番外編×章 consequences
○はじめに○
この話は吸血鬼パラレル幻想祈叶の番外編となっています。
アウルとラクスばかりの話で少しアウラク要素有りです。
なお、裏場面はありません。長くなったため二つに分けております。裏場面があるとしたら二つ目になりますが更新予定は今の所ありません。
場面転換が多く読みにくく、展開も話にも無理やり感があります。
幻想祈叶のネタバレ要素があるためこの章からの閲覧はお勧めできません。
以上を了承していただけましたらお進み下さい。
涙を流していた
言葉無くして
見つめていた
これからの事なんて
知らない
今までの事も
きっと
……知らない
生きるは迷路
そこで育つものは
何なのか
抱えて迷ってみようと思った
「吸血鬼かもって思いながら見てんの?」
町中を歩くと痛いほど感じる視線らに苛ついた。その視線は自分にではなく隣りを歩いているラクスに注がれている。
アウルは特定の人物に言うでもなく視線を向けている人達に向かって言った。
「そう思うなら早く逃げた方がいいんじゃない?干からびちゃうよ?」
不快な思いで笑みを浮かべながら言ってやると視線はなくなり、回りにいた人も去って行った。
「アウル」
「だって腹立つじゃん。こっちは何もしてないのに」
「ありがとうございます」
怒られるかと思い言い訳じみた事を口にするがラクスは微笑みながらアウルに礼を言った。
こうして側にいるようになってから8年経っていた。
町を転々としあてもなく旅人のように歩き続ける日々。
それを苦痛だと思った事はなかった。
「ぅ……ここ、どこ?」
目を覚ますと見覚えのない天井が見えた。正確にはカーテンが閉められ部屋の中が暗いため、天井らしきもの。
仰向けで寝ているのだから天井だろう。
「ごほっ……埃っぽ」
言いながら体を起こした。体が軋み動かしにくい感覚がする。
「……っつ」
右肩が痛み、手で押さえる。首筋に近い。
「ここ、どこだろ」
辺りをきょろきょろと見渡すが部屋が薄暗いためよくわからない。部屋に何かあるようには思えず、部屋の扉を開いた。
「広い……」
広い廊下に赤い絨毯が敷かれ左右に伸びていた。
部屋よりは明るいといってもやはり薄暗い。
「お化け屋敷みたいだな」
歩かなければ何もわからないと思い、注意しながら屋敷を探索する事にした。
少し前にシンと似たような屋敷を探索した事を思い出した。
結局怖くなってすぐ出てきた事も思い出し苦笑する。
誰もいないはずなのに、女の人がいた
シンがそう言っていた。
この屋敷が前に来た屋敷なら誰かいるかもしれない。
「あれ、でも」
何かを忘れている気がする。
前に似たような屋敷に来た事は覚えている。でも中の事を何も覚えていない。
入る時と出てきた時だけ。
「扉が開いてる」
考えながら歩いているとどの部屋も扉は閉ざされているのに、その部屋だけは僅かに扉が開いていた。
足音を忍ばせ部屋の前に行くと物音を立てないように扉を開き部屋の中へ入った。
やはり部屋の中はカーテンに閉ざされ明かりもつけられておらず暗い。
それでもすぐに見つけた。
長い髪の女性。
こちらに背を向けるようにして椅子に座っている。
近付き回りこみ確認すると瞳を伏せている少女だった。
「生きてる……?」
あまりにも静かすぎるため生きているのかすら疑問に思う。人形ではないだろうかと思える端整さも感じた。
「目を覚まされたのですね」
「うわっ」
瞳を閉じたまま口を開いた少女。少女の頬に触れようと伸ばしていた手を慌てて引っ込めた。
「どこか痛んだりはしませんか?」
閉じていた瞳が開けられると微笑みが浮かんだ。
瞳を伏せている時は生きていないように感じたが、今はそうは感じない。
「大……丈夫」
その微笑みに目を奪われながらそう返事をした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あまり食べる事がないものですからこれぐらいしか出せませんが……」
