小さな願い 大きな心


 


―君にこの言葉をいえるだろうか
今の自分では言えない言葉
そのあとが怖いから
言えないだ
願いは大きいようで小さく
反対に心は小さいようで大きい
どうしたら君に……―



「はい……うわぁっ!?」

キラは自分の家の玄関のドアを開けた。
開けた瞬間目の前には誰もおらず下をふと見ると信じ難いものを目にし、思わずドアを閉めた。

「ど、どちら様でしょうか!?」

どもりながらドアの向こうにいる人物に問いかける。

「見ればわかるだろ……昔は一緒にいたんだから」

少し幼い少年の声が聞こえキラは再びドアを開けた。
背丈の小さな訪問者を凝視する。

「アスラン……の子供?」
「こんな大きな子供がいきなり現れるわけないだろ!」
「隠し子かもしれないし。で、何でそんなちっちゃくなってるの?」

簡単に信じてくれたようで小さなアスランは拍子抜けした。
ここまで来るのにどうしたら信じてもらえるか考えてきたからだ。

「アスラン?」
「……それが、わからないんだ。今朝起きたらいきなり体が縮んでたんだ」

だいたい8歳ぐらいだと推定されるアスランは眉間に皺を寄せ考えこんだ。

「あ〜しゅらん」
「わっ……な、なんだよ」

いきなり屈んできたキラに抱きつかれる。
体格の差は明らかですっぽりと腕に収まってしまうのが変な感じに感じていた。

「何か僕よりちっちゃくないと可愛げあるよね」

キラはアスランの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「ちっちゃくても今は特に問題ないし明日には戻ってるかもしれないよ?だから」

キラは途中で言葉を切り、アスランの額に拳をかざした。

「そんな考えこまない!」
「わっ」

キラにでこぴんをおみまいされアスランは後ろによろける。

「まあ、大丈夫ですか?」
「「え?」」

突然の声に二人は同じ方向を見上げ、声がかぶった。
よろけたアスランを支えていたのはラクスだった。もちろんいつものラクス。

「ラク……ふっ、ぐ」
「あはは、どうしたのラクス?」

キラはアスランの口を押さえラクスからアスランを奪いとるように引き寄せた。

「アスランの家に行きましたらアスランがいませんでしたのでキラのところにいるのかと思って来ましたの」
「あぁーそうなんだ」

笑いながら答えるキラ。アスランにはその笑顔が企んでいる笑顔だと確信した。

「さっきまでここにいたんだけど用事があるってどっかに行っちゃったんだ」

言い訳をするキラにアスランは少し安心した。
もしや包み隠さず“これがアスランだよ!”と言い兼ねない。
ラクスに隠す必要もないがこんな情けない姿を見せるのは抵抗があった。

「そうなのですか」

アスランとすれ違ってしまったせいか声のトーンが落ち落胆するラクスにアスランは心が痛んだ。

「僕、今から出かけなくちゃいけないからもしよかったらこの子預かってくれないかな?」

言いながらアスランをラクスへ差し出すキラ。
アスランは何が起こったかわからずに呆然としていた。

「この子は……?」
「アスランの遠い親戚で、従兄弟の叔父の妻の働いている仕事場の上司の息子の嫁の従兄弟なんだ。迷子らしくてアスランが連絡取りに行ってるからその間だけさ」

それは遠いどころか他人だろとツッコミたくても、屈んだラクスに至近距離で見つめられてできない。
アスランは思わずラクスから目を逸らしてしまう。

「初めまして、ラクス・クラインですわ。え〜と……」
「アスランだよ」

キラが出した名前にアスランはまたもや驚いた。

「え?」
「ほら、遠い親戚だから名前かぶっちゃったらしいんだ」

笑顔で少し無理な嘘をつくキラ。

「アスランと一緒のお名前なのですね。よろしくお願いしますわ、アスラン」

しかしさすがラクス。持ち前の天然でキラの嘘を受け入れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さぁどうぞ」
「……どうも」

ラクスに連れられアスランはアスラン宅に連れてこられた。
キラにアスランの家で待っててと言われたからだ。
ここまでの道のりをラクスと手をつないできたアスランは何ともいえない気持ちになっていた。いつも上から見る彼女を見上げる違和感。手をひかれる違和感。アスランにとってその違和感が嬉しいものだった。

「どこで待っていましょうか」

ラクスはぱっと明るい顔をしてアスランの手をひき階段をあがっていった。

「アスランの部屋で待っていましょうか」
「えぇ!?」

色々とまずいものが置いてあるのかアスランは思わず驚いてしまった。
止める暇もなくすぐに部屋へついてしまい、ラクスは慣れたように扉を開けた。

「……あれは」
「あっ」

ラクスは入った瞬間に何か気になったのか、アスランの手を離しラクスは机へと近づく。

「私……?」

ラクスが手にとったのは自分が写っている写真だった。
ラクスの寝顔がアップで撮られている。
ちらかっている机をもう一度見ると束になっている写真を見つけた。
アスランは止めることも声をかけることができず恥ずかしい思いをしていた。

ラクスは写真の束を手にすると一枚一枚見始めた。
何枚写真を見てもラクス一人だけが写り半分のものがラクスの目線が正面ではなく違う方向を向いていた。
撮られた記憶もないラクスはいつのまにか撮っていたのだろうと首を傾げる。
ハロと遊んでいるところやあくびをしているところ、花に水をあげているところ様々なラクスがそこにはあった。

