温もりを忘れないように


 


今年もラクスの誕生日を彼女と共に迎えた。
毎年共に過ごせていたわけではない。それでもこの日を迎えると過去のこの日を思い出す。
帰り際に頬にキスをするようになったのは俺がラクスの誕生日を知らなかったのがきっかけだった。


招かれてクライン邸を訪れたら邸内は賑やかだった。
招かれた他の客人の会話が漏れ聞こえて今日がラクスの誕生日だと知った俺の慌てようは今でも忘れない。
いつものように花束とハロを持ってきてしまい申し訳ない気持ちになった。婚約者の誕生日も知らないなんて俺は何をやってるんだ。

「アスランが今日来てくださってよかったですわ」

そう言って誕生日のパーティー中隣にいた俺に笑いかけてくれた。
ラクスは知っているんだろうか。俺がラクスの誕生日を知らなかった事を。


招かれた客は帰宅し俺もクライン邸から帰る頃。いつものようにラクスは玄関まで見送ってくれた。
生まれた日は特別なはずなのに彼女は何も俺に望まない。違う事といえばパートナーのようにパーティー中隣にいただけ。今の俺ではその場所に立つ資格がない気がした。

「今日はありがとうございます」
「いえ……」

微笑みかけるラクスを直視できなくて僅かに視線を下に逸らす。ラクスが首を傾げたような気がした。

「あのっ」

このままではいけないと勢いよく顔を上げる。
飛び出しかけた言葉は一度詰まったが飲み込む事はしたくなかった。

「すみません。ラクスの誕生日を知りませんでした」

そう言って頭を下げる。
黙っている事は簡単だ。でもずっと一緒にいるであろう人に黙っている事なんてできない。
これは大事な事だから。

「謝らないで下さい。知らなくて当然なのですから」

微かに髪にそっと手が触れてラクスが軽く頭を撫でたのがわかった。
そしてゆっくりと顔を上げるとラクスは笑っていた。

「アスランはきっと私を喜ばせようとたくさん悩んでしまいますから」
「だから俺に教えなかったんですか……?」

肯定するようにラクスは微笑む。
ラクスのいうとおりラクスの誕生日プレゼントは悩むだろう。彼女が欲しいものは何だろう、喜んでくれるものは何だろう。

「でも今まで聞かなかった俺に非があります」
「アスラン……」

ラクスが俺を困らせまいと思ってくれた事はわかる。
それでも俺をこのままで帰ってはいけないと思った。いつもの俺なら帰っただろう。でも今日は特別な日だから。

「俺があげられるものなら何でもあげます。だから言って下さい」

俺があげられるものなんてたかが知れているけれど伝えたかった。
遠慮をしないでほしい、と。
ラクスは俺の発言に驚いたのか僅かに目を見開いた。しばし見つめられ瞬きと共に表情も戻る。

「それでは頬にして下さい」
「え?」

ラクスは笑いながら人差し指で右頬をさした。
何を?と問う前に答えが自身の中で出た。つまり頬にキスを……?

「これから別れ際にして下さい。私がアスランの温もりを離れていても覚えていられるように」

何だか少し寂しさがまじった声に俺はラクスの肩に手を起き、そっと右頬に唇を寄せていた。
互いが互いの温もりを忘れないように。



「アスラン、お待たせしました」

トレーの上にティーカップを載せてラクスがやってきた。
ほんのり香る甘い香りは紅茶か彼女のものかわからない。

「何だか嬉しそうですわ」
「嬉しいですよ」

今日は特別な日なんだからと言いながらラクスの唇に自身の唇を寄せた。



H23.2.5




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