宝物に伝えた愛は
「……大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、ちゃんと空気穴開けてあるし」
人が入れそうなぐらいの大きさの箱にリボンをつけながら答える。
カガリは不安そうに見ていた。
「でも何で箱にいれるんだ?」
「開ける楽しみがあるから、かな」
「そういうものなのか」
大きな蝶々結びを作り、包装完了。
あとは運ぶだけ。
この時の発言がまさか数ヶ月後に影響するなんて思いもしなかった。
耳にあてた受話器からは何回目かもわからない呼び出し音が聞こえる。
急く気持ちとは裏腹にやらなければならない事はこうして待つ事。
「しつこいぞ!いいか、俺は怒ってるん」
「カガリがいないんだ」
やっと出た電話相手の言葉を遮った。
電話相手……アスランは状況を察したのか、声のトーンを下げた。
「書き置きとかないのか?」
「うん。どこかに行くとも聞いてないし、一日連絡がないなんて」
「待て、何か鳴ってないか?」
「え?」
アスランの指摘に耳を澄ませると家の中で呼び鈴が鳴っていた。
一定間隔で鳴っているあたりしばらく鳴らしてるのかもしれない。
「ごめん、かけ直す」
カガリでない事はわかっていた。鍵を持っているのに鳴らすわけがない。
宅配ならしばらく出なければ不在だと思うはず。
なら誰だというのか。
「はい」
「お届けものです」
一瞬宅配業者に偽装した者かと疑ったけど、聞き覚えのある声に扉を開ける。
「さっき電話したら出なかったね」
「へ?あ、電源切ってたかも……って、そっちこそいるなら早く出てきて下さいよ」
扉を開けるとそこにはシンがいた。
後ろにあるものを見せるようにシンは横にずれる。
「……何かな、それ」
「箱ですよ」
ものすごく予想できる。
自分がクリスマスにやった事だ。人が入れそうな箱に人を詰めて届けた。
だから予想できる。中にいるのがカガリだと。
「シン、カガリ知らない?」
「さあ?あ、その本人に届けてくれって頼まれたんですけど当の本人がいなくなっちゃって」
それはそうだろう。本人はこの箱の中だ。
僕はシンに視線を向ける事なく箱を凝視する。
「中に運ぶの手伝ってもらえる?」
「はい」
シンに手伝ってもらい箱を持ち上げる。違和感。
一度経験してる事だけに違和感があった。重さだ。
「軽いね」
「そうですね。見た時はあからさまに重そうだなって思ったんですけど……キラさん!?」
中のものが明らかに違うものだとわかるとシンを置いて急いで家の中に箱を運ぶ。
包装を取り去り箱を開く。
「……そんな」
「くま、ですね」
箱の中には大きなくまのぬいぐるみが入っていた。
ぐらりと地が揺れる感覚がした。
じゃあカガリはどこに行ったというのか。そもそもカガリが僕と一緒にいたという事実はなかったのか。
今いる地とカガリと一緒にいた地が違ったというのか。
「キラさん、電話鳴ってますけど」
シンに言われて我に返るとすぐに電話をとる。
「キラ、カガリは見つかったか?」
「アスラン……僕、わからなくなったよ」
彼女がいる箱なんてなかったのかもしれない
陽も暮れて家の中は暗い。電気をつけても一人なら意味がない。見ていたい人がいないのだから。
寝室のベッドに腰掛ける。ため息もでない。ただあるだけの空虚感からも何も出ない。空虚なのにあるなんておかしい。
はじめから失うものがあったかも定かではないのに。
“じゃあキラは私がプレゼントした箱を開けてくれるか?”