「アスラン……」
「どうしたんですか!?」

写真に顔を突っ伏してしまったラクスにアスランは慌てて声をかけた。小さい事なんて一瞬忘れて。
アスランが近づくとラクスは何も言わず肩を震わせ静かに泣いていた。

「……写真が、嫌だったの?」

アスランは泣いている理由をできるだけ子供らしい話し方で聞こうとした。些か不自然には感じたが。
アスランの問いかけにラクスは顔を突っ伏したまま首を横に振った。

「一言いってくだされば私は……」

ラクスが見ている写真を見るとそこにはアスランの字で“俺のものにで”と殴り書かれていた。続きを書こうとペンを置いたあとはあるものの書けないでいたのか続きの字はない。

「泣かないで下さい」
「アスラン……今気づきましたけどアスランに似てますわね」

ラクスは泣き顔で笑い、屈むとアスランの頬触れた。

「きっと将来かっこよくなりますわ、アスランのように……」
「ラクス!」

アスランは小さな体でラクスに抱き着いた。抱きしめたいのに短い腕では包むというよりはしがみつくようになってしまう。

「どうかしましたの?」
「俺は貴女の事が」

ラクスの腕を背中に触れ優しく撫でられる。その感触にアスランは言葉に詰まってしまう。

「アスランは好きな子がいますか?」
「え?」
「もし好きな子がいたならすぐに思いを告げて下さい。手遅れにならないうちに……タイミングを逃すと進みにくくなってしまいますから」

きっと微笑んでいるのだろうと思う。だけどどこか寂しそうな声音にアスランは更に強く抱き着いた。

「俺が好きなのはラクスです」

少しの間のあと、ラクスはアスランの頭を優しく撫でた。

「気持ちはすごく嬉しいですわ。けれど私は側にいたいと願う人がいます。だから、ごめんなさい」

ちゃかした返事ではなく真面目にはっきりと返してくれた言葉が嬉しくもあり悲しくもあった。
アスランはゆっくりと腕の力を緩め、ラクスから離れ部屋のドアを開ける。

「どちらへ……」
「帰るよ。たぶん待っていてくれる人がいるから」

アスランはラクスへは振り返らずに小走りで自分の家を出た。

「ちょっと揺れましたわ」

自分をちゃかすようにラクスはひとりごとを言った。
玄関の目の前でアスランは座りこんでいた。頬には一筋何かが流れたような跡が残っている。

「フラれちゃったな……」

―小さな俺―

「一度フラれようが二度フラれようが同じだ」

―願いは願うだけで終わらせちゃいけない―

「よし!」

―心と願いは比例すればきっと成り立つから……結果はわからないけど―

アスランは自分に渇をいれるように両頬を叩き再び自分の家のドアを開けた。
今度はありのままの自分の姿で。

「ラクス」

アスランは自分の部屋のドアを開けるなり呼びかけた。しかし返事はない。

「……ラクス?」

部屋に入ると自分のベッドに呼びかけた人物が寝ていた。

「寝ちゃったのか……」

起こさないようにベッドの端に腰掛ける。目線に違和感を感じていたが自分が元に戻っている事にやっと気がついた。
再び家に入ったあたりから目線が高くなった気がする。
結局何だったのかはわからないが今はそんな事を考えている暇はない。

横向きで寝ているラクスの髪をかきあげアスランはラクスを見つめた。

「……襲いますよ?」

小声で呟くがラクスは無反応で寝息をたてていた。

「いつも紳士でいようと思っていました。だけどやっぱり俺も男ですから……貴方を俺だけのモノにしたいんです」

自分で言って何だか恥ずかしくなりアスランは頭を掻きながら顔を下に向けた。

「私はいつでもアスランだけのモノになりたいですわ」

顔をあげると先ほどまで目を瞑っていたラクスはぱっちりと目を開けアスランを見ていた。

「聞いてたんですか!?」
「はい。“襲いますよ?”あたりから」

アスランの真似をして微笑むラクス。
アスランは血の気がひいた。

「アスランは私の事どう思っていますか?」

まっすぐ直球に聞いてくるラクス。アスランは一瞬とまどったが精一杯の直球で返す。

「好きです。伝えたいけど苦しくて、ずっと見ていたいほど、好きです」

恥ずかしくて自分でも顔が火照っているのがわかった。けれどラクスからは目をそらさない。

「私もアスランの事好きですわ。大好きです」

するとラクスのめいっぱいの笑顔と広げられた両腕がアスランに差し出された。

「ですから……」

少し言いにくそうにするラクスをアスランは不思議そうに見る。

「襲って下さい」
「えぇ!?」

ラクスの突然の襲って下さい宣言に異常なほどアスランは驚いた。

「やはり私なんかじゃだめですか?」

こんな事を言われて耐えられるわけがない。
アスランはラクスに覆いかぶさると額に唇を落とした。

「俺の“襲う”は半端ないですよ?覚悟して下さいね」
「はい、頑張ってアスランについていきますわ」

どこかズレているラクスの返答にアスランは笑いラクスの唇にキスをした。


―本当は願いだけが先走ってたのかもしれない
願いが募ってできた大きな心
元は臆病な小さな心
だから小さな心のまま小さな俺になった
俺だけの君を
君だけの俺を
そんな世界を
そんな未来を
俺は願っていた
もしかしたら願いが実る日が来るかもしれない、と
先走らずゆっくり考え実らせていこう
タイミングは逃さずに
ただありのままで…―


H15.冬執筆物
H22.3 加筆修正



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