そして朝日浴び、鈴が鳴る
「アスラン!何か欲しい物ある?」
「変な物じゃあないもの」
アスランの回答にキラは少し不服そうな顔をした。
「それってまるで僕が今まで変な物あげたみたいに聞こえるんだけど?」
「変なさくらんぼとか変な紅茶とかが変じゃないって言うのか」
どこから仕入れたのかわからないものをラクスに食べるようし向けたり自分に飲ませたりされた事があるためかアスランは警戒していた。
予想範囲内ならいいが予想外な事ばかりおきて対応しきれないからだ。
「時には困難な道の幸せを掴むのも人生だよ」
「最もな事言っても変な物はいらない」
どちらも引く気はなくしばらく沈黙が続いた。
「……猫」
「へ?」
アスランの小さな声が聞こえキラはぽかんとした。アスランが素直に欲しい物を言うなんて思わなかったのだ。
「猫が欲しいの?」
「あぁ……」
「わかった!」
アスランのそのあと言葉を聞き取らずにキラは走り去った。
「ラクスが欲しがっていた……って聞いてないな。まぁいいか」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「誕生日おめでとう!」
「これは私からだ」
キラの笑顔を横目にアスランはカガリから誕生日プレゼントをもらった。
「これは……首輪?」
箱を開けると中には赤い首輪が入っていた。
「キラから猫をもらうんだろ?だから首輪とかねこじゃらしとか」
「子猫とかじゃないのか?」
明らかに少し輪が大きな首輪。鈴までついて揺らすとチリンと鳴った。
「子猫、かな?」
「その間と疑問形はなんだ!?」
キラはあははと笑いながら流した。その態度をみてアスランは確実にキラが何か企んでいると悟った。
「もう“猫”はアスランの家にいるから早く行ってあげなよ」
そして満面な笑みを見せるキラ。アスランは背中を押されたが問いつめようとでていこうとはしない。
「アスラン、今日ラクスはどうしたの?」
「え、ラクスはこのあと俺の家に来るからと……ま、まさか」
突然のキラの問いにアスランは問いつめなくても何となくわかってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ったく、変なさくらんぼとか変な紅茶とかフリル服とかキラは何でそんな物を持ってるんだ?……そういえばこの前は」
以前ラクスがセーラー服やらメイド服やら猫服やらを着ていた事を思い出した。
あの時もキラがラクスに服を渡して俺の前に現れて……。
「お帰りなさいませ」
「そう、こんなふうにドアを開けたらラクスが出迎えて……えぇ!?」
考えごとをしながら自宅の扉を開いた。そこにはいるとわかっている少女がいたがアスランは驚いた。
「ら、ら、らくす?」
「はい」
半ば声を裏返らせながらも目の前にいる少女の名を呼ぶ。そしていつもと変わらずにっこりと笑みを浮かべ返事をする少女。
しかし何かが違った。
「っ……くすぐったいですわ」
「……本物?」
ラクスの桃色の髪に紛れて何かが生えている。アスランはそれをそっと掴み触った。
本来それに触ればふにふにするものだがそれに加えもこもこしている。
「猫耳!?」
アスランがそう叫ぶと驚いたのかラクスの耳はぴくぴくと動く。
「……しっぽ?」
耳と同時に動いたそれはアスランの視界に入り思わず掴んだ。
「きゃっ、ぁ」
掴まれた瞬間にラクスは声をあげ頬を赤く染めていた。その表情にアスランは思わず
「……しっぽが性感、たっ!?」
どこからともなくハリセンが飛んでくると打ちどころが悪かったのかアスランはその場に倒れてしまった。
“一年後の明日、貴方と共にいたいと願う私はわがままなのでしょうか?”