“もちろん。でも僕はそのままがいいな”
“さっきと言ってる事が矛盾してるぞ”
“だって僕はあげたいものがわかってるし、自分の欲しいものも知ってる。箱の中に詰められなくても見えてるよ”
“そっか。私もそうだな”
でもそれは見えてなきゃ不安なんだよ。
目を開けたら暗闇の中にいた。夢の中が光の中にいた気がするなんておかしな話だ。
違う。
自分で作った穴に入ってどうするんだろう。埋めてどうするんだろう。
「見つけなきゃいけないんだ」
寝ていた身体を起こす。早く見つけなければと、きっと彼女も待っていると信じて立ち上がる。
「くしゅんっ」
それは同時だった。
立ち上がるのがスイッチだったようにくしゃみが出た。でも自分の口からではない。
地べたに這うように身体を屈ませてベッドの下を見る。
そこには身体を丸めたカガリがいた。
「かくれんぼをした覚えはないんだけどな」
「怒るなって。その……ごめん。まさか寝るとは思わなくて」
ベッドの下からカガリを救出して身体を毛布でくるませた。
カガリは申し訳なさそうにうなだれる。悪気があったわけじゃない。僕も怒っているわけじゃない。
「心配したんだよ」
冷えたカガリの手を握るとカガリは僕の方に顔を向けた。
「それに謝るのは僕の方なんだ」
カガリがわからないと言ったように首を傾げる。
今度は僕がカガリから顔を背けた。
「カガリがいなくなって、本当は今までがなかったんじゃないかって思った」
夢のような時間だったからこそ見えなければ疑ってしまう。
僕の見た出来すぎた幻なんじゃないかって。
「でもそれはカガリを疑うのと一緒だと思ったんだ」
「私がキラを好きじゃないと思ったのか?」
カガリの言葉に軽く首を振る。自嘲の笑みが浮かぶのはきっと少なからずそれを恐れてるから。
「きっとカガリは僕を好きでいてくれる。でもそれは姉弟として」
一緒にいれるならそれでもいいと思う自分もいるけど、もうそれ以上を知ってしまったら戻れない。
その現実を見るのが怖くて最後の方は声が掠れていた。
しばらくの沈黙のあと横からぎゅっとカガリに抱きしめられた。強く、痛みを感じるぐらい。
「好き、だからな」
「……うん。愛してるよ」
「なっ」
顔は見えないけど声で驚いたのがわかる。少し抱きしめる力が緩むけど、また強くなる。
「わ、私だって……!!」
「何?」
腕が熱いのはカガリが真っ赤になってるからかな。
腕に埋められた顔は上げられる事はなかったけど、一言だけ照れたように呟かれた。
「全く人騒がせだな」
「アスランにだけは言われたくないけどね」
翌日アスラン宅にてアスランに昨日の事を話していた。
「しかしカガリは何でベッドの下なんかにいたんだ?別に隠れるならキラのベッドの下じゃなくてもいいような…あっ」
少し考えたそぶりを見せて思いあたるふしがあったのか顔を上げた。
「何?」
「いや……」
明らかにわかったようなそぶりを見せながらあからさまに顔をそらす。
カガリに聞いてもあのあと照れたカガリからは教えてもらえるはずもなかった。
ただ箱に関しては箱に入る直前でアスランの時と同じだとあまり驚いてもらえないと思って直前にやめたんだとか。
「そういう態度とるんだ」
「お、俺にもわからない事だからな」
「ふ〜ん、また小さくなりたい?」
「やっぱりお前の仕業なんじゃないか!」
「いや、あれはラクスだよ。そんな事より何?」
「そんな事ってお前あの時俺がどれだけ大変だったか……わかった。わかったから笑顔のまま無言でいるのはやめてくれ」
一度立ち上がったアスランは観念したように座る。
「ラクスが言ってんたんだが……宝物はベッドの下に隠すものなんだそうだ」
「……それなんか違くない?」
きっとラクスから聞いてベッドの下にいたんだとわかった。
つまりは僕の宝物は……って事。宝物自身が自覚して僕のところに来ちゃうなんておかしいね。
でも自覚してもらえるほど伝わってるって事だからいいかな。
宝物に伝えた愛は
愛になって僕に伝わった
H20.5.18
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