わんわん行進曲
さりげなく欲しいものを聞くのは難しい。それが誕生日近くなら尚更。
思えば聞かなければこんな事にはならなかったのかもしれない。
「欲しいもの?」
「そう、ミーアが欲しいもの」
「わんちゃん」
少し予想外の言葉に耳を疑うが、ミーアならありえるかもしれない。可愛いものが好きそうだし。
そんな事を思いながらミーアを見ていると、ミーアは顎に人差し指をあて天井を見ながら言った。
「できれば〜黒髪で、赤い目のちょっと意地っぱりだといいかな」
「黒髪……?」
どこかで見たような特徴に首を傾げるがすぐにわかり、一歩後退。
「犬耳ならつけないからな」
「もしかしたら明日になったら生えてきたり……」
「しない!」
不満そうな表情を見せるも勝ち誇ったような笑みを浮かべられる。
どうやら質問の意図がわかってしまったらしい。……明日がミーアの誕生日、気付いたのはさっき。ミーアの部屋のカレンダーにハートマークがつけられていたのを見て気がついた。
「怒ってる?」
「ううん」
明らかに怒ってる。笑顔が異様なオーラをかもしだし怖い。
前日まで思い出さなかった負い目なのかもしれないけど。
結局欲しいものは聞けず、花でも買おうかと思っていた。それも必要がなくなったけど…けど。
「ゆ、夢……?」
朝、いつものように洗面所に行くと違和感。鏡を見る事数分。ありえないものがくっついていた。
「耳が四つ、これで小さい音もよく聞……」
前向きに考えようとするものの早くも挫折する。
本来の耳と、頭の上に人間にはつかないであろう耳。髪の色と同じ黒い毛がついた耳がついていた。引っ張っても取れず痛む。
「シーンっ!」
「うわぁ!?」
誰もいない家に声がして思わず頭についている耳を両手で隠してしまう。
ここに入れるのは俺以外に合鍵を持っているミーアしかいない。
「……誕生日、おめでとう」
平静を装い祝いの言葉を言う。会ったら始めに言おうと思ってたためか自然に口にできた。
「ミーア?」
俺を凝視しながら瞬きをするミーア。すぐに両手を組み喜びの声をあげる。
「シン可愛いー!」
「えっ」
何の事かわからずにいるとミーアは近寄り、俺の背後に手をやる。瞬間、背筋がぞわぞわとする。
「ふわふわ〜」
「ふわ、ふわ?」
後ろを振り返ると不自然に下着から飛び出している奇妙な物体。
その時、着替えていない事に気がつく。
「ミーア、ここから出ろ」
「えー、今更シンの下着姿なんて……」
「今更とかそういう事じゃなくて、俺が嫌なんだよ」
とりあえず着替えてから現状を把握しようとしたものの、ミーアは視線は上に向いていた。先ほどと同じように凝視して瞬き、今度は喜びながら頭に手を伸ばす。
「ふわふわ〜可愛いー!」
「やめろって……やめ」
柔らかく触られてその感覚が変な気分にさせる。
このまま何もかも投げ出せたらどれだけ楽だろうと思ってしまう。
「やっぱりわんちゃん可愛いー!でもシンがいいの」
「だからって何でこんな事に」
耳だけではなく顔から首、身体まで撫で回され、犬というよりは狼な心境になってくる。
これがミーアの誕生日だからの不思議なできごとなのか。
それはまだ俺にはわからない。
H18.7.2
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