箱がなくても抱えていられますように
「誕生日イブおめでと〜!」
「え……?」
扉を開けたら箱を手にしたキラさんがいた。
「で、何なんですか」
「だから、誕生日イブおめで」
「それはわかりました」
とりあえず家の中に入ってもらった。ソファに座りながらも箱は抱えたままだ。
「この箱気になる?」
「べ、べつにっ」
箱を凝視していた事に気付かれた。
無駄だとはわかっていても否定して顔を背ける。
「僕の時は随分お世話になったからね」
キラさんの誕生日の時にカガリさんに頼まれて届け物をした事を言っているのだろう。
いつもとは違い余裕がなさそうだったのを覚えている。
「だから僕からの誕生日プレゼントだよ」
受け取り拒否はとてもじゃないけどできそうになかった。
「キラさんのお知り合いなんですか?」
「そうなんだ、今日だけ泊めてもらえないかな」
俺は顔を俯かせて二人の会話を聞いていた。
行き慣れたミーアの家。でも服装などが違うだけでいつもとは違う気がした。
「ちょっと話せないんだけどいいかな」
「話せない?」
「っ!?」
覗きこむようにミーアの顔が近づいてきて後ずさった。
履きなれない履物に足をとられよろける。するとキラさんが肩に触れて支えてくれた。
「びっくりさせちゃったいみたい。ごめんね」
申し訳なさそうに謝られ勢いよく首を横に振った。
「じゃあお願いできるかな」
「はい」
離れていなかった手に力よく押されてまえのめりになった。
今度はミーアが前から支えてくれる。
「名前は……シスカだから」
「シスカ?」
じゃあねと去ろうとするキラさんを振り返る。軽く手を振っていた。
女装させた俺を置いて、行ってしまった。
キラさんが持ってきた箱の中には女装道具一式が入っていた。
長い黒髪のカツラに着物を着てミーアの前に来てしまったわけだ。
「一日よろしくね」
家の中へ案内されてお茶を出されながら言われる。
ティーカップの中には黄緑色のお茶が入っていた。
「一応緑茶なんだけどあたしはあまり容れないから美味しくないかもしれないんだけど」
カップを取って一口飲む。少しぬるかったけど美味しい。
だから伝わるように笑った。
「あっ……」
俺を見てミーアが何かに気付いたかのような声を上げた。
ばれたかと思うが表情に出さないように平静を装う。
「目の色」
言いながら伸ばされた手は左の目尻に触れた。
「どうして女装なんか」
「どうしてだと思う?」
聞いているのに聞き返されてムッとした。それがわかったのかキラさんは笑う。でも何も言わない。
「女装してもわかるかどうか試すとかですか?」
「わからないと思う?」
正直わからない。一緒にいる時間は長い。でもはっきりとわかるとは言えなかった。でもわからないとも言えない。
「違う立場になってしまったらどうなるんだろうね」
「え?」
「また違う話か」
この時はわからない言葉だった。
でも今この瞬間にキラさんの独り言のような言葉がわかったような気がした。
でも今の俺達ではそれはわからない。だってもう好きなのだから。
この気持ちを抱えた俺以外で彼女に接する事はできない。
たとえ姿形がかわってしまっても。
「きゃっ!?」
目尻に触れた手を取って引き寄せた。
それまで俺であって俺ではないようにしてたのに、肌に直に触れられて崩された。
「びっくりするじゃない、シン」
「やっぱり気付いてたんだ」
引き寄せた身体を抱きしめる。ミーアは軽く俺の頭を小突いた。
「昨日の夜から連絡とれないから心配したんだから」
「ごめん」
昨日の夜からキラさんの家に泊まらされるわ携帯は取り上げられわで連絡する余地がなかった。
それがわかったかのようにミーアは笑うと俺から肩を離して跨がって座った。
「でも本当きれ〜」
「全然嬉しくない」
ミーアは俺の髪を指で梳いた。カツラではあるけど質感は本物と大差ない。
「着物も似合ってるし」
「だから嬉しくない」
ふてくされるように目を逸らすとミーアは人差し指で俺の頬を突いた。
「女装して出かけるのもいいわよね」
「冗談だろ」
「そうよね〜色々できないし」
その色々についてはつっこまないけど、確かにそれは困る。
「やろうと思えばできるけどね」
「やらない」
「でも来てから少ししかもたないなんてシンらしい」
本当はばれないように過ごして帰るつもりだったのに。
俺らしいと言われると悔しい。
「シンはシンだからわかっちゃう」
そう言われて触れるだけのキスをされる。
ふいうちに目を閉じる隙もなかった。逆に驚いて見開いてしまったぐらいだ。
「どんなに装ったってシンのあたしが好きな気持ちは隠せないしね」
「なんか悔しい」
「あたしはそれが嬉しいの」
見事に見透かされていた。
触れられて俺以外でミーアに触れたくなかった。好きだから俺で触れたかった。
「今日一日はそのままね」
「えっ!?」
着慣れないものにそれでなくても辛いのに誕生日はそれはない。
よっぽどあからさまな態度をしてしまったのかミーアはおかしそうに笑った。
「誕生日おめでとう、シン」
この世界でははじめからわかりきっている中身。
まるで蓋のない箱のようで、大切なもの。
願うならばそれが他の世界でも大切なものであるように。
意味のない願いでも、叶わないものだとしても、詰められるものならいつでもあるから。
箱がなくても抱えていられますように。
H20.9.1
book /
home