雨の中、佇む君がいた。悲しい笑顔で俺から少し離れた場所で君は俺を見ていた。
抱きしめたいのに駄目だと何かが告げた。
何も始まっていない。何も終わっていない。
そう、まだ何も君に伝えられていない。
決めるのは自身だと、望みは高くても気持ちは……。
「アスラン?」
くぐもった音が突然鮮明になりアスランは目を覚ました。
「ラクス……えっあ、あの」
ラクスの顔を見て安心するが自分が置かれている状況に戸惑った。
「寝心地、悪いですか?」
猫耳が少ししょぼんと垂れた感じがした。
夢じゃなかったのかとアスランはその耳を見て確認した。
「寝心地は悪くはないんですが……その、もう大丈夫ですからっ」
ラクスに膝枕をされあたふたとアスランは身を起こした。
「何か飲み物だしますね」
赤い顔を隠すようにキッチンに消え、トレーにティーカップを乗せ戻ってきた。
「あっ、ピンクちゃん!?」
「えっ、うわ」
突如現れたピンクハロ。狙ったかのようにアスランの足下に滑り込みアスランは見事に転けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ハリセンなんてどこで手に入れたの?」
「企業秘密や」
先ほどまでアスランとラクスがいたリビングにはキラとえせ関西弁を話すアスランそっくりな少年がいた。ただし髪はピンクだが。
「まぁハリセンはいいけど、駄目だよ邪魔したら」
「いたいけな猫耳少女を汚す輩は成敗なんや。そもそもキラはんが猫耳少女なんかにしてはるから……」
「ラクスが望んだしアスランもほしがってたし」
はたから見れば良い事をしたキラだがアスラン似の少年にはわかっていた。
「あんた、楽しんではるやろ」
「いやだな〜、僕が使う前に試験使用してるだけじゃないか」
「余計たちが悪いわ」
笑顔で答えるキラにそんなツッコミをした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アスランとお風呂なんて久しぶりですわね」
髪を洗いながら湯船に浸かるアスランに言った。そんなアスランはなるべく直視しないよう背中を向けている。
「そ、そうですね」
アスランが転けた事で飲み物をかぶってしまったラクスはお風呂に入らざるを得なかった。
しかし一人では嫌ですと初めは反抗し最後は泣き落としで今の状況に至るのだった。
「アスラン、背中を流していただけませんか?」
ラクスはアスランが断れないとわかっていながらあたかも選択があるかのように聞き、アスランに背中を向けた。
「わ、わかりました」
「あ、あす……ふっ」
振り返ったアスランを見るなりラクスは吹き出した。
問いかけから間があったので何をしていたのかと思っていたがタオルで自分の目を隠し、後頭部にはタオルの結び目があった。
「ラクス?」
「タオルで目を隠してしまったら何で背中を流してくださるのですか?」
沈黙。
やがて気づいたのかアスランはがびんっと効果音がつきそうなリアクションをすると困り果てた。そんな光景もラクスはくすくすと笑いながら見ている。
「アスランの手で洗っていただけますか?」
「えぇ!?」
ラクスの発言にあたふたしながらもアスランの手には固形石鹸が手渡された。
「手だなんて……綺麗とは言えないし」
アスランが渋っているとラクスの口からはくしゅんという音が吐き出された。
このままでは風邪をひかせてしまうかもしれない。
そう思い視界を閉ざしたまま手の中にある石鹸を泡立てた。
「い、いきます」
「はい」
恐る恐る前に手を突きだす。すぐに暖かい何かに触れた。
しかしそれは思っていた感触とは違い異様に柔らかかった。
「アスラン」
「わっ」
突然光が目に入り一瞬眩むがすぐに自分がどこに触れているかが視界に入った。
「む、む、」
“胸”には何度も触れ、それ以上の事さえしているはずなのにアスランは顔を真っ赤にさせすぐにラクスの胸から手を離した。
「アスラン」
猫耳をぴくぴく動かしながらアスランをじっと見つめるラクス。
そんなラクスから一度視線をはずし理性を保つべく不思議に思っていた事を聞こうとした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
“猫?”
“はい、欲しいと思いませんか?”