広間のような場所に案内され席につくと、少女は暖かいスープとパンを出した。
「ありがとう……」
「お礼はいりませんわ。貴方は育ち盛りですからたくさん食べませんと」
スープに顔を向けスプーンで掬うが、すぐには口に運ばず顔をあげた。
「どうかしましたか?」
「“アウル”。“貴方”じゃない」
アウルはそれだけ言うと俯きスプーンを口に運んだ。
怒ったのかと思うが顔が赤くなっているように思えた。その様が何だか照れているように思えて少女は笑んだ。
「私はラクスですわ、アウル」
「どうして僕はここにいるの?」
軽い食事をすませたあと、アウルは聞きたかった事を聞いた。
気付いたらここにいた。何故かはわからない。
だから聞いた。
聞いた時のラクスの顔が悲しみに歪んで悪い事をしたような気持ちになる。
だがすぐにラクスは笑みを浮かべながら答えた。
「アウルが町中で倒れていたので私がここへ連れてきたのです」
「倒れて……町は!?」
答えているようで答えになっていない。
町という言葉に反応しアウルは窓に駆け寄った。カーテンを勢いよく開ける。
「真っ暗……」
そこから見ても何も見えはしなかった。町の明かりらしきものすら見えない。
「ここは町の近くじゃないの?」
その問い掛けにはラクスは答えずアウルから視線を逸らした。
「っ……」
「アウルっ!?」
広間の大きな扉に向かい走り出したかと思うとアウルは広間から出ていた。
慌ててラクスは追いかける。
「アウル!待って下さいっ!」
「離せっ……離せよ!」
すぐにラクスに腕を掴まれ、屋敷から出る事さえできなかった。
振りほどこうとしても振りほどけない。掴まれた腕に痛みを感じ、アウルは抵抗するのをやめた。
「どうして離してくれないんだよ……」
ラクスはアウルの腕から手を離すと両膝を床につき、アウルを抱き締めた。
小さな少年を抱き締める事しかできずラクスは何も言えなかった。
「アウル……?」
何だか寝付けずにアウルの様子を見に、アウルが寝ているはずの部屋を訪れた。
暗くて部屋の中は見えにくい。だがすぐにアウルがいないとわかった。人の気配が感じられない。
「どうして……」
だれも寝ていないベッドに触れるとまだ暖かかった。
少しは行く事を躊躇したのだろうか、ここで迷ったのだろうか。
ラクスはアウルが向かったであろう場所に向かうため屋敷を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「町が……」
自分が住んでいる町へ向かうと信じられない光景がそこにはあった。
それ以上何もできなくて膝をつきただ町を眺める。
何もかもが焼かれ、焼けた物が残っているだけ。
暗い夜の中ではそれが家だったものなのかもわからない。
でも確かに町外れの野原を抜けたこの場所は自分がいた町だった。
「そうだ。あそこだけは残ってる」
アウルはゆっくりと立ち上がり今し方通ってきた野原に向かった。
「誰……」
目的地につくと暗がりの中に人影が見えた。黄色の髪がはっきりと見える、少女だとはわかるのに顔が見えない。暗くて見えない。
誰かわかるはずなのに誰かわからない。
「アウル」
「っ……ラクス」
後ろから呼び掛けられアウルは我に返った。目の前に見えた少女ももういない。
振り向かずとも優しげに呼び掛ける声ですぐに誰なのかわかった。
「吸血鬼に…襲われたんだよな。僕何やってんだろ」
上を向き目を閉じればこんなにもあの惨状が鮮明に思い出せる。
今まで忘れていたかのように帰れると町へ戻ってきた。
「アウル」
「呼ぶな」
ラクスが近付いてくるのがわかり制止させるように言い放つ。
「アウル」
「呼ぶなって言ってるだろっ!」
地面にぶつけるように怒鳴るアウルに尚も近付いていく。
「アウル」
背中に触れると体を強張らせた。しかし振り払う気配はない。
もう一度名を呼ぶとラクスは包むこむようにアウルを抱き締めた。
