1章 crisis


 


○はじめに○
時代パラレル同様何時代なのかよくわからないパラレルとなっています。
趣味突っ走りな吸血鬼ネタ交えのパラレルです。
CP要素はないに近く若干アスラク(アス→ラク)がある程度です。
登場キャラはアスラン、ラクス、アウル、ステラ、キラ、カガリ。この章では名前が出てこないキャラ二人。赤目で黒髪の彼と桃色髪少女にそっくりな彼女です。
以上を了承いただけましたらおすすみください。



「次はこんな寂れた街ー?」
「素敵な街ですわ」

とある街に入る手前。水色髪の少年が不満そうにぼやいた。
そんな少年とは裏腹に桃色の長い髪の少女は楽しそうにほほ笑んだ。
二人とも黒い衣服に身を包んでいる。

「来た事あんの?」

少年は聞くが少女は微笑みを向けるだけで何も言わない。

「いっつもそーだよなー……うわ」
それ以上聞く気がないように言うと冷たい風が吹き抜けた。

「あらあら」
「あらあらじゃないだろー。だからちゃんと着とけって言ったんだよ」

風に吹き飛ばされた少女の黒いコート。
少女はさほど慌てた様子もなく飛ばされた方へ顔を向けていた。

「取りに行ってくるから〜…あそこの建物ん中で待っててよ」

開いてそうな建物を見つけ指をさす。少女が頷くと少年はコートが飛ばされた方へと走って行った。
少女は少し古びた建物の扉をゆっくりと開いた。
使われていない礼拝堂のようだ。
掃除をしていないせいか埃がすぐに目につく。

「私達にはぴったりの場所、といったところでしょうか」

楽しげに笑うと礼拝堂へと足を踏み入れた。
奥まで行くと膝を床につき、両手を組むと瞳を伏せた。

祈りは
どこへも
行けはせずに
自分の中に留まる
叶えるは自身
全ての世界は自分
祈る先もわからずに
何に祈るというのか

紺碧髪の青年が礼拝堂の扉を開くと、そこには白い服を着た少女がいた。

「こんにちは」

両膝を地に付き、祈りを捧げていた少女は振り返り挨拶をした。

「見ない顔ですね」
「先ほどこの街に着きましたの」

青年は少女に近付き、膝を付いたままの少女に手を差し延べた。
少女はにっこり微笑みかけその手を取り、立ち上がる。

「こんな辺境の場所に何か用事が……?」

何か特色があるわけでもない寂れた街。
逃げ込むにはいい街だが、普通の人間が来るような街ではない。
少なくともこの街で生まれ育った青年、アスラン・ザラはそう思った。

「はい」

見た目からは罪人にも見えない、化け物の類いでもない。むしろ美しいとさえ思う。

「そうですか……何かと物騒ですからお気をつけて」
「ありがとうございます」

このまま見つめていれば、その瞳に囚われてしまいそうな感覚に陥り慌てて顔を背けた。
一人でこんな街に来たんだろうか。
そんな考えが浮かぶ。何故名前も知らぬ出会ったばかりの少女がこんなに気になるのか。
白黒の世界。
扉を開けたらそんな世界に鮮やかな色があったからかもしれない。
腰まで伸びた桃色の髪。血色が良く柔らかそうな肌。微笑めば花のよう。存在自体が色々な色を持ち合わせているよう。

「お一人……なんですか?」

おかしなまでに緊張しながらも少女に聞いた。

「いえ、もう一人……」
「ラクス!」

少女の言葉が言い終わらないうちに礼拝堂の扉が勢いよく開かれた。
ラクスと呼ばれ少女は扉の方を見た。
さほど年の変わらなさそうな少年が足を踏み入れる。水色の髪が少し跳ねていて幼く感じさせる。

