Can I Have This Dance


 


本当に突然思い浮かんだ。

「カガリって踊れそうだよね」

向かいのソファーに座っていたカガリがいきなり何なんだと言いたさそうな顔で僕を見ていた。

「ドレスが似合ってたから、何となく?」
「……だからっていきなりすぎる」
「カガリがあまりにも可愛かったから思い出しちゃって」

クッションが思いきり投げ付けられたけどキャッチするとカガリは悔しそうに立ち上がって握り拳を作っていた。
照れ隠しだというのはわかっていて、こういう反応も好きだからわざと言ってしまう。

「で、やっぱり踊れるの?」
「少しはな」

ソファーに座り直すが表情はまだ少し怒っているような感じだ。

「見たいな〜」
「一人では無理だ」
「そんな事言わずに、ドレス着てさ」
「ちゃっかりドレスを着せようとするな!」
再び立ち上がって声を荒げる。でもクッションはあらず、物理的にぶつける事を諦めて不服そうに座った。
「なかなかスカートもはいてくれないから着てほしいのに」

カメラを取り出して撮り貯めていたカガリの写真を確認していく。
何枚か無理を言って着せたスカート以外は全てズボン姿のカガリの写真がたくさん映し出される。

「な、何だ。これは」
「カメラだよ」
「そんな事はわかってる!明らかに隠し撮りじゃないか!」

素早く僕の隣に移動したカガリがカメラに映し出されている写真を覗き見る。
カガリの指摘通りどれも目線が合っていない明らかな隠し撮りだった。

「カガリ記録だから隠し撮りのほうが記録らしいかなって」
「わけがわからないぞ!?」

わざとらしく可愛く言ってみたがカガリは全くごまかされなかった。
カメラを奪おうと手が伸びてきたけどカメラを遠ざけて、伸びてきた手を捕まえてしまう。

「渡せ!」
「嫌だよ」

一生懸命手を伸ばしてもカメラには手が届かず。
そこで僕は思いついた。

「踊ってくれたら渡すよ」
「は?」
「ドレスは今度の機会でいいから」

交換条件というわけだ。
カガリが乗ってこなくてもカメラは渡すつもりだった。データは保存してある事は秘密にして。

「……キラが一緒なら踊ってもいい」
「僕?」

予想外の返答に聞き返してしまう。何度も言わすなと掴んでいた手を反対に引っ張られて立ち上がった。

「カメラはとりあえず置け」
「うん。でも僕全く踊りなんてわからないよ?」

カメラをソファーに置くとカガリが腰に手をやるように促してくる。

「勘だ、勘」
「勘でできたら色んな人が困らないでしょ……」

そこから数十分ダンスのレッスンを受けるはめになった。
カガリは少しはとか言いながらそれなりにできるようで足の運びもスムーズで教え方もうまかった。
最初はぎこちなかった動きもカガリのリードがうまいのかコツは何となくつかめた気がした。

「カガリ、凄いね」
「人に教えるのははじめてなんだ。だから少し自信がない」
「二人だけなんだから楽しめればいいよ。一緒に踊れるなんて思ってなかったし」

初心者の僕がこう言うのも変だけど不安そうに俯くカガリはそうだなと顔を上げて笑ってくれた。

「憧れてたんだ」
「え?」
「その……好きな人といつかこうできたらって」

再び俯くけどそれは照れ隠しで僕の反応を伺うように恐る恐る見上げられた。

「一緒に踊れるのはいいけどこの瞬間を撮れないのは悔しいね」

心底そう思った。
誰かと踊るカガリは見たくない。でも今のカガリを写真に収めたい。

「いたっ」

足を踏まれて緩く動いていたステップが止まった。
痛みは軽いものでわざと踏まれたのだとわかる。

「納められないものもある。それに私はできるなら二人の写真が欲しい」

そういえば僕の持つカメラの中には二人の写真はなかった。
それを淋しく思った事はないし、カガリのそばにいたからできた事なんだとも思う。
でも気がつかなかっただけなのかもしれない。
そばにいるなら二人一緒の写真も欲しい。

「そうだよね」
「わっ!?」

カガリを抱き上げて軽く回る。最初は驚いていたカガリは楽しそうに笑った。

「楽しいな」
「うん」

全てが残せるわけではないけど二人の証拠もほしい。
残せない瞬間から何度でもその瞬間をつくろう。踊ろうといえばすぐにその瞬間を迎えられるのだから。



H21.5.10



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