美しさと醜さの間の君に


 


「ラクスさん」
「きゃっ……あ、何でしょう?」

通路を歩いている彼女を見つけ、後ろから呼びかけた。
過剰な反応。理由なんかわかりきってる。
俺はアスランを殺した。その婚約者の彼女が悲しまないはずがない。憎むだろう。
俺は彼女を抱いた。彼女は俺を受け入れた。

「驚かせて……すみません」

普通に話そうと思ってるのに彼女は視線をそらす。
話せるはずがないんだ。俺が殺したんだから。

「っ……すみません」
「情けな……」

結局逃げ出した。泣きそうになった。
責めたいはずのあの瞳が、責めたくないように逸らされたあの瞳が。
まるで彼女自身を責めているようで。
そうしてしまったのは自分で。
もう話しかけるのはやめよう。元から話していたわけではない。
でも、もしかしたら……。

「あんたは誰なんだ」
「何を……言って、きゃっ」

知ってしまった。彼女は“ラクス・クライン”なんかじゃない。
彼女が逃げないように壁に追い詰め、両手で逃げ場を塞ぐように壁に押しつけた。

「俺とヤる前に言ったよな?自分は“ラクス”だって」
「あ……だってあたしはラクスだから」

その怯え方がまるで自分はラクス・クラインじゃないと言っているようなものだった。

「嘘だったんだろ」
「嘘……?」

泣きそうな顔。全て嘘の塊。途端に彼女が醜く見えた。
美しいラクス・クラインは醜くただの女に変わってしまった。

「アスランを殺されて悲しいふりしてたんだろ!!」

頬に鈍い痛みが走った。二回目。
殴ってやろうかと思う。何で俺が叩かれる。こいつは嘘をついていたんだ。
同情をひきたいなら泣き崩れてしまえばいいのに。
そしたら何のためらいもなく殴ってやれる、傷めつけてやれるのに。
なのに、何かを堪えながら俺を見る。

「どきなさい」

考える間もなく彼女の前から身体をどかした。
目の前にある彼女の部屋へと帰っていく。

「な、何!?」

扉が閉まる直前、俺も部屋に入っていた。彼女の身体を後ろから抱きしめて。

「ごめん……」

自然とそんな言葉が出てた。
知ってる。悲しくて悲しくてどうしたらいいのかわからなくて……さ迷っていたのを。

「謝らないでください」
「じゃあ名前」

彼女の身体を向きあうようにした。

「ラク……んっ」
「違う」

また嘘を言おうとする唇を塞ぐ。彼女は困ったような戸惑ったような表情を見せると、俺の肩に顔を押しつけた。

「……ミーア、ミーア・キャンベル」


─君の名前を呼んだあと
君はどんな風に返してくれるだろう
まだわからぬ
何かを抱いて
君を抱く
醜く嘘を重ねた君
許せなかったのは
嘘をつかれた事
悔しくて悔しくて
醜いのは自分
君の本当を知ってるのに
君を“嘘”だと言ってしまった
見えぬモノなのかもしれないけど
美しさと醜さの間の君に
いつか伝えられるモノが
この手にあるように
俺は君を抱く─



H17.8.8




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