思考稼動まであと数分
「ポッキー、ですか?」
「は、はい!」
何故俺がたかがポッキーを勧めるのにこんなに緊張しているか。
それは数時間前に逆上る。
「シンくん、これちょうだい」
「聞く前に取ってるじゃないですか!それと“くん”付けはやめて下さい」
「アスランも食べる?」
「人の話を聞いて下さい!」
シンから奪った箱を俺に差し出すキラ。口には箱から取った細長い棒をくわえている。
「ポッキーか?」
「そう、ちょっと高いポッキー」
何が高いのかと思うと箱がいつも見掛けるものと違う事に気がついた。
「冬限定なんだよ。ちょっと高いだけで買う気があまりしないんだけど」
「じゃあ人の取らないで下さいよ」
シンの手が箱を持つキラの手をかする。何度か奪い返そうとするが結局箱はキラの手の中。
「でも美味しいんだよね」
「何か違うのか?」
俺の問いにキラはニヤリと笑い、パキンとポッキーを鳴らした。
「ココアパウダーがついてるんですよ」
しかし答えたのはシンだった。元はシンの物だしシンが答えるのは普通だろう。
「でも食べ方が下手だと口についちゃって外じゃ食べられないとか何とか」
「そうなのか」
「カガリもそんな事言ってたな〜。僕の前では食べたくないとか何とか。てなわけではい、アスラン」
“てなわけで”の繋がりがよくわからないが再び箱を差し出される。試しに一本貰おうと手を出すと、手を掴まれ箱を握らされた。
「あげるから帰ってから食べてみて」
「それ俺のですよ!?」
シンの抗議は聞こえないという態度でキラは笑みながら俺を帰るよう促した。
キラが俺に箱を差し出す前に言っていた事を考えながら帰り、今に至る。
つまり“家で待つラクスに食べさせてみれば?”とキラは言いたかったに違いない。
「美味しいらしいので……」
「そうなのですか。アスランはもう食べられましたの?」
「い、いえ。まだ」
ハッ!?と失言に気付く。食べた事もない物をラクスに勧めるなんて。こんな事なら帰ってくるまでに食べておくんだった。
「ではアスランも一緒に食べましょう?」
「はい。……へ?」
ラクスのポッキーを一本取った手は俺に向けられていた。
これは口を開ければいいのか!?
ポッキーを一点に見つめ、ちらりとラクスを見るとにこにこと笑いながら待っている。
恥ずかしいというか嬉しいというか……よくわからない気持ちのまま俺は口を開けた。
すぐにラクスもポッキーを口にしていた。
「アスラン?」
「え!?」
「食べませんと溶けてしまいますわ」
「そ、そうですね」
一本食べ終わったラクスの口の周りにはココアパウダーはついていなかった。
普通に考えればこういうのを食べるのは上手そうに見える。
その考えは間違っていなかった。気付くのが遅かったが。
「アスラン、美味しくありませんでしたの?」
「そんな事はないですっ!」
慌ててくわえていた一本を食べてしまう。残念と言えば残念だがラクスに食べさせてもらっただけ良しとしよう。
「ラクス?」
食べ終わるとラクスがジッと俺を見ていた。視線は合っておらず目線より下……口?
「うわっ!?」
「動いたら取れませんわ」
顔が近付いてきて驚きのあまり顔を引くと、両手で顔を押さえられてしまった。
すぐに口許に生暖かい感触が触れる。
「取れましたわ。甘くて美味しいですわね」
「は、はい」
本来なら俺がしたかった事をラクスにされてしまったが、これはこれでいいかもしれないと考えられるまであと数分。
H18.11.7
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