アスラク編


 


中庭に来てほしいというラクスからの言伝てを聞き、中庭を訪れた。
今日は一度もラクスと会えていない。
合流する約束もしないまま当日を迎えてしまった。

平静を装っているが俺は今焦っている。
何としてもラクスより先に容器を見つけなければいけない。
今でも容器を隠した場所に行ってしまいたい。

「そうか。隠した場所に先に行けばよかったのか」

自分が想像以上に焦り混乱している事をやっと自覚する。
今からでも遅くはないかと考えながら項垂れる。

「ラクスは俺にここにいてほしい、もしくは会いたくないって事なんだよな」

言伝てを聞いた瞬間すぐに場所を聞き間違えていないか問い返そうとした。
俺が外に隠すわけがないとラクスにはわかるはずだ。なのに合流場所に外を指定するのは不自然だ。
落ち着こうと空を見上げ目をつむる。

「アスラン!」

呼び声に反応して顔を向けるとラクスがこちらに駆けてきていた。

「ラクス!走らなくても……」

言い終わる前にラクスは目の前まで来てしまう。
顔を少し俯かせて息を整える。顔を上げると笑顔でそれ以上は何も言えなくなってしまった。

「見つけましたわっ」

満面の笑顔で差し出された容器。シンプルな白い箱。

「見つけてくれたんですね」
「アスラン?」

ラクスが急に心配するような素振りで頬に触れた。
微かに触れた指先に僅かに身体がびくついた。
その瞬間触れた指先が離れた。戸惑うような表情と目の前にある手を交互に見る。
このままでは誤解されてしまう。意地を張ってどうする。
ラクスを悲しませる事に見合う意地なんかあるはずがない。

「すみません!」

すぐに上着のポケットから抜き出しラクスに差し出しながら謝る。
距離が近くなければ腰を折り曲げて謝罪していた。今は近いため頭だけ下げる。

「紙、ですか?」

ラクスの顔を見れずに両目を固く瞑る。
すぐに差し出した手から手紙が離れた。
ゆっくりと顔を上げる。

「それが入れる紙を間違えてしまって、これが本来入れるはずだった紙なんです」

折り畳まれた白い紙をラクスはじっと見つめ、両手にしている紙と容器を交互に見る。

「どちらを先に読んだほうがいいのでしょうか?」
「えっ」
「私とは関係のないものなら読みませんわ」

ラクスは間違えて入れた紙もラクス宛てだと見抜いているようだった。
ここで断ればラクスは読まないまま容器を返すだろう。
でもその容器は、俺の気持ちはもうラクスの物だ。

「これが容器の鍵です」

小さな銀の鍵をラクスに差し出す。
ラクスの両手は塞がってしまっているがすぐにラクスが気付き渡した紙を上着のポケットに入れ、鍵を受け取った。

「どきどきしますわね」
「俺もです」

鍵穴に鍵をいれて容器を開く。
中からラクスが手紙を取り出すと空になった容器を受け取った。
四つ折にされた手紙を広げられて少し視線を外す。
一度ラクスに手紙で告白しようとした。でもある理由でその手紙は書かれたまま自室の机に置いておく事にした。
今回手紙を入れようとした時、その時の事を思いだし読み返したら入れる手紙を間違えてしまった。
宛てた相手に読まれる事はないと思ったのに今その手紙は読まれている。

読み終わったのかラクスは上着から本来渡すはずだった手紙を取りだし、広げて読む。
容器を開ける前の楽しげなものは今はなく真剣な表情だ。

「ラクス……」

やがて読み終わったのか二枚を重ねて胸に引き寄せ目を閉じた。
受け止めるような仕種に自然とラクスに呼び掛けていた。

「素敵な手紙をありがとうございます。私は今アスランと一緒にいれて嬉しいです」
「俺もです」

こうして共にいれる今を嬉しく思う。
ラクスへの思いと感謝とこれからを手紙に書いた。
それは間違えた手紙の必死でひたすらにラクスを思い、共にいたいと伝えようとする内容とどこか繋がっているようで不思議だった。

「容器にいれる手紙は間違えてませんでしたわね」
「そうかもしれませんね」

自分のミスには違いなく苦笑してしまう。
でもそれでよかったのかもしれない。間違いでいれてしまったのに間違えていない。手紙の内容から考えればそれがあてはまるようだった。



H24.5.3



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