番外編×章 without cause
○はじめに○
この話は吸血鬼パラレル幻想祈叶の番外編となっています。
シンとミーアばかりの話でシンミー要素有りです。
相変わらず場面転換が多く読みにくく、展開も無理やり感があります。
幻想祈叶のネタバレ要素があるためこの章からの閲覧はお勧めできません。
以上を了承していただけましたら次ページにお進み下さい。
「シン・アスカ、君は協調性というものがないのか?」
「ある……つもりです」
男性は椅子から立ち上がると机を両手で叩いた。
その音にシンは驚き一瞬目を閉じた。
「つもりじゃ駄目なのはわかっているだろう!」
もう何度となく聞いた言葉。こんな事を言われるためにココに入ったわけではないのに。
「シンまたお小言か〜?」
「うまくやれよ」
散々説教のようなものを食らったあとに同僚がからかうように話しかけてきた。
と言ってもシンと同じ年の人間はいない。若くて20。20代半ばがほとんどだ。
「うまくやれたらこんな事になってませんよ」
そりゃそうだと笑いが起こる。これもいつもの事だとシンは流していた。
「ちょっと!離してっ」
ここにあまり女性はいない。事務等でいる事はいるがここに来る事はない。
なのにこの場所には似つかわしくない女性の声がした。
「吸血鬼……?」
「捕らえたんだな〜凄いわ」
「死刑かね?」
シンが声がした方を振り返ると何度も目にした女性……少女がいた。実物を見るのは初めてだ。
同僚が横で何か言っているが少女の声以外何も耳に入らない。
何人もの男に囲まれ逃げようと必死になっている。
「やめろよ」
どうして自分が立ち上がってそんな事を言ったのかはわからない。少女があまりにも泣きそうで怖がっていたかもしれない。
「お前吸血鬼を殺すために此所に入ったんだろ?」
「じゃあ止めるなよ」
近付いてきたシンを男達は一瞥するとそう言った。
そして少女を奥へと連れて行こうとする。
「離してったら!違うって言ってるじゃない!」
「あっ!何するんだ!」
「処罰されてもしらねぇぞ!」
シンは少女を掴む男達を殴り倒し、少女の腕を掴んだ。
「な、何?」
「いいから走って!」
シンは建物の出入り口へと走り出した。少女は足がもたつくがすぐに走り出した。
「シン!うまくやれって言ったじゃないか」
同僚が止めようと言葉をかける。しかしシンは止まらずに笑みを浮かべながら言った。
「うまくやろうと思ってませんからっ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はい」
「……ありがと」
町外れまで来るとシンは少女を待たせ、飲み物を買いに行った。
余裕がある行動といえばそうかもしれない。水分がなければ動けない、そう思ったからだ。
冷たいお茶が入った紙コップを差し出すと座りこんでいる少女は遠慮がちに受け取った。
受け取るが飲もうとはしない。
「別に毒とか薬とかは入ってないよ」
そう言っても飲もうとはしない。
「…ったく、仕方ないな」
シンは少女の隣に座ると、コップを持つ少女の手を掴み中身を飲んだ。
「これなら安心して飲めるだろ?」
「変な人」
呟くとコップに口をつけ中身を飲んだ。
「あんたを連れだしたんだ、立派な変な人だよ」
自分でも自分の行動の意味がよくわからず苦笑した。
「……ミーア」
「は?」
「“あんた”じゃなくて“ミーア”だって言ってるの」
“あんた”といわれた事に怒ったのかミーアと名乗った少女を少し頬を膨らませていた。
その光景が面白くてシンは吹きだして笑った。
「ちょっ!?面白い事なんて言ってないじゃない!」
更に怒るミーアにシンは笑い続けた。
「何……?」
笑っていたシンが笑みを消しこちらを見た事に緊張が走る。
「本当の名前、だよな?ミーアは吸血鬼じゃないよな?」
自分の行動の意味が
わからなかった
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ミーア・キャンベルと名乗った少女は不死の吸血鬼、ラクス・クラインと瓜二つだった。
ラクス・クラインは吸血鬼の資料に載るほど有名な存在だ。
だからミーアは捕らえられた。
別人だと言ってもその容姿で聞き入れてもらえるはずもなかった。
「ごめん」
「来た早々謝らないでよ」
いくら協会に訴えても言葉は聞き入れてもらえず、ミーアは協会の牢屋へと入れられていた。
