Wing my way〜for future〜
ピントが合いシャッター音が鳴る。撮ったものを確認し次へ移動しようとした。
「こちらへいらっしゃったんですね」
「ラクス!?」
ここまでくるとは思わず驚いてカメラを落としそうになる。
「危なかったですわ」
かろうじて落とさずにすみ、ラクスも両手を伸ばしカメラを掴んでくれた。
「……ラクス」
「アスランは心配しすぎですわ」
さすがにここまでは車で送ってもらったのだろう。みんな止めたかったに違いないのに押しきられた様子が目に浮かぶ。
「移動しよう」
「はい」
手を差し出すとすぐに重ねられラクスの手を引いて車へ向かった。
「動かないとかえって駄目だと思いますの」
運転中ラクスが訴えかけてくる。ここ最近安静に安静にと言われ続けている反動だろう。やたらと動きたがるし職務までこなそうとする。皆早く戻ってほしいのは山々だが身重の女性に頼むわけにはいかない。
「限度というのがある。清掃までやりださなくてもいいだろう」
「手が足りないと言われていましたので」
それで手伝う議員というのはどうなのだろう。むしろいいのか?しかし突然ラクスが手伝いだしたら恐縮してしまいそうだ。
「怪我はしないように」
「はい」
ラクスも子供ではないのだからそのあたりはわかって行動しているだろう。だがやはりこういうのはどうしたらいいかわからず過保護になってしまう。
見覚えのある景色になったからかラクスは外を眺め無言になった。やがて到着する。
「ラクス、待って」
ドアを開けようとするラクスを呼び止めて言い聞かせる。素早く車から降り回り込んでドアを開けた。
「気をつけて」
「一人で降りられますわ」
そう言いながら差し出した手は取ってくれてラクスも車から降りた。
到着したのはクライン邸の跡地。今は更地になっている。皆避けるようになっていてずっと更地のままだ。
「ここへ来るのも久しぶりですわね」
「少し距離があるからな」
自然と歩が進みかつては庭園だった場所までくる。今日はハロはいない。だから静かなものだった。
「ピンクちゃんはお元気ですか?」
「それはもう元気だ。色々搭載して戻ってくる」
ハロは機械だ。機械に対して元気かと尋ねるのもおかしいがラクスは初めからこうだった。ハロを友人のように接し調子が悪いと心配した。
最初はそんなラクスの対応に戸惑ったものの今は自然と答えるし一人の時でも元気か?と尋ねてしまうくらいだ。
「やっぱりピンクちゃんがいないと寂しいですわね」
前方を見つめながらかつての風景を過らせたように呟く。ハロは危なっかしく思え最初は安定期に入るまで、次は出産するまで、今は出産後退院するまでは預かることになっているがまた延びそうな気もする。
「アスランの用事は何ですの?」
「そうだった」
言われて目的を思い出しカメラを取り出しレンズ越しに空を見上げた。
「写真を撮りに来たんですの?」
「ああ、数日撮ってるんだがしっくりくるものが撮れなくて」
「ただ撮られているわけではありませんね」
見通されるだろうとは思っていた。別に隠していたわけじゃない。それでもどこか気恥ずかしくて黙っていた。
気恥ずかさをごまかすように体勢は変えないまま説明する。
「パズルを作ろうと思ったんだ」
「以前持っていたようなのですか?」
「そう。……生まれてくる子供に贈りたくて」
まだ実感が沸かない。自分が親になるということ。それでも何か準備をしたくて思い付いた贈りものだった。
「素敵ですわね。でも難しいですわ」
「そうなんだ。構図とかグラデーションが」
しっくりくるものが撮れないと言いかけて強い風に阻まれた。風に靡いたラクスの桃色の髪がフレームに映りこむ。
「……ラクス」
「はい」
「ここに立っていて下さい!」
つい敬語が出てしまいラクスは驚きながら笑って頷いた。
後ろに下がりアングルを確認し撮影していく。やがて陽は傾いていき鮮やかなグラデーションになった。
「しっくりくるものは撮れましたか?」
「ああ、ありがとうラクス」
ラクスの後ろ姿を入れた空のパズル。俺がこの場所で出会い、至るまでの風景。
「パズル作りはお手伝いしたいですわ」
「もちろん手伝ってもらう。作業は中でできるし」
撮影はどうしても外を回るようだったからラクスは連れて行けなかった。でも結果的に二人でないと完成しないなんて前の時のパズルと同じだ。
「楽しみですわ」
帰るために車へ向かおうとして再び手を差し出した。ラクスの手を引いていく。
「ここに家を建てようと思うんだ」
「え?」
ラクスにしては珍しく驚かれる。
「嫌だったか?」
「いいえ!いいと思いますわ」
笑顔に安心する。ここはクライン邸の跡地でラクスが生まれ育った場所だ。だからこそ躊躇いもあった。亡くした家族を思い出し辛いのではないかと。
「また家に帰れるのですね」
辛くないわけはない。でもラクスは辛さだけを背負っていく人ではないとわかっていたからこそ決めた。だからその言葉に安堵する。彼女の家になれることを。俺の家になってくれることを。
「髪の色は何色でしょうか」
「女の子ならピンクがいいな。ラクスのように」
きっと可愛らしくも強い子になる。
「では男の子でしたら」
俺と同じ藍色と言うかと待ってみた。
「紫ですわね。でも女の子も紫でもいいと思いますわ」
出会った時の会話を思い出す。あの時はわからないが今はそうならないとわかっていて発言しているはずだ。懐かしむ意味と少し希望も入っているのだろう。
「対の遺伝子が実は私未だによくわかってませんの」
「まあ実際どうなるかはわからないからな。遺伝子だけで性格が決まるわけではないし」
「能力を生かすも殺すも自身ですわね」
これから生まれてくる子供には苦労をかけるだろう。それでも二人の子だからと信じている部分がある。
「家を建てる前にもう一度来たいですわ」
「そうだな」
子供と共に。
終わりは見えない。常に果ての見えない先を見つめるようだ。それをどう捉えるかは自分次第。どんな道もどんな空も自分自身で見つめていきたいから。
H27.7.20
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