大切な思い出は増えていく
定刻よりも少し前に着き、定刻になってもラクスは現れなかった。
今日の警護は俺一人と連絡を受けていた。予定が変更された?だとしたら連絡が来るはずだ。
まさかラクスの身に何かあったのかと思うが立場が立場なだけに一人でどこかに行くわけもなく、どこかに行くなら連絡が来るはず。
つまり建物内なら危険はない。それが隙にならなければいいがそれはラクスも心得てるはずだ。
「ここで佇んでいても仕方ないか」
大丈夫だとわかっていてもラクスの安全を確認するまで安心できなかった。連絡機器で何も連絡がないのを確認してその場を離れた。
「……」
ラクスの個室の前。
呼び掛けるも応答はやはりなく、教えられていた解除番号を押した。
「ラクス?」
部屋内に入りドアが閉まると広くない個室を見回す。
だがやはり部屋の主はいなかった。
奥に進むと机にある本のようなものが目に入った。表紙をめくってみると一枚の鮮やかな写真が貼られていた。
「これは……フォトアルバム?」
決して分厚くはないそれはどうやら写真をまとめるもののようで紙媒体に残してあるのが新鮮に感じた。
手に取ってみると表紙をめくった先にあった写真が見覚えのあるものだと気付く。
「ハロか……」
同世代の女の子と会話をする事なんて少なく、しかも相手は婚約者。
どうしたらいいか悩んだ末に作製したのがハロだった。綺麗な桃色の髪が印象的でその色のハロを作ったら名前が“ピンクちゃん”になっていて笑ってしまったものだ。
会う度にハロを作っていき、数える事もしなくなっていた。
今はもういないハロ達。それが写真に収められていた。
「そういえばあれから何も作ってないな」
呟きながらページをめくると幼いラクスが微笑んでいた。隣には少し頬を染めた俺が気恥ずかしそうにいる。
1ページに1枚ずつ写真があり、めくった先には2枚の写真があった。どちらもラクスと俺が写っている。
「今見ると子供だな」
なのに将来の伴侶が決まっていた。
それを嫌だと思った事もないし、今でも嫌だなんて事はない。もうそんな婚約者ではないが。
更にめくっていくとどのページもラクスと俺、もしくはラクスが俺を、俺がラクスを撮っているような写真が貼られていた。
どれも写真を見ればぼんやりとその時の事が思い浮かぶ。こんなに写真を撮っていただろうか。
俺自身は幼少期の数枚以外は写真を持っていなかった。年月を感じさせるものを無意識に遠ざけていたのかもしれない。
年をとる事への恐れ。年月が過ぎれば過ぎるほど自身が辿りつきたい未来から程遠くなってしまっているのではないかと思う。
だからただがむしゃらに自身の正義を信じて戦うしかなかった。
それでも迷走し続け、ここにきた。まだ過程の途中だ。
「……アスラン?」
「っ……ラ、ラクス!?」
気付けばラクスがドアの前に佇んでこちらを首を傾げて見ていた。
ドアの開閉音にすら気付かなかった。
「どうしてこちらへ?」
「ラクスが来なかったので探しに……」
いくら緊急時とはいえ罪悪感がある。しかも手にはフォトアルバム。
無断侵入のあげく、無断に私物を見ているなんて。
「フォトアルバムですわね」
「え、はい」
ラクスが近づいてきてフォトアルバムを指摘する。慌てて閉じてラクスに差し出していた。
「大切な思い出は強くしてくれます」
ラクスはフォトアルバムを手にはせずに表紙にそっと手を乗せた。そして中の物を慈しむような眼差しで嬉しそうに言う。
「……過去を振り返るのには勇気がいります」
「それは今もですか?」
真っ直ぐ見つめられるラクスの瞳と目が合う。
「いいえ」
そう言って首を軽く横に振った。
「勇気はいりますが恐れはありません」
そう答えるとラクスは微笑んだ。
そしてフォトアルバムを受け取ると棚へと戻しに行く。
迷走しても俯かずにここにいられるのは彼女が背中を押してくれたからだ。
もちろん彼女だけではない。俺が見たい明日は他の人も見たい明日だ。だからここにいる。
「アスラン」
「はい」
フォトアルバムを戻しおえると振り返ったラクスがにこにこと笑っていた。
何だろうと不思議に思いながら見つめる。
「いなかったのはアスランですわ」
「へ?」
「探していたのは私なんです」
「それは、つまり」
「アスランが間違えたんですわ」
あえて笑顔で間違いを指摘されるとそれはそれで堪える。
つまり連絡された場所とは違う場所にいたあげく、無断でラクスの個室に入って私物を覗き見たという事か?
「すっ……」
「でもどちらにしてもここに来る予定でしたから大丈夫です」
謝るのを見越した上で遮るようにラクスが告げる。
「それでもすみません!」
「謝らないで下さい。私を心配してくださったのは嬉しいですわ。不謹慎ではありますけど」
「ラクス……」
「そんな顔をなさらないで下さい。今日はアスランの誕生日なんですから」
今日誰かの口から初めて聞いた言葉。日付を確認してまた年をとったのだと朝気がついた。
だからといって特別な事もない。
「一緒にお茶をしましょう?」
昔が過ぎるのは先程昔の写真を見たからだろうか。
年をとってもかわらない気持ちもある。色あせずにすぐ側に。
今は触れ合えなくても共に時を過ごせる。でもあの写真の時よりも少しだけ近くに感じる。
「喜んで」
そう答えて微笑み合う。
大切な思い出は増えていく。それは自身を弱くも強くもさせながら進んでいく。
H22.10.30
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