君の愛で包んで、壊して


 


「さて、アスラン。今日は何日でしょう?」

買い物の帰り、脈絡もないキラの問いかけにアスランは首を傾げた。
キラの隣ではカガリが黙々と何かを食べている。

「11月11日だが……それが何かあるのか?」
「ポッキーだよ、アスラン!!」

今度は突然大きな声を出し始めたキラに驚く。

「は?」

つい間の抜けた声が出てしまう。
キラは横で黙々と何かを食べていたカガリから何かを奪った。

「キラ!返せ、私が食べてたんだぞ!」
「はいはい、ちょっと待って」

抗議をするカガリをなだめながら奪った箱をアスランにずいっと突きつける。

「“ぽっきー”?」

箱にかかれていた英字を口にするとキラが深く頷いた。

「菓子会社が売上のために愛着ある日を決めたのさ。人はこの日を見ると“あぁ買わなきゃ”とか思うわけ。バレンタインと似たようなものだね」

微妙に失礼な発言なんじゃ……と思いながらアスランはポッキーをカガリに返す。

「あぁ!?取るなよっ!」

返され再び食べようとするとキラの手が1本のポッキーを持ち去った。

「1本ちょうだいよ。ね?」
「1本だけだぞ」

カガリが納得したのを見るとキラは奪ったポッキー1本をアスランの前に出す。

「僕はだからポッキーを買うってわけじゃないんだけどね。このポッキーを……」
「ポッキーを?」

催眠術かのようにポッキーを横に振られ何となく目が離せなくなる。

「食べる」

キラは持っていたポッキーをくわえた。

「そりゃあ食べ物だから食べるだろ」

キラはくわえたポッキーをぽりぽりと食べた。

「アスランが喜びそうなのにな〜。想像してごらんよ」
「何を?」

全く察しがつかないアスランにキラはニッと笑いながら告げた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「結局買ってしまった……」

自宅に帰ってきたアスランは“Pokey”と書かれた赤い箱を手に持ち、ソファーに座っていた。

「まぁ、お菓子を買われましたの?」
「き、来てたんですか!?」

突然の訪問者にアスランは驚き、思わずポッキーの箱を背に隠した。

「何度も呼び鈴を鳴らしたのですけど出ていらっしゃらないので……勝手に入ってしまってごめんなさい」

謝りながらもラクスはアスランが隠したモノが気になっているようで視線がそちらに向かっていた。

「何でもないんですよ、何でも」

“何かある”と言っているような言動にラクスは更に興味を持ったようだった。

「本当に何もないんですよ?」
「嘘ですわ」
「いや、本当に」
「嘘ですわ」

これではラチがあかないと感じ、アスランはソファーから立ち上がるとラクスからゆっくりと離れて行った。
しかしそこでラクスが諦めるはずもない。

「私には見られたくない物ですのね……。それなら無理強いは致しませんわ。アスランが見せたくないなら仕方ありませんもの」

よよよと言いそうな泣き真似。しかし明らかに威圧感はあった。
まずい。これではラクスが怒る。もしくはいじける。そして行く末は別れ……“そんなの嫌だぁー!”と心の中で叫ぶアスランだが。ポッキーごときで別れが来るはずがない。されどポッキー、けれどポッキー。
ラクスに見せるか迷うがやはり見せようとはしない。

「アスラン……」
「うっ」

まるで捨て猫…もしくは発(自主規制)!
アスランを一点に潤んだ瞳で見つめるラクス。
このままラクスを見ていたら確実に“オチる”。そう確信すると視線をあからさまに逸らした。

「わかりましたわ。アスランがそのような行動をなさるなら……」

リビングからラクスはいなくなった。まさか本当に……?
そもそも何故自分はポッキーをラクスに見られるのが嫌なのか。

「何だか……何だかあたかも端から食べっこしましょう!とか言ってるようで嫌じゃないか。実際そうなんだけど……な、なんかいやらしい気が」

自然と口に出てしまった自分の独り言にハッと我にかえった。

「そもそもポッキーを見て“いやらしい”と考える人間がいるか?否、菓子なんだからそんなことを思う人間はいない。少なくてもラクスはそんな事は思わない」

悩んだ(?)末アスランは自問自答を独り言で繰り広げると意を決し、ラクスを追いかけようと玄関に向かおうとする。

「え……?」
「あらあら」

沈黙。

「な、なな!い、いいつからそこに」

動揺のあまりろれつも正常に回らない。
出て行ったと思っていた彼女がリビングの出入り口に佇み自分を見ていたからだ。

「お手洗いをお借りしただけですわ」

違う。絶対彼女はわかって出ていくみたいな素振りをしたんだ。
そしてそれに気づかなかった自分って……。
自分の独り言に気を取られラクスがいる事に気づかなかったアスラン。
いつからいるかなど聞かなくてもわかる。独り言をいい始めた時にはすでにそこにはいたのだ。

「あの……ラクス」
「はい?」

混乱していた頭を整理しラクスに呼びかける。ラクスは変わらずに笑顔で相づちを打った。

「ポッキーを……食べませんか?」
「はい」

アスランがずっと手にしていたポッキー。
握りしめたせいか少し箱が潰れていた。恐る恐る箱を開封し、中にある袋を一つ出すと

「折れてますね……」

予想通りことごとく半分ぐらいに全て折れていた。
口に出しと言うとこれだけ騒いだ分余計むなしさがある。

「アスラン、食べましょう?」
「え、でも」

アスランが落胆の目で見ていた袋をラクスは取り、開けた。
中からはほのかにチョコレートの匂いがしていた。

「口を開けて下さい」

ラクスの言われるがままに口を少し開けた。
するとラクスは袋の中から折れたポッキーを1本取り出すとアスランの口に運んだ。
決して全部口に入れるわけではなく端だけ口に差し掛かるポッキー。
アスランは何となくそのまま端をくわえた。
それを見てラクスはにっこりと笑うとアスランの顔に近づいた。
ぽりぽりぽりと音がしてやがて唇に温かい感触。
ラクスは端からアスランに向かってポッキーを食べるとそのまま口づけた。

「ら、ラク」

その行動にアスランは顔を赤らめ離れるとラクスもほのかに頬が赤いのがわかった。

「おいしいですわね」

今までの恥ずかしいさよらも目の前の嬉しそうな笑みがアスランには嬉しくてはっきりと笑んだ。

「とってもおいしいですね」

そしてアスランはラクスが持つ袋から1本取るとラクスの口に運んでいった。


−恥ずかしいなんて言ってられない
君の笑顔を見れるなら
向かい打つ
でも時には恥ずかしいから
そんな時は君が崩して
この厄介な壁を
自分じゃ壊せないから
君の前では脆いから
君の愛で包んで、壊して−


H16.11.23
H17.3.10修正




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