あやふや純愛論
「髪をおろしてる事が多いんですね」
ふと思って言ってみた言葉。
あまりそういった事に疎い自分でも思った。
「そういえばそうですわね」
何か理由があると思ったのだがそうでもなかったらしい。
「それで会話終わっちゃったの?」
「乙女心も何もわかってない!」
「わかったらアスランさんじゃないですよ」
三人ともティーカップに手をかけつつ飲まずにそんな事を言ってくる。
「貴様はそんなだから“へたれの象徴”と言われるんだ」
「言われてない!!“おかっぱの象徴”に言われたくない」
「髪型を馬鹿にするのかっ!」
立ち上がり言い合いを始めた俺とイザークの間にキラが入る。
まあまあと落ちつかされ仕方なく座る。
「別に変な会話じゃないだろ」
「でも何か引っ掛かったから僕達に話したんでしょ?」
本当はキラだけに言うつもりでキラを訪ねたのに、そこには何故かイザークとシンがいた。
キラが面白がって呼んだとしか思えなかったがあえて聞こうとは…聞く勇気はなかった。
「イザークの髪を見て何か思わない?」
「……おかっぱだなぁと」
「貴様ぁ!」
殴りかからんとするイザークをキラが止める。
「何かしたい事とか……」
「ばっさり切りたい」
「アスラン、お前は俺に喧嘩を売ってるんだな。売られたなら俺は買うぞ。釣りはいらん」
怒鳴るのも疲れたのか落ち着いて言ってはいるが明らかに怒っている。
そんな俺達を見てキラは小さくため息をつき、先ほどまで傍観していたシンに話を振る。
「シンならその長めで邪魔な前髪を好きな子に結ばれたい?」
「何か引っ掛かるんですけど。まあ別に怒る事もしないです。そのまま外には行きませんけど」
キラが俺に何を言いたいのかさっぱりわからない。
俺も前髪を結べばいいのか?いや、ラクスに結んで下さいと頼むのか?
全くわかっていないでいるのがわかったのかキラは言った。
「髪を結んでいる間は……」
「ラクスっ」
「はい」
「か、髪を……」
俺が言えずに顔を俯かせているとラクスに何かを差し出される。
ポケットティッシュ。
「それならここにありますわ」
“かみ”違いです、ラクス。その間違いすら可愛い。
にっこりとティッシュを差し出され受け取り鼻をかむ。
「ありがとうございます」
「いえ、また必要でしたら言って下さいね」
って違う。
ただ一言言えばいいだけじゃないか。
ラクスならきっと受け入れてくれる。
ちらりとラクスの目から視線をそらし長い桃色の髪を見る。
ふわりとしていて流れる髪。
「アスランは長い髪はお嫌いですか?」
「えっ!?いえ、あのっ」
いきなり髪について触れられ驚きちゃんと会話ができない。
我ながら情けない。
キラの微妙な笑い、イザークの怒鳴り声、シンの呆れたため息が頭に浮かぶ。
「ずっと長いですから切ってみるのもいいかもしれませんわね」
ラクスは微笑み、手で毛先を掬い取る。
「す、好きです!ラクスの長い髪」
俺の発言にきょとんとするラクスの視線が妙に恥ずかしさを煽る。
「だからその……ラクスの髪を結んでみたいと思って」
段々と語尾に近付くにつれ小さくなる声、俯く顔。
どんな反応をされるか緊張してしまう。
「……お願いしてもよろしいですか?」
俺は顔をあげて嬉しさのあまり大きな声で返事をしてしまった。
「アスランは手先が器用ですわね」
「そうですか?」
少ししてできあがった左右の三つ編み。
ラクスはどんな髪型でも可愛いし綺麗だと思う。
「実はイザークの髪を練習台にしたんですよ」
「まあ、そうなのですか?」
苦笑してその時の事を簡単に説明する。
簡潔に言えば初めは見る目もなくぐちゃぐちゃでイザークは怒り、何回もやり今の状態になった。
途中シンにもう無理だ才能がないとまで言われて半ば意地になっていた。
「私も見たかったですわ」
「もう色々すごくて……」
ラクスの笑いの中俺はため息をついた。
でもラクスの嬉しそうな笑みでそれも吹き飛ぶ。
「髪を編んでいる時はずっと触っていられるんで頑張りました」
なんて口にしてから恥ずかしい事を言った事に気がついた。
「す、すみません……変な」
言葉の途中で唇にラクスの人差し指があてられ遮られた。
「嬉しいですわ。私も……」
ラクスはふわりと俺に抱きついた。小さな言葉で言われたその言葉が嬉しくて、でも壊れないようにラクスを抱きしめた。
理由もなくずっと触れ続けるにはまだ距離が足りなくて
理由があってもまだ気恥ずかしくて
いつかそんな事もわからなくなるくらい
めちゃくちゃに君を抱けたらと
まだ気付かぬ自分が思う
薫る君が
ふわりと舞い降りて
俺を結ぶように
告げる俺が
ぎゅっと連れ出して
君を繋ぐ
それはまだ
あやふやな留め具
語れるぐらい
道具を使わず
君に触れるのも
そう遠くないはず
H18.2.26
book /
home