はじめまして、恋。


 


「いい笹がなってるところ?」
「あぁ」

そんな事を聞くために七夕の朝からアスランはキラ宅に押し掛けていた。

「一昨年のは?」
「枯れた」

すぱっと清々しく言い切るアスランにキラは呆れた。

「昨日今日に枯れたわけじゃないんでしょ?なら前から下準備ぐらいしておけばよかったじゃない」

まったくもってその通りだがアスランの次の言葉にキラはさらに呆れた。

「ラクスと一緒の時間が減るから嫌だ」

その理由に一瞬どこぞの子供かと思ったぐらいだ。

「笹の場所なら私知ってるぞ」

お茶を運んできたカガリがそんな事を言いアスランは瞳を輝かせた。

「どこにあるんだ!?」
「えっとー……キラなら場所を覚えていると思うけど」

いまいち場所が思いだせないカガリはキラを頼るように見てきた。
キラは初めは何の事かさっぱりわからなかったが“ラクス”ですぐに思い出したようだった。

「あぁっと手が滑ったー」
「うわっキラ、せっかく私が煎れてきたのに」
「俺には手が滑ったようには見えなかった……」

カガリがいれてきたお茶をキラはトレーごとひっくり返した。

「僕がいれなおしてくるよ」

にっこり顔でそう告げ部屋をでていきしばらくして一つだけのティーカップを持って帰ってきた。

「はい、アスラン」

アスランの目の前にティーカップを差し出すキラ。そんなキラをアスランは疑わしげな目で見ていた。

「僕の顔に何かついてる?」
「口と鼻」
「目は?」

アスランは冗談を言いながらもティーカップの中身を凝視していた。

「大丈夫!毒は入ってないから」
「本当に毒とかは入ってないんだな?」

アスランの問いにキラは顔を背けて頷いた。

「毒は入ってないよ」
「じゃあ何が入ってるんだよ。明らかにティーカップ一つしか出してない所がおかしいだろ!」

言い巻くしたてるとアスランはティーカップを持ちキラの顔に近づかせた。

「お前が飲め〜」
「い〜や〜だ〜」

キラの顔には近づかせたものの抵抗されているためティーカップの中身を口に含ませる事はできない。

「カガリ、アスランを押さえて!」
「ぇ、あぁ」

二人を黙って見ていたカガリは突然呼びかけられ慌ててアスランの腕を押さえた。

「アスランが飲まなきゃ意味がないんだからアスランが飲む!」

いつの間にかティーカップはアスランの手からキラの手にうつり今度はキラがアスランの顔にティーカップを近づけた。

「言わないでおいたがソレ、色が変過ぎる!紅茶の色だけど濁り過ぎだろ!」

アスランが言った通りの色をした飲み物は入れ物と共にアスランになお近づいてくる。

「問答無用!煩悩の固まりめ、退治してくれる」
「用途が違うぞ、用途が!」

そしてその飲み物をアスランは飲まされその場に倒れこんだ。

「……そんな事で、俺の……煩悩は、消えな……」



「“盆悩”?」
「えっ!?あれ」

うつ伏せになっていた体を起きあがらせると目の前には円らな瞳でこちらを見つめる7、8歳の少女が腰を屈めていた。

「夏のお盆について悩まれているのですか?」

それは盆違いなんじゃと思うがあまりにも純粋かつ本気な様子で問いかけてきたのでアスランは答えられず口を噤んだ。

「こちらにはどのような用事でいらっしゃいましたの?」

あえて深くは追求せず違う問いかけに変わった。アスランはそう言われてあたりを見回すがどこを見ても草と木ばかり。
天気は晴れていて遠くまでそれなりに見渡せたが建物らしいものは見あたらなかった。

「ここは……あ」
「何か?」

場所を訪ねようとして少女の顔を直視してアスランはある事に気がついた。

「似てる」
「はい?」

桃色の髪を腰まで伸ばしなおかつその口調はアスランの愛しい人に酷似していた。
しかし明らかに幼い。少女もアスランを知らないようだ。

「体を幼くするさくらんぼの次は時間転移する紅茶……そんなものどうやって手に入れてるんだか」
「あの……」

アスランの言葉が聞き取れずに不信がる少女を目の前にアスランは開き直ったように笑顔を向けた。

「こちらですわ」

少女が案内する方向へとついていくアスラン。
キラに“笹のありか”を聞いてこんな事になったのだ。何の意味もなく時間転移などさせないだろう。
そう思ったアスランは少女に笹があるか聞いてみた。
そして今、案内されているのだ。

