今はまだこの窓を閉めさせないで


 


「カガリ?入るよ?」

返事がないので部屋に入ると、いないのかと思ったカガリの姿があった。
机の上には書類の山。それに背を向け窓から外を見ているみたいだ。

「はぁ……」

少し近づくとため息。僕の事には気がついていないみたいだった。
近づく足を止めて佇む。
開いている窓から風が吹き込みカガリの髪を揺らした。
後ろ姿を見ただけでこれ以上彼女に近づいてはいけないんじゃと思う。
あの瞳に見つめられたらそんな事も考えられなくなる。

「キラ、来てたのか」
「うん。呼び掛けたんだけど返事がないから勝手に入っちゃって……」

不自然な距離を保ったまま会話を続ける。

「寒くない?窓閉めた方がいいんじゃない?」

昨夜は特に冷え込み雪が降った。その雪は積もり、窓からもその光景が見れる。

「いいんだ。なかなか外に出れないしな、せめて風にあたっていたい」

確かに窓を開けていれば外にいる気分にはなれるかもしれない。
でも触れる事はできない。あの雪には。
どんなものかわかるからこそ、手にしたい気持ちは強いだろうに。

「カガリ」
「何だ?」

距離を詰めてカガリの手を取る。カガリは不思議そうに僕を見た。

「雪だるま作ろうか?」

僕の言葉にぽかんとするカガリ。そんな表情も可愛いと思う。

「雪を見ると無性に作りたくならない?でも一人だと……」

少し目線をはずしてからカガリをちらりと見る。
カガリは口をぱくぱくさせて少し顔を赤らめながら言ってくれた。

「キラがどうしても作りたいって言うなら手伝ってやるぞっ」


「カガリ、寒くない?」
「そんなに気にしなくても大丈夫だ!」

そんなふうに言いながらも嬉しそうに雪の玉を転がしていく。

「キラ、お前も転がさないと駄目だぞ」
「僕はもう終わったから」

笑いながら言う僕の真後ろには大きめな雪の玉。

「速すぎる!」

そんな怒られても……と思うけどカガリらしくて笑ったらカガリは更に膨れた。
再びカガリは雪の玉を転がし始める。
すると再び僕の方に顔を向けた。

「手伝わなくていいからな」
「うん、わかってる」

手伝おうかと聞いても断るに決まってるからあえて聞かなかった。これ以上怒らせても、ね。

「笑いすぎだぞ!!」
「ごめん、ごめん」
「できたっ!!」
「即興で作ったわりにはまあまあだよね」
「……もっと素直に喜べないのか?」

カガリの雪玉が完成し、目や手となる道具を探し完成したのは夕方だった。
顔が少し怒っているように見えるのはカガリが作ったせいだろうか。
そんな表情も愛嬌がある。

「……くしゅっ」
「やっぱり寒いんじゃないか」
「違う!」

くしゃみをして、僅かに体を震わせながら言う台詞だろうか。
上着を着ているとはいえ長時間外にいるには薄着と思える格好だった。

「キラ?」
「こうすればあったかいでしょ?」

ロングコートのボタンを全部はずし広げるとカガリの体を後ろから包んだ。
脱いで掛けてあげばいいのにこうしたのは僕がこうしたかったから。

「あったかいな……」
「カガリ、体温高いから」
「私が子供って事か?」

ムッとした顔で振り向かれ思わず頬に唇でそっと触れた。

「キ、キラっ!?」
「もう少しだけ雪だるま見てから帰ろうか」

僕が何もなかったように言うとカガリは前を向いて俯いて軽く頷いた。


君の手にこの雪がある間だけ
二人で作ったものを見ている間だけ
僕の中にいて
今は束の間でいい
気付かずに
ここにいて
いつか窓を閉めるから
君を送り出すから
今はまだこの窓を閉めさせないで



H18.2.13



book / home