知る事で通じる想い
「酷いね」
「そんなはっきり……」
「事実だから仕方ないよね」
確かに事実だ。笑顔で言われると余計傷つく。
だからその傷をごまかすように言い返していた。
「でもミーアだっておかしくないですか?何でもかんでもわかってほしい、教えてほしいってただの我が儘じゃないですか」
「シンくん、若いね」
「記憶に間違いがなければキラさんも十分まだ若いはずなんですが」
笑って返してくる目の前の人ははたしてどちらの味方なのか。きっとどちらでもないのだろう。
別に味方してほしいわけじゃない。少し話を聞いてほしかった。
「シンくん?」
「帰ります」
わざとぶっきらぼうに言い放ってもキラさんはいつものように別れた。
キラさんの家を出て、歩き出す前にポケットから携帯を出してみる。
メールも着信もない。
「どんだけ怒ってるんだよ」
ミーアと喧嘩をするのははじめてじゃない。
些細な事で喧嘩をしてもなんだかんだで仲直りしている。
キラさんとアスランさんには喧嘩するほど仲がいいなんて言われたけど、二人みたいにあまり喧嘩をせずにいられるならそれにこした事はない。
「……帰ろう」
歩きながら昨日の事を思い出してみる。
多分どちらも悪くはない。わかってるから謝ろうとした。なのにどうして謝るのかと言われて、カッとなってそのまま別れた。
『砂糖は二杯!一杯じゃ足りないって言ったじゃない』
『はいはい、もう一杯入れればいいんだろ』
『違う!』
『何が』
『違うったら違うの!』
たかがコーヒーにいれる砂糖の量。だけどミーアにとっては違ったんだろうか。
このあとにやっぱり謝ろうと帰ってから電話をかけても繋がらず、キラさんに話に言って今に至る。
そんなに怒る事なのか?
砂糖にかぎらず、何かあればこれは自分の好きな色とか俺の好きな色は?とか知らなくても困らなさそうな事をいちいち聞いてくる。
キラさんにそれを話したら“酷い”ときたものだ。
ミーアがわからない。
今の自分もどうしたいのか自分自身がわからない。
「はぁ……」
無駄だとはわかっても携帯の押し慣れたボタンを押して、ミーアの番号を呼び出す。
昨日のように呼び出し音も鳴らずに留守電行きかもしれない。
それでも電話をかけていた。ただ、今はミーアの声が聞きたい。
「……シン?」
「あれっ、繋がった?」
呼び出し音が一瞬だけしたかと思えば、しばらくの無音のあとにミーアの声が聞こえてきた。
「……なに?」
「何って」
まだ怒ってるのか声のトーンも低い。
すぐに謝れば昨日の繰り返しになる事はわかる。
だからしばし考えて、一呼吸置いた。
「声が、聞きたかったんだ」
正直な気持ちを伝えた。
ミーアの僅かな息だけが聞こえて、このまま切られてしまうのではないかと思ってしまう。
「砂糖はいくつ」
「え?二つ?」
「違う。シンの」
「一つ?」
脈絡のない問い掛けだからつい疑問形で答えてしまう。
答えてからまた間ができた。
「あたしのもちゃんと覚えてくれたのね」
「そりゃあ、こんな喧嘩すればさすがに」
「あたしも覚えた」
何の事かと思えば砂糖の事かと思いあたる。
「電話、すぐ出たでしょ」
「そういえば」
「さあ、何ででしょう?」
普段ならそんな事聞くなよとか返してしまうかもしれない。
そんなことわかるわけないだろ、と。知ろうとしない。
いつもミーアから教えてくれるから、俺から知ろうなんてしなくて。
でも知るとか知らないとかじゃなくて同じ時もあるんだとわかった。
それは多分一緒にいて、同じ時間を過ごしたから自然と通じるもの。少しずつ積み重ねてきたもの。
「声、聞きたくなったんだ?」
「半分正解」
少し嬉しそうな声がするとこちらも嬉しくなって、自然と笑んでくる。
半分?と聞く前にわかってしまった。
だって今の俺もそうだから。
「会いたい」
「うん」
聞かなくてもきっと俺の家の前にミーアがいるのがわかった。
知る事で通じていく想いは一人では重ねていけないから。
だから早く彼女に会いにいこう。この寒さで風邪をひかせてしまう前に。
H20.12.17
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