一瞬の永遠


 


「……ついに君まで来てしまったんだね」

インターホンを鳴らししばらく待っていた。
応答はないまま開かれたドア。開けた人物の第一声がそれだった。

「僕は相談所でも何でもないんだよ?」
「す、すみません」
「そう言うな、キラ」

中から知った声がして奥を見るとアスランさんがいた。キラさんは冗談だよと言うと中へ戻っていった。
冗談には見えない笑顔だったんですがと言いそうになるがやめておいた。

「で、どうしたんだ?」

家の中へと入っていくといきなり聞かれて言葉につまる。

「あの子関連でしょ?」
「そういえばミーアの誕生日がもうすぐだったな」

訪れた目的はこれなのだからと言いにくくも、説明をはじめた。

“ミーア”
“何?”
“誕生日何が欲しい?”
“・・・・・・・”
“ミーア?”
“じゃあしばらく会わないで”

「て、わけなんです」
「単刀直入に聞くなんてシン凄いな」
「アスラン、何か違う気がするよ?」

アスランさんがよくキラさんに相談してるのを知っていたため、藁にすがる気持ちで相談したい事があると連絡をしてここに訪れた。

「キラ、お前が何かやったんじゃないか?」
「やだな〜、そんなことしないよ。シンくんには」
「シンにはって……俺にはするのか!?」

段々と話がずれている中、ミーアがなぜあんな事を言い出したのかを考えていた。

「ミーアの言うとおり会わないでいたら?何も別れてって言われたわけじゃないんだし……別れて、か」
「今何か考えただろ。今度はそれでいこうとか思ってないか!?」

キラさんの言う通り、別れを切り出されたわけでもなく数日会わないでと言われただけだ。
でも毎日のように会ってたのにいきなり会わないで発言は不自然な気がする。

「とりあえず誕生日プレゼントは買っておいて待つのもありじゃない?動きを待ってからでもまだ遅くないと思うけど」
「俺の時はやたら煽るのに何か違くないか」
「アスランからもほら」
「えっ……そうだな、もしかしたら何か理由があっての事かもしれないし待ってても…待つのは辛いよな」

“辛い”という言葉が今の俺には一番しっくりきた。
あのあと礼を言ってあの場を去り、ミーアへの誕生日を買ってきた。この誕生日プレゼントを受け取ってもらえるか不安もある。
でも一緒にいる事が多くて突然離れてしまうと、何というか辛い。
離れていても好きなのに、それを伝える事ができなくて自分の中に溜まっていってしまう。
どこまで耐えられるのか。自分の容器なんてわからないものだ。
今はその日を待つしかない。



「ん……今何時だ?」

あれから数日。明日はやっとミーアの誕生日。
約束も何もしていなかったから、日付が変わったら電話をしようと待っていた。しかし寝てしまったらしく呼び鈴の音で目を覚ました。
てっきり朝になってしまったかと思ったけどまだ窓の外は暗い。時計を確認すると日付を跨いだばかりだった。
間隔をあけて鳴り続ける呼び鈴。こんな時間に誰かと応答する。

「……はい」
「シン、開けて〜」
「ミーア!?」

慌ててドアを開けると数日ぶりに見る彼女がいた。

「た、誕生日おめでとう」
「ありがとう」

予想していたよりも遥かに普通の会話。この数日は一体なんだったのかと混乱してくる。

「入っていい?」
「あ、うん」

ミーアを家の中に招き入れ、ドアが閉まると同時に柔らかい感触が身体を包んだ。

「……どうしてだよ」

抱き付かれて、理由もなく会う事を拒否された事に対して憤りを感じてそう口に出していた。

「どうして……?」
「何で会わないでなんて言ったんだよ」

あくまで感情的にはならずに聞く。すぐにでも思い切り抱き締めたいのに、理由を聞くまではそれもできないでいた。

「あたしシンが好きなの」
「俺だって好きだよ」

甘い言葉。でもそれは理由にはなっていない。

「でも当たり前になってそれが続いたら好きじゃなくなるかもしれないでしょ?」

ぎゅっとしがみつくように腕に力を込められる。

「だからって離れたら……」
「シ……んっ」

身体を無理やり離してミーアの唇に唇を押しつけた。隙間に舌をさしいれてしばらく久しぶりの温もりに触れる。

「シ……ン、くるし」

苦しさから逃れようと息を求め、離れようとするミーアの頭を掴んだ。離さないように、頭に手を添えたままキスを続ける。
耐え切れなくて、でも溢れる事もできなく押し込められていた気持ちを伝えるように苦しさも忘れてしまうぐらいに。こんな苦しさ、伝えられないのに比べたら苦しくもない。

「はっ……はぁ」

どのくらいそうしていたか、気がつくとミーアが崩れて膝をついて息を整えようとしていた。

「謝らない」
「……謝ったら、ひっぱたいて出てってる」

謝らないなんて言ったら怒るかと思ったら、正反対に嬉しそうな笑顔で見上げられた。

「シンの気持ち嬉しいから」

そんな事言われたら止まらないのに。また気付けば貪るように唇に食いついて、そのままミーアの身体を倒した。



「これ、誕生日プレゼント?」

翌朝、包装された小さな細長い箱をミーアに渡した。頷くとミーアは包装を取り去っていく。

「腕時計?」
「時計が欲しいって言ってたから」

箱から腕時計を取り出すと俺に差し出してきた。つけてという事なのかとわかり受け取る。

「覚えててくれて嬉しい」

細い手首につけおわると、ミーアは左腕をあげて腕時計を翳すように見上げた。

「でもシンとお揃いがいいなって言ってたのは覚えてないんだ?」
「えっ……!?」

そういえばそんな事も言ってたような気もする。あいにく一つしか買っておらず、ミーアが本当に欲しかったものじゃないとわかると落胆した。

「あたしがプレゼントするっていう楽しみもプレゼントね」

それは先を想像させる言葉


一瞬が終われば
一瞬で終わるものがある
それが互いの気持ちでなければいい
臆病に純粋に想えば
不安は拭えずとも
気持ちは伝えられる
それは一瞬の永遠



H19.7.2




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