気持ちに聞いてみる


 


「誕生日おめでとうございます!」
「あらあら、こんにちは、アスラン」

クライン邸を訪れるといつものようにラクスが出てきてくれた。
だから扉が開いた瞬間に用意していた言葉を言った。

「どうぞ入って下さい」
「え?あ、はい」

でも予想していた反応とは違い、いつもと特に変わった反応はない。
ラクスに促され俺は中に踏み込んだ。すぐにハロ達が出迎えてくれる。
というか明らかに作りすぎなんじゃないかと気付くぐらいの数になっていた。何個も揃うとなかなかうるさい。

「うるさく、ないですか?」
「全然そんな事ありませんわ」

『アスラーン』

「うわっ!?」
「あらあら」

ハロが一つ俺に向かって飛んできた。びっくりはしたが倒れるほどではない、はずだった。

『アスラーン、アスラーン』

「え?ちょっ」

1つに更にもう1つが続きさすがに体勢を崩してしまいそうになる。

「大丈夫ですか?」
「はい。っ!?」

そう答えた直後に残りのハロの体当たりを一気にくらってしまった。
声を上げる暇もなく、転倒してそのまま意識が遠退く。
本当何しにきたんだ。


「アスラン、お前こんな所で何してる」
「何って訓練だろ?」
「お前は馬鹿か!!」

イザークの怒鳴り声に片耳を押さえた。

「お前に馬鹿と言われる覚えはない」

イザークはカンに障ったような表情を見せるが、目を閉じて息を吐いた。
そしてそことなく今度はこちらがカンに障るような笑い方をした、気がした。

「そうだな。お前はアスランだったな」
「俺の名前まで忘れるほどだったのか」

少し口の端がひくつくのを見逃さなかった。
いちいち構ってる暇はない。だから俺はその場を立ち去ろうとした。

「待て、今日は何日だ」
「は?日にちまで忘れたのか?」
「それは貴様だろう!今日が何の日か知ってるのか」
「ラクスの誕生日だ」
「ラクス嬢の誕生日なんだぞ!……って、お前知ってるじゃないか!」

1度忘れた、というか聞き忘れていた事は黙っておこう。

「婚約者なんだ。知ってるに決まってる」
「知っていて何故こんな所にいる」
「俺は軍人だ。定期的には会ってるし、誕生日だからと変える理由もない」
「貴様はラクス嬢を何だと思ってる」

声をあらげていない分耳は痛くはないが、何故かいらつきを感じた。

「お前にそんな事言われる理由もない!」

ざわついていたはずなのに、辺りは静かになっていて目立っているのがわかる。
すぐにまたいつもの衝突かとざわつきが戻りはじめる。
その間は俺もイザークも何も言わなかった。

「理由理由ってお前は本当に硬い奴だな」
「お前にだけは言われたくない」
「どうせあっちに行く用事がある時ぐらいしか会いに行かないんだろ」

図星をつかれて言葉につまる。これでは肯定してるのと同じだが。
昔はただ会いに行く事もあった。でも今は……。

「きっと喜ぶ」
「今日は行けないと謝ってあるのにか?」
「婚約者に来てほしくないわけないだろ」


たまにするラクスの香りに包まれているような感覚。
その香りをどう例えていいかはわからないけど、言えるのは安心できるという事。

「アスラン、大丈夫ですか?」
「あ……はい」

目を覚ますと心配そうに覗きこむラクスの顔が映った。
応えると安心したように笑んでくれる。
香りの正体は自分が寝ているベッドだとわかる。ここはラクスの部屋だ。

「突然訪れたあげくにこんな迷惑をかけてしまってすみません」
「いいえ、私がハロちゃん達を止められなかったからですわ」

起き上がろうとするとやんわりと両手が両肩に触れて制された。
婚約者とはいえ女性のベッドに寝続けるのも悪く感じたのだが、寝心地がいいあまりにそのまま体は寝かせたままにしてしまう。

「来て下さって嬉しかったですわ。嬉しすぎてどう反応したらいいのか困ってしまいました」
「そうなんですか」

その言葉が嬉しくて頬が緩むのを感じる。
困っていつも通りにしてしまったという事か。

「それじゃあたまに何も連絡をせずに来てみるのもいいかもしれませんね」
「困らせて楽しんでませんか?」
「そんな事ないですよ」

こんな会話をする事なんてなかった。
最近は婚約者らしい態度をとつとめるようになってしまっていて、正直わからなくなってしまっていた。
決められただけではなく確かに惹かれていたはずなのにどこへ置いてきてしまったのだろう、と。

「でも私が毎回連絡いただく度に次はいつかと聞いてばかりいたからですか?」
「え?」

そういえば連絡はそれなりにはしているが毎回そんな会話をしてる気がする。俺の答えはたいがいわからない。
俺はそれは通過儀礼みたいなものだと感じていた。

「アスランを困らせてしまいましたわよね。あんな頻繁に聞いてしまったら」
「いえ!違うんです!実は……わからなくて」
「わからない、ですか?」

勢いで上半身を起こしてしまった。
そのまま言ってどうする。そんな事言ってもラクスは俺以上にわからないじゃないか。

「ラクスが聞いてきたその事もわからなくて」

余計頭がこんがらがってしまう。

「私がアスランを困らせたという事ではなくてですか?」
「困ってません。困ってないんです。困る理由もなくて」

頭を抱えそうな勢いだ。
少しの間のあとベッドが軋むとそれはラクスの手が乗ったからだとわかった。

「……え?」
「私もこうしたい事に理由はありません」

ラクスが近づいてきて頬に唇が触れた。
ラクスは離れてから柔らかく微笑む。

「理由なんて必要ないんです。だからそんな考えこまないで下さい」
「でも……」
「ここに今日来てくださったのは私の誕生日だからですか?」
「それもあります。イザークに言われたのもあって。でも会いに行っていいのか迷ってて」
「アスラン」

またラクスの唇が頬に触れた。顔が熱いのがわかる。

「アスランは真面目なかたですから」
「イザークには硬い奴だと言われました……」
「気持ちに聞いてみるといいですわ」

自分でもわからない不安定なものに聞けとラクスは笑って告げた。

「今、どうされたいですか?」
「ラクスと同じように……」

ラクスは瞳を閉じてくれて、頬に唇を寄せた。


まだわからない事だらけだけど、理由がいらない時もあるのなら気持ちに聞いてみる事にする。



H21.2.5




book / home