三度目は重ねるコトバ


 


駄目、じっとしていたら
考えてはいけない事を考えてしまう
あの時あの手をとっていたなら
どうなっていただろう……
なんて
それは浮かべてはいけない
オモイ


ミーアは一人、部屋に塞ぎこもりではいけないと思い通路をあてもなく歩いていた。

「そう、あたしは一人……もうアスランさえ」

その名前を口にした途端身体の力が抜けた気がした。
壁にもたれるようにふらふらと歩く。
曲がり角の先から女の子の声が聞こえた。

「誰か……」

誰かと話したい、そう思い曲がり角を曲がるが足を止めた。
見覚えのある赤い髪の少女の後ろ姿。その少女を抱き締める黒髪の少年。
確かこの間議長からデスティニーガンダムを受け取った少年。


あの少年が
あの人を
殺した


「あ……」

完全に足から力が抜け立っておられずその場に座りこんでしまった。
あげくに小さくではあるが声まであげてしまった。
気付かれたくないのに気付かれてしまう。
その場から逃げ出したくてもできない体。視線を床に向け二人を見ないようにした。

「……ルナ、一人で部屋に戻れる?」

一人の足音が聞こえやがて遠ざかっていく。しばらくしてもう一人の足音が聞こえた。
今度は反対に近付いてくる。

「近寄らないで!」

顔をあげなくてもわかる。少年が近付いてきているのだ。

「すみません」

足音がやみその言葉だけが聞こえる。
恐る恐る顔をあげると少年が顔を俯かせついた。
両手に拳を作り、ここからではよくわからないが辛そうな表情をしているようにも見える。

「どうして……?」
「敵、だからです」

不安定な問い掛けにシンは俯きながらもしっかりと答えた。
その直後に何かを叩く音が静かな通路に響いた。

「……失礼します」

シンは軽く会釈をし、顔はあげずに歩き出した。
ミーアはシンの頬を叩いた。先ほどまで立つ力さえなかったのに、思い切り叩いていた。

「きゃっ……」

先ほどから自分の意思とは関係なく動く身体。
また力がなくなりその場に座りこんでしまった。
自分の意思では動かず、あまつさえ力がなくなる。
どうしたというのか。考える事さえ止められてしまうよう。
いつの間にか涙が頬を伝っていた。

「部屋までお送りします」

背を向け歩いて行ってさしまったはずの少年が目の前に立っていた。
見上げると差し延べられた手が視界に入るがそれを拒絶するような再び俯かせた。

「すみません」

二度目のその言葉が聞こえたと同時にミーアの身体は浮かんだ。

「降ろして……降ろして!」
「部屋に着いたら降ろします」

シンに抱き上げられ抵抗するが降ろそうとする気配はない。
抵抗するのも何もかも疲れてしまい、ミーアはシンの胸に顔を埋めた。

「失礼しました」

部屋につき、ミーアをベッドに降ろし出て行こうとする。

「ま、待って!」
「何……まだ叩き足りませんか」

右腕を引かれその場に立ち止まる。ミーアもどうして引き止めたかはわからない。

「アスランはどうしてあんな事を……」
「俺なんかより婚約者のあなたの方がわかるんじゃないんですか?」

婚約者という言葉に身体を震わせる。自分は婚約者などではない。本物のラクスならばわかったのだろうか、あの手を取ったのだろうか。

「あたしは……ラクス。ラクス・クラインなのっ!」

小さい声で呟くと、シンを見上げながら名前を大声で言った。
その様子をおかしいと思ったのかシンは何も言わずミーアを見つめていた。

「ごめ、なさい、わたくし錯乱していて。だから……ごめんなさい」

段々と声が震えシンの腕を掴んでいた手の力も弱りベッドに落ちた。

「すみません……」

三度目となる言葉。
涙が伝う頬に触れられた手は冷たかった。

「どうして泣いているのかわからないの。わからないのに泣くなんておかしいわよね」

笑みを浮かべながら、それでも涙を流し続けるミーア。
いつの間にか冷たい温もりは身体全体を包む暖かい温もりに変わっていた。

「あなたの名前……」
「シン……です」

少年の名前を聞くとミーアは自分を抱き締める少年の背中に両手でしがみつくように抱き付いた。

「シン」

穏やかな気持ちで名前を口にした。自分でも不思議だった。
でも傷つく少年を更に傷つけたくない。それは少年のためではない。
傷つけてしまえば自分も傷つく。きっと壊れてしまう。

「……シン」

もう一度呼ぶとシンの顔が見えた。見上げたその表情はやっぱり辛そうで。

「シン」

三度目、シンが謝った回数と同じ。自分に謝る必要などはない。自分はラクスではないのだから。
でもそれは言えない。だから名前を呼ぶ。
シンの頬に触れるとその
手にシンの手が触れられた。
ミーアは両腕をシンの首に回すと引き寄せた。引き寄せる力はいらない。
そして引き合うように二人は唇を重ねた。


―泣く理由なんかない
あたしに理由はない
ただ在りたい
あたしがあたしじゃなくても
みんなの瞳に映るのはあたし
“あたし”に手を差し延べてくれた貴方
もっと貴方が触れていてくれたなら
貴方のかけがえのない人になっていたなら
手を取れていたのかもしれない
貴方と共に行く先はきっと辛いだけ
あたしは貴方のモノになれない
そんなのいい理由(わけ)
怖いの
ただ怖いの
あたしに理由ができたとき
そこに見えるのは何なんだろう
今はこのまま重ねて
この瞬間を重ねて―



H17.7.2



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