箱の中の花


 


“もしかしたら私は貴方に殺されたのかもしれませんわね”

ラクスにそう言われて何も言えない自分。

“そこに100%のものがあっても、決して確実なものなんてないんだよ”

そう言って笑うキラが怖く感じた。やはり何も言えなかった。

「アスラン?」
「キラ、どうしたんだこんな所で」
「別に?」

墓石が並ぶこの場所で特に用もないのに来るわけがない。その笑顔と周りにある墓石とはあまりにも不釣り合いだ。

「アスランは何をしに来たの?」
「ミーアの……墓参りに」

キラは何も返さず来た方向を振り返った。一瞬顔が強張った気がしたが向かい風に視界を阻まれ、その一瞬の内にキラはこちらに向き直っていた。

「今はシンがいるならやめた方がいいんじゃないかな」

やめろではなく促すような言い方。どうしてと聞かなくても理由はわかる。

「別に逃げる理由はない」
「僕は逃げろなんて言ってないよ」

責められたような気がした。そして自分が口にした言葉に気がつく。
シンは俺を責めたいだろう。なのに曖昧な言葉で隠すようにやり過ごす。

「君を責めたら認める事になるからね」
「……まるで俺が考えている事がわかってるような口振りだな」

何がおかしいのか数秒小さく笑われる。ここでこうしていても仕方がないか。
俺はキラを追い越し、目的の場所に足を進めようとした。

「扉を開けて彼女が死んでたらアスランはどうしたの?」

耳元に小さく言われたそれは確かにはっきりと残った。
もう俺の中の彼女は死者だったのかもしれない。
開ける前からわかってしまうのは縋る確率もないからなのか。
どうしたのかは……わからない。


「キラ?」

振り返ってあたりを見回してもさっきまで会話をしていたはずの彼はいなかった。
そして目的の場所に行くと信じ難い光景がそこにはあった。
掘り起こされた土、穴の横には棺桶と覆いかぶさっている少年。それを見守る墓石にはミーアの名前が記されている。

「何をやってるんだ!」

花束を地へと投げ出し、見知った少年の身体を揺さぶる。すぐに乱れた黒髪は上がり赤い目が俺を見上げた。

「シン、こんな事して……」

いつからここにいたのかシンは泣き腫らした目から更に涙を流し、また棺桶に覆いかぶさる。

「中を見たのか?」

残酷な事を聞いている事はわかっている。それでも聞かなければいけない。埋葬してから長い年月は経っていないが見るのは酷な姿になっているはずだ。
ミーアもシンには見られたくないに違いない。

「見たら何か起こるんですか?」
「じゃあ何故お前はこれを掘り起こした」

どうにもならないとわかっていても掘り起こしてしまったのか。
それとも先ほどまでいたキラに何か言われてこんな事をしたのか。

「ミーアは生きてるんです……」

たとえ死者となっても人の心の中には生者となる。それがたとえ過去だけでも暖かいものだと俺は知ってはいるつもりだ。
でもシンの気持ちがわかるかと言えばわからない。自分の気持ちさえわからないのにどうしてわかるというのか。

「だけどもういない」
「でもシンの中には……」
「半分なんてありえないんですよ!どちらしかない。死んでるのに生きてるなんて……絶対ないんだよ」

一度は気持ちの高ぶりにあわせて顔をあげるが、声が弱くなると共にまた身体を伏せてしまう。泣いているのか声を押し殺しているが身体は僅かに震えている。

「だから開けようとしたのか?」

シンはまだ開けていない。開けていたら何も言えないだろう。

「開けて、はっきりしたものを見ようとしたんだな」
「あっ」

身体を無理やり棺桶から引きはがす。思ったより軽い身体は気怠げに俺に体重を預けて寄り掛かり、棺桶を見ていた。

「花束……」

俺が先ほど地に投げてしまった花束かと思ったが視線は違う方向に行っていた。そこには花束が無造作に地面に落ちていた。
また強い向かい風が吹いたかと思うとシンは俺から離れていた。
今度は棺桶ではなく花束の方へ。
シンの手が花束に届く前に拾いあげられてしまう。

「そして殺すんだね、君が」

キラはシンに言った。そして俺にも言っていた。


花を棺桶にいれたら
いつかは枯れるものでも
その形を見なければ枯れずにいられるのだろう
空想の50%は
現実の50%に
かなわない
決して叶えてくれない願いを
誰かが叶えてしまう時が来るのか
わかりきった真実に
もがく時間を
無駄な時間を
そして突き落とされた先には
彼女がいる



H18.8.21



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