「アウル、見つかりましたか?」

アウルと呼ばれた少年はアスランを睨むように見るが、手にしていた物をラクスへと渡す。

「飛ばされんなよなー。中は白で目立つんだから」
「気をつけますわ」

アウルが怒りながら言うが少女は笑って返し、物を受け取った。

「それでは私達は行きます」
「あ……はい」

受け取った黒いコートを羽織りラクスは扉へと向かった。
それを羽織っただけなのに彼女を見失ってしまいそうになる。
連れだと思われる少年も黒い衣服だった。
自分達を隠しているかのように思わせるその服がアスランの中で引っ掛かった。

「貴方のお名前をお聞きしてもいいでしょうか?」
「ラクス、何言って……」

ラクスはアスランへと振り返った。アウルが何か言いたそうだがラクスの手に制され口を噤んだ。
変わらぬ笑み。それがアスランを咎めた。
名前を教えてはいけないんではないかと。

「……アスラン・ザラです」

それでも目の前にある鮮やかな存在に偽る事はできなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「アスラン……お仕事」
「こんな遅くにか?」

日付も変わりかけた時刻に訪ね人。誰かと思い扉を開けると、黄色の髪の少女がいた。

「すぐそこで……襲われた」

仕事だと訪ねてきたのはステラ・ルーシェ。アスランの仕事の助手をしている。
ステラの父に頼まれ、仕事を手伝ってもらっているが危険極まりないためあまり関わってほしくはない。
ステラの父も娘の安全を保護してほしいために自分に頼んだのだから。

「被害は?」

部屋に戻り、仕度をしながら仕事内容を把握する。

「二人。血がなくなって、首に変な跡があった……」
「あった、って現場に行ったのか!?」

アスランの驚きにステラはコクンと頷く。
アスランはため息をつくが準備が終わりあえて何も言わず扉へと向かった。

「ステラは来るな。わかったな」

ステラに言いつけるように言うと扉を勢いよく閉めた。

「嫌な月だな……」

新月を見上げアスランは呟くと、暗がりの街を走り抜けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「早く帰らないとキラに怒られるな」

時刻を確認すると金髪の少女、カガリ・ユラ・アスハは足を速めた。

「ん?どうかしたのか?」

人通りが少ない道で人影を見つけた。二人。
一人は息が荒く震えて座りこんでいる。
もう一人はカガリに振り返った。

「大丈夫ですわ」
「そうか?私の家がすぐ近くにあるんだがよかったら」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですから」

少女は微笑みそう言うが顔を伏せている少年らしき人物の様子は尋常ではない。

「でも……」
「大丈夫です」

微笑んで言う少女にカガリはそれ以上何も言えなかった。

「あ、アスラン」
「キラ、お前も来てたのか」

やじ馬の人だからを書きわけ騒ぎの中心に来ると見知った人物がいた。
キラ・ヤマト。アスランと共に仕事をしている。

「こんな時間なのに凄い人だな」

普段こんなに人が集まる事などない。街のほとんどが集まったんではないかと思えるほど。

「こんな事があったんじゃ騒ぐよ」

キラは苦笑いを浮かべながら背で遮り隠していたものをアスランに見せるようにした。

「……そうだな」

すでに息がない人間が二人。二人共男性だ。
瞳は閉じられているが口は半開きで唾液が流れたあとがあった。

「目を伏せさせたのはキラか?」
「せめて、ね」

そうかと返すと体の温度を確かめるため腕に触れた。
気温が低いせいもあるのか酷い冷たさだった。

「目撃者は?」
「一時間前に接触した人がいるだけで被害時の目撃者は今の所いない」

一時間でこんなに冷たくなってしまうものだろうか。

「首に痕があるんだ」
「痕?」

そういえばステラもそんな事を言っていた。
確かに二人共首に変な痕がある。
何かが食い込んだような痕が二つ。

「血が抜かれたんだったな」
「うん。多分人間じゃないね」

多分でなくても確実に人間の仕業ではない事は明確だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「今回の報酬は協会から出るって」
「今から報酬の話か?」
「それで食い繋いでるからね」

