あれは君が笑う過去
「繋がりなんて……すぐにできるんですよ」
昔自分が大切なあの人に言った言葉。
荒れた床を歩き、朽ちた階段を上がっていく。
今にも崩れそうでそれは自分に似ていると思った。
もう下る事ができない、崩れてしまった階段。
上がる事がいい事なのか。今何段目にいるかさえわからない。
「このまま崩れるかな……」
手摺に触れるとパラパラと崩れていく。
今立つ階段が崩れれば下に行けるだろうか。
きっと行けないだろう。
落ちるだけ。
残骸に埋もれて、形はなくなるだけ。
好意のはっきりとした言葉はもらえなかったし、言わなかった。
「好き、です」
聞かれるはずもない告白が口から出て、自分の耳に届く。
彼女から言葉を貰ったようで嬉しくて虚しかった。
いない。
どこにもいない。
繋がりの先が見えない。
「このまま落ちたら」
僅かに体を後ろに傾ける。
手摺を離せば落ちるだろう。落ちればいい。
「アスラン!!」
呼ばれていつの間にか閉じていた目を見開く。
息を吸う間もなく俺は落ちた。
「アスラン……?」
懐かしい人の声が聞こえる。
背中に暖かさを感じて涙が流れた。
「大丈夫ですか?」
俺の下敷きになった彼女の方が大変なはずなのに、彼女は心配してくれる。
見られたくなかった。
「こんな……」
「アスラン」
止まらない涙。
震える声。
後ろから抱き締めてくれる腕。
片腕が見当たらなくて、右手でその腕に触れる。
ないんだ。
腕も、君も。
「アスラン?」
腕を振り払い起きあがる。
見えない、君が。
ぼやけて見えないのは涙のせいなのか、それとも。
「アスラン」
「っ……」
視界を遮られ光を失い目の前は暗闇。
遮られた手のぬくもりだけの世界。
「アスラン……」
息がかかる。
唇にもぬくもりが広がる。
夢のような瞬間。
過去の君は笑っていて今の君は見えない。
過去の君は笑っているのに見えない。
きっと笑っていただろうという俺の想像。
「 」
自然と出る言葉。
過去の君は振り返る。俺の知らない君。
「行こう」
両目を塞いだいた手をとり、握る。
「はい」
そう答えて、君は笑った。
繋がりなんてすぐにできる。
たとえ、縋っていた左手の小指がなくても。
今は無い左側が軽いも重い。
たとえ、呼ぶ名前がなくても。
君は俺の中に。
俺は君の中に。
繋がってる。
繋がる先にいる今という未来の君。
そして繋がっているあれは君が笑う過去。
H18.2.23
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