「わからない……僕もみんなと一緒に死ねなかったのが。独りは…恐い」
「アウル」
ただ何を言うでもなく呼びかけられ、アウルは勢いよく振り返るとラクスに縋るように抱き付いた。
震えていた声は泣き声と変わり、辺りに響いた。
ラクスはアウルと抱き締め頭を撫でる事しかできなかった。
この時
この少年の記憶が
あやふやになってしまっていると
気がついた
まるで
あの時死んでしまえればよかったと
言っているよう
あれは私の勘違いだったのだろうか
生きたいと渇望した少年は
どこに行ってしまったのでしょう
「アウル、もう少し食べませんと…」
「いい。いらない」
アウルが屋敷に来て数日が経っていた。
決まった時間に広間には来るもののろくに食事をせず部屋に戻ってしまう。
見張っているわけではないが外に出ている気配もない。
時間が解決してくれる。子供の彼には酷な現実だが受け入れられる日がくる。せめてその時までは彼の側にいよう、とラクスは思っていた。
しかし食料の買い出しに町へ降り立った際に信じ難い事が耳に入ってきた。
血を抜かれ殺されていた。吸血鬼の犯行とみてほぼ間違いない。
別の吸血鬼がいるのかもしれない。先日ここら一帯の吸血鬼は自分が殺したばかりだが、あれから数日経っている。
別の吸血鬼が来ていてもおかしくない。
もしかしたらあの時見た少女かもしれない。
そんな考えでラクスは自分を落ち着かせようとするが、そのあとの耳に入ってきた会話でその考えは無駄になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
屋敷より少し離れた町にラクスはいた。
時間も遅く人通りはない。
月明りに照らされて少し先に佇んでいる見覚えのある少年がゆっくりとこちらを見た。
「……アウル」
ここ連日で何人もが血を抜かれ死亡していた。現場付近に青い髪の少年がいたという目撃証言。
「ラクス……恐い顔してどうしたの?」
アウルの前に横たわっている人。もう息はないだろう。アウルの口元や手についている赤いものが目に入り、一瞬深く目を閉じる。
「アウル、帰りましょう?」
「やだ」
一歩歩み寄ると一歩後ろに下がる。決して怒っているわけではない。どんな気持ちなのかも自分ではわからない。
アウルは駄々っ子のように首を横に振りながら、ラクスから離れていく。
「どうして帰りたくないのですか……?」
「……喉が渇いてるから」
その一言でラクスはアウルへと駆け出した。
「ぅ……」
アウルが目を覚ますとそこは酷く暗い場所だった。
朦朧としていた意識がはっきりしてくると自分が座っているのだとわかる。
「あっ……なんだ、これ」
耳元で金属が擦れ鳴る音がする。手首がなんだか痛い。
「何で繋がれてんの……?」
両手をあげたかたちで壁に手錠で繋がれている。
両手以外は自由だが両手が使えなければ意味がない。
よく見れば自分が格子の中にいる事がわかった。
「だれ……?
」
足音が聞こえ問い掛ける。誰かなんてわかりきっているのに。
「体調は大丈夫ですか?」
「こんな風にしておいてそんな事聞くんだ?」
格子越しに現れたのは意識を失う直前も目の前にいたラクス。
微笑みを浮かべていたはずなのに、いつしかその微笑みはどこにも見当たらなかった。
「ラクス……?」
鍵の束の中から一つ鍵をカギ穴に挿し込み格子が開く。
ゆっくりと近付くラクスをアウルは見上げていた。一歩近付く毎に響く靴音に恐怖心を感じる。
靴音が鳴りやむとラクスは口を開いた。
「アウル、私は吸血鬼です」
「吸……血鬼?」
ラクスの言葉を繰り返すように口にする。
その瞬間頭に痛みを感じ顔を下に勢いよく向けた。地面が揺れているよう。
そうだ
何で忘れてたんだろう
誰かの持っている本に
目の前にいる少女が載っていた
今と変わらぬ姿で
古びた本だったはずなのに
その人が吸血鬼だと知った
そして町よりさほど離れていない屋敷に
住んでいたと聞いて
ここにきたんだ
それからは……?