“まあ……可愛いし”
“やはり可愛いと思いますわよね”
ラクスのしょんぼりした受け答えに何かまずい事を言ったんじゃないかと思った。
“で、でも俺、猫には嫌われてるみたいですから。飼いたくても飼えないというか”
実際去年猫を拾って散々な目にあった。でも可愛いと思うから不思議だ。
一度だけ飼った猫を思い出し何だか寂しい気持ちにすらなる。
“飼いましょう!猫さんをっ”
“は、はぁ……ラクスが飼いたいなら”
そんな会話をしたのがつい先日だった。
「猫、か」
アスランが目を覚ますと隣にはラクスが寝息をたてていた。
相変わらず猫耳は生えたまま。
先ほどラクスになぜ猫化したのかを問おうとしたらどうやらのぼせたせいで気を失ったようだった。
「服……ラクスが着せてくれたのか」
きちんと服を着ている自分を見てから時間を確認するためデジタル時計に視線を移す。
「……“10月28日”」
時間を確認するよりも日にちに目がいき、アスランは何度か瞬きを繰り返すともう一度デジタル時計を見た。
そういえば最近はラクスがアスラン宅に泊まり、アスランが時刻を確認しようとすると確認する前に教えてくれたりしていた。
こまめに電話をかけてきていたキラも毎回“今は○時○分だよ”などとなぜか逐一報告してきていたため時計を見る事をしていなかった。
それは全てアスランの日にちの感覚をなくすためだと、周りが誕生日の祝いを言えば今日が誕生日かと認識するように仕組んでいたのだ。
しかし何のために。
「ん……」
そんな事を考えているとラクスがゆっくりと瞳を開けアスランに笑いかけた。
「今、何時でしょうか?」
少し寝ぼけているのかいつもよりゆったりとした早さで話しかけられた。
「0時少し前です」
アスランの答えにラクスはぼぉーと耳を傾けていたがすぐにがばっと起きあがったのだった。
ラクスに腕を引かれ庭へと出てきた。
秋も終わり頃のせいか夜はひどく冷え込む。
なぜ外に出てきたのか聞いても笑顔で流された。あまりの冷え込みに仕方ないので毛布や暖かい飲み物を用意した。
そうこうしている0時は過ぎアスランの誕生日となった。ラクスからはまだ祝いの言葉をもらっていないという事にやっと気づいた。
「何で猫なんですか?」
他にも聞きたい事はあったが今答えてくれそうなのはこの問いだと思いアスランは聞いた。
「アスランが……猫をお好きなようでしたので。でも飼う気、飼いたくても飼えない気持ちがあるんではと思いましたの」
ラクスは少し顔を傾がせた。その時チリンと音が鳴りいつの間にかラクスが鈴付きの首輪をしていた事に気がつく。
「タイムが亡くなった時ひどく悲しくて。でも寂しくて、悲しさよりも寂しさが大きい事に自分が嫌な奴だと思いました」
話しながらアスランは立ち上がり伸びをした。
ラクスは動かずただアスランを見つめている。
「本当に俺はあの猫を必要としたのか。ただ寂しさを埋めたかったのか。そんなために俺に飼われ亡くなるのをもう見たくない。ラクスの言うとおり飼う気がないんです。だけど好きなのかはわかりません」
チリンとまた音が聞こえたかと思うと背中が暖かくなり同時に暗く寂しげだった眼前の景色も明るく暖かいものになった。
「お誕生日おめでとうございます」
後ろから聞こえた言葉に胸が苦しくなりいつしか涙を流していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで戻す方法わかったんだ?」
自分の小皿に料理を移しながらキラは満面な笑みを見せているアスランに聞いた。
「いや、戻す方法は全くわからなくて、って戻し方ぐらいラクスに教えといてくれよ」
「まぁ教えなくてもアスランは健全な思春期の男児だから戻せると思ってたからさ」
春巻きを口にしながら言われアスランは何かを思い出したのか照れ笑いを浮かべキラの背中をばんばんと叩いた。
「そういえば猫はどこにいるんだ?」
カガリがアスラン宅のリビングを見渡しながら聞いてきた。
「それは……」
まさかラクスがそうでうにゃららで元に戻ったなど言えずアスランは言葉を濁した。
「猫ならおりますわ」
飲み物を持ってきたラクスがいつ会話を聞いていたのか微笑みながらそう言った。
「え……どこにですか?」
うちに猫なんかいたかと思いながらアスランは聞くとラクスはにっこりと微笑み人差し指で自分をさした。
−雨に濡れた悲しい思い出は胸に残ったまま
雨はやまない
鈴の音が朝日を連れてきていつか雨はあがる
それは悲しい思い出をも優しい思い出に変える魔法
おめでとうにありがとうと伝えられる日
それは最高のプレゼント−
H16.10.29
H17.3.9
book /
home