小さな輪が結ぶ未来


 


「誕生日プレゼント?」
「うん」
「俺に聞いてくるなんて珍しいな」

アスランのいう通りたいがいアスランが僕を尋ねてくる事が多い。アスランは変に堅い所があるから。もう少し軽く構えてもいいのに。

「でも去年とかもあげてなかったわけじゃないんだろ?」
「それはそうなんだけど……」

カガリと僕の誕生日が近付いていた。
去年と違うのは関係。アスランに対して軽く構えてもいいのにと思いながら自分も堅苦しくなってる気がする。

「やっぱりいいや」

いつも通りでいい。
カガリもそれを望んでいるに違いない。この関係に変化するのを怖がってたぐらいだから。
いつも通りに努めよう。

「え、キラ!」

帰ろうとした僕の左手を掴むアスラン。そして何故か指を執拗に触ってくる。

「何?」
「いや、何でも……ないんだ」

何でもないとは言い難い行動。しかしそれ以上追及する前に手は離れた。

「何か身につけられるものとかはどうだ?」
「……アクセサリーとか?」
「貰った方も嬉しいだろうし、身につけてるのを見るとこっちも嬉しいし」

これといってプレゼントを決めてなかったためアスランの助言を素直に受け取る事にする。
帰りにプレゼントを購入して当日を迎えた。


「誕生日おめでとう、カガリ」
「キラ、来てたのか。キラも誕生日おめでとう」

執務室で待っていた僕はカガリが帰ってくるなり笑顔で祝いの言葉を口にした。
一緒に住んでいるのだから別に家で待っていればいい。でも互いの部屋がある家で待つつもりはなかった。もし彼女の部屋で祝ってしまえばこのままではいられない。

「キラへの誕生日プレゼント引きだしに入ってるんだ」

そう言いながらカガリが普段座っている椅子に座る僕に近付いてくる。
机の引きだしを開けて小さめの包装された箱を取り出す。
カガリはそれを差し出した。僕も手にしていた箱をカガリに差し出し、交換のように受け取った。

「キラ、ここで開けてみてくれ」
「ここで?」

この場で開けていいものか迷っていたけどカガリの言葉で、包装を丁寧に取り去っていく。

「私も開けていいか?」
「もちろん」

カガリが箱に手をつけはじめた頃には僕は箱を開けていた。
それに胸が高鳴る。貰った事もあげた事もないけど目にした事はある箱。
それは僕が数日前に店屋で見つめたもの。

「ブレスレットか!これなら普段もつけてられるな。ありがとう、キラ。……キラ?」

プレゼントしたブレスレットを掲げて喜ぶカガリに僕は俯いて箱を見てるしか出来なかった。開けないのを不審に思ったカガリが呼び掛けてきても顔をあげられない。

「えっ……?」

しばらくの沈黙のあと手にしていた箱が奪われた。カガリを怒らせてしまったか、もしくは悲しませてしまったかと見上げる。
見上げた時には箱からそれはカガリによって取り出されていた。取り出した手にはブレスレットがきらきらと光っている。

「本当は何をあげていいか迷ったんだ」

カガリは僕の左手を取って言った。迷ったのは僕も同じ。でも彼女の迷いは僕と同じものなんだろうか。

「無理して変化を物にするのも変かなって。でも無理するのと踏み出すのとは違うから」

スッと薬指に輪がはめられた。カガリが僕にくれた指輪は確かにそこにあると冷たい感触をくれる。

「キラが私を思って無理してるのもわかる。でも私はキラが好きだから」

カガリの手が離れた左手をじっと見てから、視線を窓に移した。空は赤く、落ちる陽が眩しい。

「カガリを信じてたんだ。でも僕がカガリに無理させて……強要させてしまった関係なんじゃないかとも思えて。ずっと側にいられるならそれ以上の事はないはずなのに」

変化しなければ晴れた空はそのままそこにある。雨が降る事も、陽が落ちて暗闇に侵される事もない。
安定した空間で安定した関係だけを望めばいいのに、僕にはそれが出来なかった。

「陽が、落ちたな」
「うん……」

しばらく窓の外を二人で見ていた。赤かった空は染めたものをなくして暗くなっていた。

「キラ」

呼ばれて反射的に顔をあげると視界が暗くなった。少しだけ明るくなった視界に大きな瞳が近くにあって、状況を把握する。
はじめてではない口付け。それでも数えるほどしかなくそれ以上はない。

「無理するのと踏み出すのとは違うんだ」
「無理して踏み出してみた場合は?後悔しない?」

僕の問い掛けにカガリはふっと微笑んだ。陽が落ちて月明かりだけなのに、綺麗な彼女。薄暗いはずなのに彼女に回りの暗さなど関係ないように綺麗だった。

「足踏みよりは進歩があるならいいんだ」

変化を怖がったのは僕だと気がついた。カガリのそばにいれなくなるかもしれない、これ以上を望めば嫌われてしまうかもしれない。
だから指輪を買えなかった。
怖かった。薬指につけるのをためらわれてしまったらと思うとショーウィンドウ越しに見つめる事しか出来なかった。

「カガリらしい、ね」
「私は私だからな」

僕も踏み出そう。足踏みではなく、ほんの少しでもいい。
カガリの左手を取って薬指の付け根にキスをした。

「アスラン全部知ってたでしょ」
「な、何がだ!?」

後日アスランを訪ねて気になった事を聞いてみた。
あからさまに肯定しているようなリアクション。

「今回は反対になっちゃったなー」
「キ、キラの指輪のサイズなんて調べてないぞ!?」
「はいはい」

どうやらカガリもラクスに相談したらしく、アスランが僕の指輪のサイズをこの間調べたらしい。だからあんなに指を触ったのか。
そう考えるとあちらが一歩早くて何だか悔しい。
ついでに今回のアスランの活躍も悔しい。

「いつもは僕が手助けして遊ぶのに」
「やっぱりお前わざとやってたんだな!」

一言多かったらしい。今までの事を思い返してアスランが少し怒っている。

「でも結果的には良くなってるわけだしいいじゃない」
「もう少し過程を何とかしてくれ……」

何を言っても無駄とわかってるのかアスランは脱力しながら僕に訴えかけた。

「じゃあ僕行くね」
「あ、ああ」
「ありがとう、アスラン」

用事をやっと済ませて手を振ると、礼に驚いていたアスランは笑って手を振り返した。
きっと僕の手の指輪を見たからに違いない。
まだ慣れない感触がある手を握って、僕はカガリが待つ家に向かった。
きっと遠くない未来に僕も彼女に贈るだろう。小さな輪を。



H19.5.18



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