通信機をつけている以上すぐに見つかるとあのあとすぐに戻った。自分から戻れば幾分か事態は悪化しないかもしれないと考えたからだ。
「あのまま逃がせば……」
格子の中にいるミーアを見ていられず俯く。格子の中から手が伸ばされシンの腕に触れた。
「いいの、今までが地獄のようだったから。貴方が連れ出してくれたのが夢のようで嬉しかった」
笑みを浮かべてる彼女が痛くて、腕に触れた暖かさが痛くて。
「夢じゃ終わらせない」
「えっ……?」
腕に触れた手に自分の手を重ねていうとシンはその場から立ち去った。
「何を言ってるか、君はわかっているのか?」
協会の長とも言える老人を前にシンは頷いた。
どうしてこの老人がこんな協会を設立したのかはわからない。
でも自分の居場所はここだ。その場所で後悔はしたくない。
だからシンはある事を申し出ていた。
「君はまだ若い。だから事の大きさがわかっていないのだ」
「若いとか老いているだとかココに関係はないと思っています。ただ俺は俺として行動しているだけです」
「それが若いと言って……わかった。少しでも変な素振りを見せたらわかってるな?」
長を前にはっきりと言い、視線を逸らさない少年に老人はそう告げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「シン、最近見なかったな」
「ちょっとね、鍵貸して」
聞き覚えのある声が聞こえ、体を丸ませていたミーアは顔をあげた。
「何言ってるんだよ。許可がないかぎり……」
「許可ならとった。これが証明書。ほら貸して」
そんな会話が聞こえ金属がぶつかりあう音と靴音が近付いてくる。
「ミーア、夢見る時間は終わり」
「どうして……?」
久しぶりに見た少年。まだ名前さえ聞いていない。
鍵束から一つの鍵を鍵穴に差し込むと出入り口が開いた。
次に開く時は処罰が決まった時。
この少年からその処罰を聞くのかと思うと泣きそうなる。
「ミーアは今日から協会……ここで働くんだ。俺と一緒に」
言いながら手を差し出されその手をとろうとするが、その手は引っ込まれた。
「自分の手を汚す事になる。ここで朽ちた方がいいかもしれない」
悲しげな瞳の少年。ミーアは立ち上がり、引っ込まれた少年の手を掴んだ。
そして名前を聞いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうしてあたしは出れたの?」
「俺が協会への推薦入会とパートナー申請を申し出たからさ」
基本的に二人一組で任務を行うのが協会の決まりだった。
だがシンはすぐにパートナーとトラブルを起こしてしまい、パートナーがいない状態がほとんどだった。
「俺は一人でいたかったから」
「じゃあ何であたしを?」
「わかんない」
シンはそう言うとショーウインドウの前で立ち止まった。
牢屋から出たのち、ミーアの外出許可を得て町へと出ていた。
「わからないって……どうしたの?」
「服買わなきゃ」
シンは店屋を指さしながらあたり前かのように言った。
「コレ、ちょっと短すぎない?」
「そう?」
「下から見上げないで!」
よくわからず衣服屋に入る事になり、何も手にしないでいるとが何着かシンがミーアに渡した。
試着室に入り着ては見るがどれもスカート丈が短い。
ミーアは屈んで自分を見上げるシンの顔をはたいた。
「どうせコート着ちゃえばわからないし。すいませーん、コレください」
「それなら尚更格好は気にしなくても……ちょっと!」
「このまま着てくんでさっき着てた服を袋にいれて下さい」
勝手に会計をすませるシン。お金を持ち合わせていないミーアは何も言わず黒いブラウス、ミニスカート、ニーソックスを着用して店を出た。
「あたしを吸血鬼だとは思わないの?」
町中を歩きながらミーアはずっと聞きたかった事を口にした。
会った者はほぼ全員自分が吸血鬼だと罵った。
何度この容姿を呪ったか。だが亡くなった両親が最初で最後に自分に与えてくれたものを変える気にはなれなかった。
「雰囲気が違うんだよ……資料で見たラクス・クラインは圧倒される何かがある」
「勘、ってやつ?」
「違う、確信。ミーアは普通の子にしか見えないから」
“普通の子”と言われミーアは複雑に思った。それだけで自分さえ危ないのに助けたのか。
「そう……」
