Cursed Lily


 


君は高い高い場所に咲く花のよう


“アスランが思うような私はここにもいませんわ”

彼女はそう言った。
何度忘れようとした思いも彼女を見れば蘇る。
まるで呪われているかのように。
だから告げようと思った。

「俺は貴女が好きでした」

そして言われたのがあの言葉。
全部否定されてしまったかのような感覚。少しでも彼女も同じ気持ちだと思ったのはただの自惚れ。

「今夜は満月、か」

自宅につき車から降り、ふと空を見上げた。

「っ!?」

人の気配がして慌てて視線を戻すと知った人の人影。確認するように名前を呼ぶ。

「ラクス?」
「こんばんは、アスラン」

手に一輪の花を持ち俺を見るラクスがそこにいた。
声は酷く穏やかなのにその表情は暗がりのせいなのか哀しく見える。
そのせいかそれ以上彼女に近付けない。

「こんな時間にどうしたんですか?」
「理由がなければ会いにきてはいけないのでしょうか?」

いつもの彼女と違う。

「ただ会いたいだけでは……いけませんか?」

どこが違う?
わからない。違いもわからないのに何が違うというのだろう。

「……ラクス?」

俺が何も言えないでいるとラクスは持っていた花を握り潰した。
開いた手のひらからは茎が落ち花びらがひらひらと落ちていく。

「いっそこうしてくれればよかったのに」

ラクスの言葉が呼んだかのように雨がぽつりぽつりと降りはじめる。

「っ……私は」

泣いている。
もしかしたら雨が顔を滴っているだけかもしれない。
でも彼女は哀しそうな顔のまま俺を見つめる。
違うのは俺の中の彼女と俺の前にいる彼女
通り雨だったのか雨はすぐに止んだ。もしかしたら時間は結構経っていたのかもしれない。
満月が浮かんでいた夜から朝日が昇る朝へと代わりはじめる。
夢から醒めたような気がした。

「アスラ、ン?」

考える間もなく体は動きラクスを抱き締めていた。
少し体を離し、花を持っていた彼女の手のひらに口づけるように唇で触れた。
あの時彼女に渡したユリの花の匂いがした。
遠い遠い彼女にせめて触れたいからと、花を渡すという理由を持っていったあの時。


知らぬ内に一輪の花を手折っていた
色も何もかも知らない花
それは今ここにある


「ラクス……」

もう一度抱き締めると彼女は泣き声をあげながら俺を抱き締めた。

夢の途中
抱えた想いは行き場を知らずに
君を手折る
咲いてしまった
知らぬ花
高い高い場所の君が幻なのか
高い高いその距離が幻なのか
それもまだ夢の途中
甘く近いのろいは
いつしか夢から覚まさせる
紅に染まる身体を抱き締めて
それは確かに俺に染まる君の色
夢の現で交わした逢瀬が
幻ではないというのなら
今この瞬間
このままとかして


※前話【宵待ちの花】


H18.4.23




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