軽く口を開ければ、待ち望んだ唇が


 


「キラ、手を出してくれ、って!何だその手は!」
「手を出せって言ったから」

先程から何かを言おうとしては押し黙り、またそれを繰り返していたカガリがやっと口を開いた。
ソファーに座っていたものだからつい押し倒しそうな体勢になっていて、手はカガリの胸まであと少しの距離だった。

「そっちの手を出すじゃない!」

僕を押しのけて先程までの体勢に戻る。
“そっち”じゃなくてもついやってしまいたくなるのはカガリが可愛いから。
これ以上やってしまえば怒られるからおとなしく左手を出した。

「よし」

カガリは一度ポケットに手を入れてからその手を僕に重ねた。
何か手に乗せた?
と思ったのもつかの間手が離れて乗せられた物の正体がわかる。

「飴だね」
「そうだ、飴だ」

すぐにまたカガリがいいにそうに視線を逸らす。その様子で何となくわかってしまった。

「ホワイトデー?」
「なっ!?」

わかりやすい反応で返されて納得する。
でも確かホワイトデーは……。

「過ぎてるよね?」
「うっ……」

意地悪をいうようにあえて指摘してみた。
するとカガリは両手で軽く僕の片腕を叩いてくる。

「嬉しいよ。ありがとう」

笑って答えるとカガリが突然立ち上がり驚いてしまった。

「そもそも!キラがバレンタインはいらないって言うから!だから……」

段々と勢いはなくなるがカガリの視線は僕からはずされることはない。
何を僕に渡したらいいかあんなに悩んでるのを見たら“いらないよ”と言うしかなかった。
悩んでくれただけで十分だったから。

「キラは私に甘いんだ。もっと要求していい」

そこまで甘くしてるつもりはなかったけど、カガリ自身はそう感じてしまうのだろう。
カガリの手首を軽く引いて座るように促した。

「迫りすぎると怒るのに?」
「それは加減をしないからだ」
「加減なんてできないよ」

軽く頬に触れると頬が熱かった。
カガリは口を軽く尖らせる。

「イヤ?」
「……飴をなめろ」
「え?」
「早く!」

言われるがままに受け取っていた飴の包みを開け、飴玉を口にほうり込んだ。
レモン味で味が馴染むまで少しすっぱく感じた。

「よし!」
「カガ……んっ」

この時を待ってたと言わんばかりの表情を見せるとすぐに口を塞がれた。
啄むように柔らかい唇が僕の唇に何度も触れる。

「っ……」

酸素が足りないからなのか慣れない口づけだからか目眩がする。
生温かい、いつも触れている唇なのに触れ方がいつもと違うだけでこんなに苦しくなるなんて。

「はっ……キラ」
「カガ、リ」

息苦しくて、酸素を求めていたはずなのに離れたばかりの唇がもう恋しい。

「ただ飴をあげるのも芸がないと思ったんだが……」

段々恥ずかしくなってきたのか、引いていたはずの赤みは再び戻り、カガリの顔は紅潮していた。

「もらえるだけでも嬉しいのに」
「それが駄目なんだ」

カガリにこうして触れられるだけで幸せなのに、そんな事を言われたら欲張りな心を隠せなくなってしまう。

「きっと私はキラと同じなんだ」

カガリから貰った飴はまだ口の中に残っていて、口内は甘さに満たされていた。最初の酸味などなかったかのよう。

「じゃあ……」

少し目を伏せてわざと間をつくる。
カガリの両手に力が入って拳が作られるのが見えた。
その緊張ははたして僕から何をされるかわからないためか、自分と同じではなかったらと不安に思っているからなのか。
答えは聞かなくても先程のキスが答えだった。

「僕から飴を奪って」

軽く口を開ければ、待ち望んだ唇が。



H21.3.31



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