Let It Snow
ラクスから差し出されたのはカメラだった。
「カメラ、ですか?」
「はい。アスランが好きな時に撮ってほしいんです」
何を撮ればと聞く前にラクスから手渡されたのだから、ラクスに決まっている。
でもどうしてラクスは自分を撮ってほしいと言わないのだろう。
それにどうして俺に頼むのだろう。
「わかりました」
気になる点はあったが、なかなかない婚約者の頼み事を断る理由もなく承諾した。
「カメラなんて持ってどうしたんですか?」
「ニコル。いや……試し撮りとかしておいたほうがいいのかと思って」
ニコルが物珍しそうにカメラを眺めてくる。
「写真が趣味なんですか?」
「そういうわけじゃないんだけどラクスに頼まれて」
首を傾げるが何か思い当たったのか笑みを浮かべた。
「そうですか」
「あ、カメラじゃん」
「珍しくもないだろう」
ディアッカとイザークまでカメラに反応して話しかけてくる。
「あれだろ?雑」
「これどう使うんですか?」
ディアッカの言葉をあからさまに遮ってニコルがカメラを指さす。
するとイザークの手が伸びて一瞬でカメラを奪われていた。
「旧式じゃないか」
カメラを眺め回して言われた一言。確かに最新式ではないがそこまで古くはない。
でも少し扱いにてこずっていたのも確かだ。
「でももっと旧式のもあるぐらいですから新しいほうじゃないですか?」
「あれはあれでいいものだけどな」
「カメラの違いなどよくわからん」
「いいから返せ」
カメラを奪い返すとイザークは何も言わずにそっぽを向いた。
突っ掛かっても仕方がないので放っておく事にする。
「試しに四人で撮りましょうよ」
「え?」
「いいね。ほらほら、イザーク座って座って」
「ふざけるな!誰がアスランのカメラなんかで」
ディアッカが無理矢理椅子に座らせようとするがイザークは抵抗する。
しかし何か耳打ちされておとなしく座ってしまった。
「……ラクス様には弱いですよね」
「ラクス?」
「何でもないです。向かいの椅子にでも置いてタイマーで撮りましょう」
「あ、あぁ」
こうしてはじめての一枚はこの四人で撮る事となった。
その後、俺が撮れなければ仕方ないので隙あらば撮っていた。隠し撮りだとイザークには怒られたが。
だいぶカメラにも慣れ、これならラクスを撮る事ができるだろうと次の約束が待ち遠しくなっていた。
「またハロちゃんの仲間が加わって賑やかになりましたわ。ありがとうございます」
「いえ」
いつものように向かい合わせで座り、お茶を飲んでいた。
カメラは膝の上でいつでも撮れるようにしてるがタイミングが掴めない。
ラクスからも話題に出ないしどうしたら……。
「アスランは雪を見た事がありますか?」
「はい。幼少期に」
「そうですか」
脈絡もない話題に答えると段々とラクスの顔が難しい何かを考えているような表情になっていっている気がした。
「甘いですか?」
「は?雪が、ですか?」
「はい」
「残念ながら……甘くないです」
何となく期待してるような気がして残念ながらとつけてしまった。
案の定残念そうに少しトーンが落ちた声でそうですかと返ってきた。
「白くてふわふわしてると聞きましたから甘いのかと思いました」
「甘ければいいんですけどただ冷たいだけですね。でも」
「でも?」
「降ると何だか楽しい気持ちになるんです」
今見たら違うかもしれないが幼少期は降るとたまらなく嬉しく、積もれば楽しくて仕方なかった。
「ハロちゃんがたくさんいると楽しいのと同じ感じでしょうか?」
「それは少し違うかもしれません。でもハロ達も雪が降ったら喜ぶかもしれません」
言ってからハロにそんな機能はつけていない事に気がつく。
ラクスがまるでハロ達に感情があるかのように振る舞うものだからついつられてしまった。
「では私もきっと楽しいですわね」
「え?」
ラクスは立ち上がりハロ達の方へと駆け寄っていく。
するとハロ達がラクスの回りに集まり、踊りだした。
「ははっ」
思わず笑ってしまうほど楽しそうで、ラクスがこちらに笑いかけると胸が高鳴った。
自然とその光景にシャッターをきっていた。
「雪が降る場所へ一緒に行きましょう。いますぐは無理ですが必ず」
「はい。楽しみにしてますわ」
別れ際の約束。
本当なら今すぐにでも一緒に行きたい。
連れて行ってあげたいというのもあるが、雪降る中での彼女も見てみたい。
「アスラン?」
「え?あっ、すみません!」
いつのまにかラクスの手を握っていて慌てて離す。
でも離れかけた手を追うようにラクスが俺の手を握った。
「嬉しいです」
「……はい」
名残惜しさが自然と行動に出てしまっていたのか。
彼女を知れば知るほど別れがたくなる。
雪が降れば帰らなくていいのだろうかなどと思ってしまう。
いつか雪降る中。
またこうして手を繋いでいたい。
H21.5.6
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