I pray to stop my cry【水の証編】
―叫んでた
叫びつかれて壊れてしまいたかった
もう“あの時”からあなたに心から惹かれた時から
壊れていたのかもしれない……―
「だから……ったから僕は……スラン……だよ」
「……キラ?」
ベッドから起き上がり電話をしているキラに近づく。キラは少し怒っているようだ。
「あ、ラクス。まだ起きちゃダメだよ。じゃあ、また連…もう切れてる」
一つため息を吐きラクスを抱き上げベッドへと運ぶ。
「もう三日も眠ってたんだよ。……アスランと何かあったの?」
ラクスはキラを見つめきょとんとしている。
「ラクス?」
「キラ、“アスラン”ってどなたですの?」
「だから、キラに話すような事はないって言ってるだろ」
「じゃあラクスと何で会わないんだよ!」
アスラン宅にてこのキラとアスランの会話が何度も繰り返されていた。アスランはそっぽを向き、キラは今にも殴りかかりそうな感じだ。結局それからも同じ会話が続きついには殴り合いになりキラは帰って行った。アスランは壁を一突きする。
「会えるわけ、ないだろっ」
金髪の少女がアスラン宅前にずっと佇んでいた。キラが訪れる前から帰るまで…そしてインターホンに手を伸ばす。
「……ラクス、大丈夫?」
クライン邸を訪れたキラ。ラクスはテラスで夜空を見上げていた。キラには気づいていないようだ。
「ラクス?」
ラクスの髪をそっと撫でるキラ。
「きゃっ!あ、キラ……いらっしゃい。どうなさいましたの、そのおケガ!?」
キラのケガに気づきびっくりして心配するラクス。救急箱を持ってきて手当てをする。
「つっ!」
「染みますか?少し我慢してくださいね」
丁寧に手当てをするラクス。キラはラクスを見つめそっと口づけをする。
「んっ……いやです!!」
キラをはねのけるラクス。悲しい表情をするキラ。
「どうして?まだやっぱり“アスラン”の事……」
アスランの名をを強調して言う。ラクスは少し困惑するがいつもの微笑みを出す。
「ごめんなさい、キラ。ちょっとびっくりしただけですわ」
“アスラン”という言葉を避けるようにするラクス。キラは立ち上がりラクスを強引に外へ連れ出そうとする。嫌な予感がしたのかキラの手を払いのける。
「どこに連れていくおつもりですか?」
さっきまでの微笑みは消え強く訴えかけるような目をしている。
“どこにも連れていかないで!”
と訴えかけるように。
「アスランの所だよ……」
それでも手をつかみ連れ出そうとする。ラクスはまた払いのけ自分から外へと飛び出した。逃げるように。
キラは追った。追った。だけどラクスは見つからなかった。やがて雨が降りだしキラはそれと同時に地面に崩れ落ち自分がした事を悔いた。
「はぁ……はぁ……逃げなきゃ」
“何から?”
「逃げなきゃ……」
涙を流しながら走り続けるラクス。靴を履かず裸足のままのため足が痛んできてヨロめいた。
「きゃっ」
誰かがヨロけたラクスを受け止めてくれた。ラクスは少しその人の体に寄りかかり顔をあげた。
「……ラクス!?」
ラクスはきょとんとしたまま自分の名を呼んだ人に聞く。
「どこかでお会いした事ありましたでしょうか?」
その人……アスランは自分の耳を疑った。つい先日まで親しい“友人”として話していた彼女が今“他人”のように聞いているのだ。
「ラクス、アスランです。アスラン・ザラ。お忘れですか?」
ラクスはアスランの名を聞いても知らないというような顔をして首を傾げている。
「ちょっとここで待ってて下さい、お願いします」
「あ、はい。よろしいですよ」
アスランは急いでキラに連絡をする。コール音が鳴る。しばらくしてキラがでる。
「キラ!ラクスが……」
「ラクス!?どこにいたの!!」
アスランが言い終わらないうちにキラの大声がアスランの声をかき消す。そのあとキラが静かな声で聞いてくる。
「……ラクスと会ったの?」
「あぁ」
「ラクス、アスランの事なんでか覚えてないんだ。僕じゃあラクスを助けられない。……もう君しかいないんだよ」
半分泣きそうなキラの声。少し会話をして切り、ラクスの元へ戻る。
「キラが心配していましたよ」
「キラが?なぜ私はこんな所まで裸足で走ってきたのでしょう?」
「とりあえず俺の家へ行きましょう」
ラクスを抱き上げ歩いて行こうとする。ラクスは真っ赤になりアスランを止めようとする。
「裸足の女の子を歩かせちゃダメでしょう?」
「シャワー、ありがとうございます。……えーと」
「アスランです、ラクス」
ラクスはアスラン宅でシャワーを借りアスランの服を着ていた。
「アス、ラン様……。ありがとうございます、アスラン様」
アスランの名を繰り返し改めてお礼を言う。
「いえ、その“様”は付けなくていいですよ。なんか照れくさいですから」
「でも初対面のかたですし……」
『ラクスー!!』
突然ラクスに向かってピンク色の丸い物体が向かってきた。ピンクハロである。
「なんですね?かわいいですわ」
「……ハロの事も忘れてるんでしね」
「え?」
アスランは少し小声で言った。ラクスに聞こえる程度に。
「歌を唄って下さい。“平和の歌を”……」
「はい……」
ラクスは息を吸って歌う姿勢をとる。しかし歌い出さない。変わりに涙が出る。
「あなたに歌を求めてもらうのは初めてですね。でもあなたの胸をえぐるような事はもうできません。私の歌を“聞けない”理由があなたの口から聞けなくても私にはわかっていたから」
「ラクス、記憶が……」
「はじめからあなたを忘れるなんて事できませんわ。でもこの思いがあなたを困らせるなら忘れたふりぐらいできましょう。ごめんなさい、アスラン」
ラクスは静かに立ち上がり玄関に向かう。
「ラクス!俺は君の事が好きだ。きっと君と同じ“好き”だと思う。でも君は“友人以上の好き”だと勘違いしてる。本当はわかってるんだろ?歌で自分を昔に縛っていてはだめだ」
アスランはラクスには近づかず告げた。ラクスはその場で歌いだした。かつてアスランのために祈り、自分のために叫んでいた歌を。今は涙を流しただ歌う。自分の気持ちのままに。
一人、家路を辿るラクス。愛しいあの人への元へ。水の証を手にもう終わっていたハツコイに別れを告げる。
―この想いは決して錯覚ではなかった。
本当に愛してた。
でももう終わっていた恋……今度こそあなたの胸に飛び込む
壊れている私だけど受け止めてくれますか?
叫んでた
私の祈りの涙は“証”となり
叫びはやんだ…―
H14
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