無き骸


 


「どこに行っちゃうの?」
「別にどこにも……うわっ」

突然の言葉に突然抱き付かれ起こしていた体がベッドに沈んだ。

「死ぬなら体を残して」
「何で?」

俺に顔を見せたくないのか、ミーアはぎゅっとしがみついてきた。

「死なないでなんて言えないの。だから……」
「動かない俺を見ても泣かないならいいよ」
「イヤ」
「じゃあ俺もイヤ」

軽く言う事でもないけど今にも泣き出しそうなミーアには、こんなお願いすら聞き入れてあげる余裕すら俺にはない。
笑顔が好きだから。
今こうしている時は泣いてほしくない。
俺がいなくなる事で泣く彼女なんか見たくない。

「……シン」
「何?」

ミーアはゆっくり体を起こし顔には笑みを浮かべていた。

「あたしを探さないでね」


この時のミーアの言葉の意味がわからなかった。
いなくなってから気がついても、どうしようもない。
ミーアが死んだと聞かされたのは少し経ってからだった。


「……体はあったんですか」
「銃で即死に近かったからな……」


あの姿にならなければ生きていたかもしれない。
でもきっと出会えない。
出会えずして生きていてくれるのと、出会い死んで残される。
どちらかしか訪れないなら残されるのを選ぶだろう。
そんな話のラブストーリーをミーアが読んでいた事を思い出した。
こんなにもあやふやなものなのに。
いっそそのどちらでもない何かが欲しいとさえ思ってしまう。
彼女は何を恐れて俺にどこに行くのかと尋ねたのか。


“死ぬなら体を残して”


そう思ったなら何故彼女はここにいないんだ。
どこにもいない彼女。
どこかへいってしまった彼女。
亡き殻を目にしたら、俺は彼女が死んだ事を受け入れるんだろうか。
動かない彼女はもうミーアではないと否定するんだろうか。
目にしなければいつまでも生きているかのよう。


空になるまで
泣ける時まで
殻にならないよう
鳴き続けて
君の無骸に包まれて
今はまだこのままで



H18.2.11




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