確かにそうではあるが人が亡くなった事件で報酬の事を考えるのも気が引けた。
殺人となればそれなりの額にはなる。
犯人はつかまえなければならない。それでも殺人だからと額が大きくなる仕組みに納得はできていない。

「難しい顔……お茶飲んで」
「ああ、ありがとう、ステラ」

アスラン宅にて昨日集めた情報をまとめるためキラが訪れていた。
ステラは助手のためこういった時はアスラン宅へと訪れる。

「とりあえずわかったのは被害者はこの街の人ではなく昨日訪れたばかりだという事」
「そうみたいだな」

青白く顔がよくわからなかったと言っても小さな街だ。街の人かそうではないかぐらいはわかる。

「でも何で昨日来たとわかるんだ?」
「それは〜」

キラは自分にお茶を差し出したステラを見た。
ステラは首を傾げるがすぐに何かに気がついたように頷いた。

「昨日、歩いてたら聞かれたの」
「何をだ?」
「“吸血鬼を知らないか”って聞かれたんだって」

キラの言葉に目を見開く。嘘のような言葉。でもキラの表情が嘘ではないと物語っていた。

「確かに人間ではないかもしれないと思ったが……」

“なんでも屋”の仕事をしている手前色々な仕事を請け負う。
迷い猫を探したり、畑をカラスから守ったり、家の修復をしたり。時には殺人関連のものも扱う。
過去に人間相手ではない事件もあった。だが今回は被害から見て信じ難いもの。

「吸血鬼は何年も前に討伐されたはずだ」
「そうだね。僕もそう聞いた。でも」
「キラ!あっと、取り込み中だったか?」

重い空気の中、部屋の扉が勢いよく開かれた。
自分を見る面々の驚いた視線に気がつき、ばつが悪そうに笑む。
そんな様に重かった空気が少し軽くなり自然と笑みが浮かんだ。

「ううん。どうしたの?」
「街中に犯人は吸血鬼だって噂が流れてるんだ。もういないはずの……ん?」

驚いた視線の次はため息をつかれカガリは少し慌てる。
キラは椅子から立ち上がるとカガリの頭を軽く二、三度叩いた。

「本当カガリって的はずれじゃないというか何ていうか」
「そうだな……」
「笑い担当?」

三人が言っている意味がよくわからずカガリは三人の顔を見回した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ん……朝?」

薄く目を開けると光が見え、目を擦る。

「ラクスずっとこうしてくれてたんだ」

寒いと感じるのに体が暖かいと思い目を開くと目の前にラクスの顔があった。
壁によりかかりながらアウルを抱き瞳を閉じている。

「コートは?あ、かけられてる」

ラクスの服が白い事に気がつきコートがどこにあるか探そうとするが、自分の背にかけられいた。

「あのまま寝ちゃったのか」

寝床を探し街を彷徨い、結局古びた礼拝堂で一晩明かした。
暖房器具もないため寒い。それでなくとも寒い地方なのに。

「あったか……」

起き上がろうとはせずそのままの態勢でラクスに抱きついた。

「必ずここにいる」
「はずれたらどうするの?」

街の入口に少年と少女が佇んでいた。
赤い瞳に黒髪の少年。長い桃色の髪を風に靡かせ少年に微笑む少女。

「はずれないっ」

半ば意地ともとれるその言い方に少女は笑った。

「ここにいたとしてもまた逃げられたらどうするの?」
「悪い事ばかり言うなよ〜」
「でも悪い事も考えなきゃ、そうしたらきっと」

少女の言葉に頷くと街を見据えた。人通りが少なく寂しい街。

「もう逃がさない。今度こそ殺してやる」

両手を強く握りしめ少年は街へと踏み出した。
少女もそのあとをついていくように街へと入る。
黒いロングコートを纏った二人は名も知らぬ街へと踏み入れた。


★1章 完★

H17.8.18




book / home