますからそこから動かないで書類に目を通しておいてください」
「はーい!」
能天気な返事をされ軽く気が抜けながら退出した。
キラさんの用件は済んだようで呼び出しにすぐに応じてくれた。
「この施設にあればすぐに持っていったんだけど買ってこないとないよね。検問にも通さないといけないし」
「そうですよね……」
無理を承知で聞いたもののやはり少なくとも今日は無理なようだった。
「僕やカガリには言ってこないんだけど君には言いやすいのかな」
「たまたまじゃないでしょうか。そういえばアスハ代表は?」
「ラクスと少し話をね。アスランが彼と話をしたいと言ったみたいだから。彼女のところにも行くかはわからないけれど」
「アスランさんが来てるんですか?」
この件についてはごく一部しか知らない。俺はたまたま居合わせ救出を手伝い知ることになった。アスランさんには黙っておくことも言われていた。
「ラクスが連れてきたみたいなんだ。だから僕にも事情はよくわからない。あ、ちょっと待って」
通信が入ったのか二、三会話をし通信を切った。
「彼女のところにも行ったみたいだから少し話してようか」
「いえ、もう用件は済みましたから先に」
「行ったほうがいいよ」
「……隊長命令ですか?」
「隊長って慣れないね」
隊長と呼んでいる相手。配属理由をある程度わかっているメンバーで構成されている。普段は隊長と呼ばないでほしいなんて変わってる。
「彼には会った?」
「今日はまだ」
今日は会うつもりはなかった。アウルニーダ。名から解析したらエクステンデッドの一人でステラの仲間だった。搭乗していた機体にも見覚えがあり俺が沈めた機体だった。浜辺に打ち上げられていたアウルニーダをクライン議員が発見し近くにいた俺が呼び出しを受けた。皮肉なものだ。殺した相手を助けるなんて。
「彼のデータを見たシンが冷静だったのに少し驚いたかな」
「遊びでMSに搭乗してるわけじゃありません。戦線に出る以上死は覚悟してます。討つ方も討たれる方でも」
「……そう」
感情が読み取れない。できるだけ殺したくない人であり民間人だったことも知っている。
「力を持ってしまったと気づいた時どんな心境でしたか」
意地の悪い言い方だと我ながら思う。キラさんは無表情で思案しやがて苦笑した。
「君は力を持ってしまったと言ってくれるんだね」
最初意味がわからずに首を傾げ無意識な発言だと気がついた。
「力は時に身を滅ぼす。それは思いも同じだ。強すぎる思いも壊していく。力だけでも、思いだけでも駄目なんだ。難しいね」
「そう考え迷えるのはいい、と思います」
最後のほうは声が小さくなり目線を下げた。
「ありがとう。多分君と同じだよ。先に見ているものは」
部屋に戻ると彼女はソファの上で膝を抱えていた。
「書類には目を通しましたか」
「聞いてくれないんの?」
「何があったかは知りませんが書類には目を通して必要次項にはチェックをつけておいてください」
「いじわるいじわる」
どうやら書類には目を通したようでこのまま帰ることもできた。けれど寝覚めが悪そうで仕方なく向かいに座った。
「アスランさんが来たんですよね」
「そう!アスラン、さんが来たの!」
顔を思いきり上げる。嬉しいのかと思いきや顔は曇っていく。
「アスランあたしに謝ったの。悪くないのに」
「悪いと思ったから謝ったんでしょうけどなら怒れば良かったじゃないですか」
「怒る?」
「謝るのは許されたいからですよ。やり場がないから吐き出す。壁にどうぞって言えばいいじゃないですか」
これは自分にも言えることだった。だからアスランさんにもアスハ代表にも謝っていない。許されたいわけでも吐き出したいわけでもない。
「でもアスランが謝るのはアスランの人柄なのよね」
「わかってるなら悩む必要ないじゃないですか」
「その口調!」
興奮したように立ち上がられ驚く。
「そっちのほうが許せない」
「ごめんなさい」
「口だけ!悪いと思うなら今まで通りにして!」
建前もあるから敬語にしたというのにまだわかってないから言うに言えない。
「……わかった」
「よし!」
満足したのか普通に座った。
「ミーアも謝ったんだろ?」
「たくさん迷惑かけたから……」
「それでアスランさんは?」
「気にしなくていいって」
「なら終わり。割りきれないのはわかるけどさ」
俺にも言えることででもそのままではどうしようもないから今でもザフトにいる。
「じゃあ、俺来るの最後にするから」
「何で!?」
「何でって……」
「シンと話すの楽しいのに」
嘘だろと言いかけてやめた。
「シンがいい!」
こんなことを言われたら言いにくい。時間を確認すると規定の時間が迫っていた。立ち上がりジャケットのポケットを探り差し出す。
「なに?」
「お菓子」
手を開くと飴が一つあった。一応キラさんの了承は得ている。
「くれるの?」
「せんべつ」
「もうこないの!?」
喜んだかと思えば慌ててコロコロ変わる表情がいつしか可愛く思えていた。
「もう少ししたらわかる」
包装をとり飴玉を口に差し出すと口を開き放った。
「またな、ミーア」
「またね、シン!」
いつものやりとりをして部屋を退出した。
ミーアが外での生活ができるようになるまであと少し。彼女が、みんなが暮らしやすい未来になればいい。過去に何があろうとも歩ける先があるなら雲をはらって開けた空の下にいたい。
H27.4.20
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