「ここは昔から私だけの遊び場ですの」
「だけって、こんな広い所で1人で?」

少女は振り返り寂しげに笑いながら再び前に向きなおった。
その寂しげな微笑みを見てアスランは悪い事を言ってしまったと思いそれ以上自分からは話しかけなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「一本だけ生えてるなんてすごいですね」
「不思議ですわね」

そんなに大きいとは言えないアスランと同じぐらいの笹がそこに一本だけ生えていた。

「どうぞ、持ち帰ってください」
「いいんですか?一本しかないのに……」
「貴方は自分のためというより誰かのために笹を探していらっしゃったみたいですから。それが愛している人のためなら素敵な事ですわ」

その言葉を口にしながら微笑む少女を見て本当にこの一本だけの笹を名前も知らない奴にくれるんだとアスランは確信した。
そして笹をとるべく腕を伸ばした。

「どうなさいましたの?」

腕を伸ばしたまま硬直するアスランを見つめ少女は聞いた。
アスランは苦笑いを浮かべていたがラクスに顔を向けた時には普通の笑みに変わっていた。

「取れないみたいで」

笹を掴もうとした手のひらはあっさりと笹を通り抜けてしまったのだ。
あのいかがわしい飲み物での時間転移は体までは無理だったかとこの時初めて知った。

「まぁ、それでしたら私が……」

取れないという発言に疑問を持たず笹に手を伸ばす少女にアスランはとらなくていいと言った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「今日は元気がないようだが」
「元気ですわ、お父様」

車内で少女は笑って父親に応えるがすぐに窓を見つめ笑みは消えていた。


“笹を探していらっしゃったのにいいんですか?

“やっぱり願いをかけるなら一緒に願いをかける人と笹を取りたい……なんて理由になってませんね”
“……貴方に想われてるかたが羨ましいですわ”


先ほどまでの事を思い出しながら少女はため息をついた。
その艶めいたため息に隣にいる父親はなんだか寂しい気持ちになっていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「貴方の名前を教えていただけますか?」

別れ際に少女はアスランにそう聞いてきた。
一瞬“アスラン・ザラ”と名乗ってしまいそうになるが名前を飲み込み変わりに微笑んだ。

「あ、聞いた方が先に名前をお教えするのが礼儀ですわよね。私はラ」

気づいたように早口で自分の名前を教えようとする唇に何かが触れた気がした。
目の前では名前も知らないその人が耳元にそっと囁いた。

“イトシイヒトと呼んでください”


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はぁ……」

草地に仰向けに寝転がりアスランは途方に暮れていた。

「どうやったら戻れるんだよ」

戻り方。そして少女の事について思いを馳せ絶え間なくため息をついていた。


“またお会いできますかっ?”
“もちろん”


「ラクスだって確証もないのにあんな事言うなんて」

そう思いながらもアスランは少女がラクスだと理由も何もないが確信していた。
胸は確かに反応したのだから。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「アスランならここにいるよ」
「まぁお昼寝中でしたのね」

キラ宅を訪問してきたラクスはキラの部屋にて寝息をたてているアスランの隣に座った。

「笹の場所を聞きに来たから教えたんだ」
「私にはキラが何をしたかさっぱりわからないけどな」

笹の場所を教えたというキラを目の前に寝こけているアスランを見ながらカガリは首を傾げた。

「前、ラクスが言ってた場所を教えたから起きたらそこに行くんじゃないかな」
「そうですか……」

キラの話を聞きながらアスランの髪をそっと撫でた。

「ん…ラクス?」
「はい、ラクスですわ」
「ラクスー!!」

目を数回擦りラクスだとわかるとアスランは勢いよくラクスに抱きついた。

「何やってるんだ?」
「目の前にいるのに触れない抱きしめられないで色々溜まったんじゃない?」

そしてアスランがラクスの服を半分脱がすまで抱擁は止まらなかった。
その後アスランとラクスが笹を取りに行き4人で七夕パーティーをしたんだとか。


H16.8.3
H17.3.8加筆修正




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