ミーアは俯いてそう答えるしかできなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はい、どなたですか〜?」
ドアがノックされベッドに寝転がりながら言うが返答はない。
協会から支給された住居。アパートの一室に住んでいた。
「訪ねたなら返事ぐらいしろよ……ミーア?」
ドアを開けると外は雨が降っているのかずぶ濡れのミーアが立っていた。
「入って」
シンに促され部屋に入るミーア。しかし何も言わない。
ミーアはシンとは別のアパートに住んでいた。と言ってもさほど離れていない。なのにあまりにもずぶ濡れだった。
「ずっと外にいたの?」
ミーアは口は開かず頷いた。
とにかくタオルをとってこようとミーアの後ろに行こうとするとミーアが慌ててシンの方へ体を向けた。
「後ろに何かあるの……?あっ」
シンは何かに気付きミーアの肩を掴むと後ろを向かせた。
「髪が……誰がこんな事」
腰まであった長い髪が後ろだけ肩近くまで切られていた。
ミーアは首を横に振るだけで何も言わない。
吸血鬼と同じ容姿。
そんな理由で協会に入った事を快く思わない連中がいる。
わかってはいたがこんな嫌がらせを受けていた事に気がつかなかった。
「気づけなくてごめん」
シンは謝るとミーアを抱き寄せる。ミーアはシンのシャツを握りしめると泣き出した。
しばらくしたのちシンは思いきった風に言った。
「本当はミーアは置いて行こうと思った。でも行こう、わからせてやるんだ」
ミーアは吸血鬼じゃないと。手を汚させたくはない。でも傷つくのも見たくない。
酷い事を言っているのはわかっていた。
「シンが一緒なら……行くわ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「明日ね」
歩いているとミーアが突然呟いた。
明日は吸血鬼討伐決行の日。生きて帰れるかはわからない。
でもミーアの心は酷く穏やかだった。
「怖い?」
「少し」
苦笑いに近い笑みを浮かべる。シンはそんなミーアの手を掴み握った。
「帰ってきたら何したい?」
突然の問い掛けにミーアは言葉が出てこないがすぐに笑みながら言った。
「シンの服をあたしが選んであげて、シンとお揃いのものを身につけたい」
「それ俺のセンスがダサイって言ってるみたいじゃないか」
ふてくされ顔のシンを見ながらミーアはくすくすと笑った。
「袖通すのは初めてだよな」
「そうね……」
協会の者の証である腕章がつけられている黒いロングコート。
袖を通すミーアをシンは複雑に思いながら見つめていた。
「そんな顔しないでよ。シンと一緒にいられるなら……いいわ」
ミーアはコートに袖を通し微笑んだ。
行かなければいけない。此所にいるために。
「シンはどうして外出する時はあのコートを着ないの?」
少し前に聞いた事。
協会にいる時以外は私物のコートを着用しているシン。
「何となくさ、着ていたくないんだ。自分からココに入ったのにおかしいよな」
そう笑ったけどその笑みは作ったもの。
シンがどうしてココにいるかはわからない。
聞いたら側にいられない気がして聞けなかった。
誰にも話そうとはしなかった。
もちろんココに入る時に話さなければいけなかったから必要最低限に話した。
家族を吸血鬼に殺された。だからココに入りたいと。
当時8歳だった自分がすんなり入れるわけがなかった。
訓練を受け10歳になり入会を認められた。
そして14歳になった今まで他人に自分の過去を言おうとは思わなかった。
「俺は吸血鬼を殺すためにココに来た」
戦場に行く途中にミーアに語った。ミーアは何も言わずに聞いてくれた。
話し終えると俺の頭を撫でて抱いてくれた。
この時に彼女と出会って自分が出た行動の意味がわかった気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ミーア、入るよ」
「って、もう入ってるじゃない」
言いながら部屋に入ってきたシンに文句を言うミーア。
「荷物まとめてよ。家具とかはあとで運ぶから必要なものだけ」
「何言ってるの?」
脈絡もなく荷物をまとめろといわれ問い掛けるが、シンは大きなバッグを放り投げるだけ。
「運んだら買い物に行こう?」
「だからっ……ん」
理由を言ってと言おうとしたはずなのに言葉が出てこなかった。
両腕を押さえられ唇を塞がれていた。
「一緒に暮らそ?」
「納得いかない」
「何が?」
ミーアの荷物を運び終えたあと二人は買い物に出ていた。