「アウル。貴方も吸血鬼です」
その言葉にアウルは我に返るが信じられない事だった。
自分が吸血鬼。人から生まれたはずなのに吸血鬼だなんて馬鹿げている。
「私の血をアウルに与えました」
「ラクスが……僕に?」
わからない事だらけで頭が混乱してきてしまう。
元から何もわかっていなかった。
自分の記憶が今ほとんどない事だけ、わかる事ができた。
「アウルは血を欲し、人を襲ってしまいました」
「だから僕をここに閉じ込めたの……?」
ラクスはまた一歩アウルに近付くと両膝をつきアウルを抱き締めた。
「……私の血を飲んでください」
助けてと
声が聞こえる
何度も何度も何度も何度も何度も
耳障りなほどに
助けてと
声がやむと
渇きも癒える
楽しくて
異様な高揚感に襲われる
真っ赤な手
腕で口を拭うと付着する赤いもの
それがさらに僕を掻き立てた
でも同時に
吹き抜けるような
冷たい風が
段々と強くなる
飛ばされてしまいそう
どこか遠くへ行ってしまって
見えなくなってしまいそう
僕は
人を殺す
吸血鬼になっていた
「ぁっ……いやだ!違う!僕は……僕はっ……殺したいわけじゃない」
アウルの様子がおかしいと体を離す。アウルは首を横に振り乱し視線はどこに向かっているのかわからない。
「大丈夫ですわ、アウル。私の血を……」
「嫌だ!」
アウルの顔を自分の首筋に誘導するが、アウルはそれを振り払った。首を振り乱していたが止まりそのままうなだれた。
「ラクスを……殺しちゃう」
声が震えてぱたぱたと床に水滴が落ちる。
一度噛み付けば体内の血を全て搾り取ろうとするのが吸血衝動。それが吸血鬼相手でも全ての血を搾り取ろうとするだろう。
「アウルが苦しまずにいれるなら構いませんわ」
ラクスは鍵束を取り出すとアウルを繋いでいた手錠を取り去った。
ずっと同じ体勢でいたせいか力が抜け、床に両手をついてしまう。
「アウル」
この人に何度呼ばれただろう。
呼ばれる度に自分がはっきりとしたものになっていくようで嬉しかった。
でも今はその呼び掛けが何よりも痛い。
「信じさせてください……最後まで」
そう微笑むと再び自分の首筋にアウルの唇をあてた。
もうすでに渇ききった何かは早くとそれを欲している。
怖い。自分を呼んでくれる人がいなくなる事が。もう自分では自身がわからない。
独り。
「アウル」
その優しげな声に身を委ね、アウルははっきりとした意思の中でラクスの首筋に噛み付いた。
死にたくないと
願った
祈った
どうする事も
できなくて
ただ見る事しか
できなくて
感覚がなくなった体が
熱くなって
あぁ生きてるんだ
僕はこの人によって
生かされたんだと
熱く支配されていく
体でそう感じた
蝕まれていく
何もかも
身体も
意思も
記憶も
……僕自身も
だけど
塞ぎこもるのは
性にあわないから
僕は今を
覚えていく事にした
いつか僕が
忘れてる事さえ
忘れてしまっても
僕を呼んでくれるこの人と
生きて行こうと思った
「ラクス、ラクスー」
声と共に広間の扉が開いた。朝食の用意をしていたラクスは用意していた手を止める。
「あ、朝飯は作り続けて。腹減ってるから早く食べたいし」
席につきながらいうアウルにラクスはくすくすと笑いながらはいと答えた。
ろくに食べない日が続いていたためお腹が空いたなどという言葉が彼から出た事が嬉しかった。
「色んなところに行こう?」
「色んな所……ですか?」
「そ、旅すんの。二人で」
“二人で”という言葉が息苦しくさせた。今まで転々としてきた。でもそれは一人で。いつの間にか側にいた者はいたが信じてはいなかった。だからためらいなく殺した。
「……駄目ですわ」
「何で?僕とじゃ嫌、とか……?」
違うと言いたくても理由を口にする事ができない。ラクス自身も理由がわからないのだから。
「手が……」
ラクスは自分の両の手のひらを見つめた。
一人で長い時間を過ごした。その時間でこの手はいくつもの命を奪った。
生きたいのかもしれない
何かを探して
「ラクス?」
「あっ……」
席についていたはずのアウルが自分を覗きこんできてラクスは驚き我にかえった。
「何、手見てんの?うわ、白っ。でも細くて綺麗な手」
アウルはラクスの右手をまさぐるように触った。手首から指先まで小さくて暖かい少年の手が触れる。
「くすぐっ……たいですわ」
「ごめ……泣いてんの?」
手を離し謝るとラクスの頬に涙の筋がある事に気付く。ラクスは首を少し横に振る。
「もう笑っていますわ」
「そっか……あ」
離したはずの手が暖かい。ラクスが自分の手を握っていた。
涙の筋をつけたまま微笑むラクスがとても綺麗に感じアウルも微笑んだ。
そして二人は出会った町を離れ、あてもなく旅をする事になる。
まだ自分がいる場所もわからぬまま
見えぬ手を握り歩き出した
結末がどんなものだとしても
後悔はしない
この瞬間は確かに見えないけど
幸せだから
だから……
見せないで
まだ光よ
差さないで
お願いします
もう少しだけ
そばにいさせて……
もう少しだけ
迷わせて
終わりは
自らの手で
掴むから
まだ……まだ……
まだ
この“愛”を
幻想だとしても
抱かせて
祈らせて
叶わせて
それだけが
確かなものだから
H17.9.6
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