生者には愛を、死者には花を


 


いくつもの墓標を横目に歩き僕はある墓の前で止まる。
何輪かを束ねた花を片手に持ったまま、その墓には置かずに佇む。
ここに置くために持ってきた花束。置かないのは彼がいるから。
少し離れていてもわかる。彼が迷っている事に。ただ僕の背中を見る事しかできない。
だから僕は声を潜める事もなく、聞こえるように言ってあげる。

「君は自分から死んだんだ」
「あんた……!」

草を踏む音と押し殺したような怒りが聞こえた。

「シン、どうしたの?」

まるで彼が僕を付けていたかを知らなかったように振り返り、彼に微笑む。
彼は彼女の墓の場所を知らなかった。だから僕を後をつけた。

「アスランやラクスを責めても意味はない、今度は僕を責めようとする?」
「そんな事……」

僕から顔を逸らすシン。彼は堪えていた。彼女が死んだのを誰かのせいにしたいのを。
実際、ラクスがプラントにいれば彼女を巻き込まずにいれたのかもしれない。でもそれは所詮仮定の話。もしかしたら、彼が行動した事で間接的にでも彼女を殺してしまったかもしれない。一つの行動が幾重にも繋がってしまう。
それでも恨みの矛先を誰かに向けないと、いつか忘れてしまいそうで怖い。

「君の気持ちはわかるなんて、僕には言えない」

逸らした顔が再び僕に向けられる。少しの間を置いて、僕は目を伏せる。

「でもそんなに簡単には忘れられないんだ」

忘れられたらどんなに楽だろう。
僕と関わらなければ、幸せになれたのだろうか。
誰かを憎めば、気持ちは楽になる。忘れずにいられる。それに縋れば生きていける。
でも進めずに戻れもせず朽ちていくだけ。

「愛してくれた人はどんな幸せを願ってくれたんだろうね」

目を伏せて堪える。何度空を見上げて涙を堪えただろう。流せば楽になれるのを知りながらも、まだあの人のためにその涙は流せない。

「俺は……あんたを責める気もない。俺もあんたに責められる気はない」
「そうだね」

薄く目を開き、それだけ言うと彼とすれ違い僕は歩いてきた道に足を向ける。花は手にしたまま。

「その花はどうするんですか?」
「どうしようかな」

問い掛けられ、足を止めると再び振り返りシンに近付く。
花を掲げ視線を向け、笑むとその花をシンに差し出す。

「君にあげるよ」
「え?」

困惑しながらもシンは僕からの花を受け取る。
彼女に手向ける言葉は見つからない。
行き場をなくした花は僕に似ている君に。

「死者への花をどうするかは君にまかせるよ」

わざとらしく笑んだまま言い、絶句する彼に背中を向け僕は歩き出した。
もう触れてくれないなんて、笑いかけてくれないなんて、くちづけを交わせないなんて、思いたくない。
誰も憎めないなら信じなければいい。
でもそこに形があるならどうするかな。それを見てしまえば終わってしまう。
箱の中にはどちらかしかないのだから。
僕と違うのは君は涙を流す。止めどなく、止まらずに流して、見るものはなんだろうね。


生者には愛を
死者には花を
どちらかしか与えられないなら
君はどちらを選ぶ?



H18.7.10



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