シンは一軒家をすでに買い自分の荷物を運んでいた。どこにそんなお金があったのか、この年で家を買えるのかと考えるがシンならできそうだと思った。
でもあたかも自分がシンと暮らす事が決まっていたかのようで納得がいかなかった。
「あたしが暮らさないって言ったらどうするつもりだったの?」
「考えてなかった」
本当に考えていなかったような顔をされてミーアはため息を吐いた。
「ミーアは俺が好きだってわかってたし」
「えっ!?」
そんなあたりまえかのように言われると恥ずかしくなってしまう。
「俺に服選んでくれるんでしょ?」
「お揃いの物もね」
「何でピアスじゃないの?」
「だって穴開いてないもの」
イヤカーフを手にしたミーアに聞くと確かにミーアの耳たぶには穴があいていない。
シンは左側の耳にだけ穴を開けていた。
「開ければ……」
「絶対イヤ!!」
両手で耳を塞ぎ嫌がるミーア。痛いから嫌なんだろうがあれだけの戦いを経験しておいて今更、と思ってしまう。
「わかったよ。いつか俺が穴開けるから」
「……いつかね」
そうしてイヤカーフとネックレスを購入した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どうして惹かれたのだろう。
地獄のような道だった。
生きるためなら体さえ売った。
最後はあっけないと思った。あんなに必死に生きてきたのにこの容姿のせいでこんなにまであっけない。
でも恨む事はしない。
写真でしか見た事がない彼女は気高く感じた。
あたしとは違う。
あたしでもこんな風になれるのだろうか?
誰かに必要とされるだろうか。目を奪うほどに。
そして出会った。
初めから惹かれたのかもしれない。
赤い瞳の少年に。
どうして惹かれたのだろう。
憎いはずなのに。
憎い吸血鬼なはずなのに。
でも奪われていたのかもしれない。
圧倒的な存在に。
目の前に現れたのはその存在と瓜二つの少女。
でも違う。
ただの少女だった。
どこか諦めている瞳が自分と似ているからそう感じたのかもしれない。
あの存在は自分とは全く違うものだから。
放っておけなくて、いつの間にか側にいたい、いてほしいと思っていた。
出会った時から惹かれていたのかもしれない。
考える間も与えず落ちていた。
憎いはずの吸血鬼に瓜二つの少女に。
「ミーア、旅仕度して」
協会からシンが帰ると唐突に言い出した。
いつも唐突だ。あれから一年と少し経った今でもそれは変わらない。
「どこか行くの?」
「吸血鬼の正式担当になった。町の断定はできないけど前の担当がやられたって」
「“ラクス・クライン”?」
ミーアが問い掛けるとシンは仕度をしだした手を止めた。
「できれば殺したくない。俺の敵はきっと“ラクス・クライン”じゃないから」
「まだ吸血鬼がいるの?」
吸血鬼討伐の際にほとんどの吸血鬼を倒したはず。見つからなかったのはラクス・クライン。
吸血鬼の被害報告は以前より減った。それはラクス・クラインの仕業だろうとされてきた。
「俺の家族を殺した吸血鬼がまだいるはずなんだ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
被害報告を受けて、すぐにその町へやってきた。
町の断定が今までできなかったため点々として情報を集めてきた。
外見の特徴から言ってシンが探している吸血鬼だとほぼ確信していた。
討伐の際には見つけられたかった敵。それがこの町にいる。
「必ずここにいる」
「はずれたらどうするの?」
シンが睨みつけるように町中を見ているとミーアがそんな事を言った。
「はずれないっ」
半ば意地ともとれるその言い方にミーアは笑った。
「ここにいたとしてもまた逃げられたらどうするの?」
「悪い事ばかり言うなよ〜」
「でも悪い事も考えなきゃ、そうしたらきっと」
ミーアの言葉に頷くと街を再び見据えた。人通りが少なく寂しい街。
「もう逃がさない。今度こそ殺してやる」
両手を強く握りしめシンは街へと踏み出した。
ミーアもそのあとをついていくように街へと入る。
「一緒だから」
ミーアは先を歩くシンの手を握った。シンは立ち止まりその手を握り返した。
「うん」
そして二人は町へと足を踏み入れた。
H17.8.24
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