宵待ちの花
「もうお帰りになりますの?」
「はい、もう暗くなりますから」
そう言ってアスランは私から顔を逸らし、斜めに空を見た。
いつも夕刻になると帰る婚約者。短くとも長くともない時間一緒にいるのだから、もう少しだけ一緒にいたいと思う。
「また近いうちに来ます」
私も彼もすぐには会えないとはわかっていても互いに“近いうちに”と口にする。
「はい」
私が頷くと彼は複雑そうな表情の中笑んで車に乗り込んだ。
車が見えなくなるまで見送ろうとその場にいると車の窓が音を立てて下に下がっていく。
「あのっ」
窓から顔を覗かせ何かいいたそうに呼び掛けられる。
近寄ると彼は一瞬口ごもり、気恥ずかしそうに言った。
「はぁ……」
自室の窓を開けてため息を吐いた。
“今夜はきっと満月ですから……部屋から見てみて下さい”
別れ際の言葉。
何を言われたいのかもわからないのにため息が出る。
彼が言った通り今夜は満月。綺麗で優しい光が風と共に体にあたる。
“近いうちに”
それはこれからあるのでしょうか。
それとも今のこの距離が貴方との精一杯?
いつかは近くとも遠くなってしまうのでしょうか。
私は月ではなく貴方を待っているのに
「アスラン……」
「はい」
いるはずのない人の声。
下を見ると私の部屋まで上ってきたアスランがいた。
「夜遅くにすみません」
「どうしてっ……危ないですから中に」
私が手を差し出すとアスランは笑い、手を取らずに何かを差し出した。
「百合……ですか?」
「ラクスに差し上げたくて」
「それなら昼間でも」
「夜に会う理由が欲しかったんです。迷惑でしたか?」
問い掛けられ首を横に振った。涙が出そうになり声が出ない。
ただ会いたいと貴方も思ってくれたのなら
私は……
「受け取っていただけますか?」
まだ理由がなければ会えない距離。
それなら受け取ってしまったら彼は帰ってしまう。
戸惑ってしまえば彼が誤解してしまうかもしれない。
「はいっ」
「ラク……」
両手でユリを持つアスランの手を包み、彼を引き寄せ唇で唇に触れた。
「理由なんていりませんわ」
“近いうちに”
この距離はいつか壊れるものと
願っていた
貴方の中の私が夢の中であるように
私の中の貴方も夢の中にいるのだから
まだ夢の途中
月は起きずに終わりはやってくる
始まりのない終わりは始まりを呼び
私は赤に染まる
今はもう少しだけ
現の夢で
貴方を待っている
※続き話【Cursed Lily】
H18.4.23
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