蒼に焦がれる身よ 水に溺れて…
痛い
燃えるように
焼け付くように
痛い
水を……
溺れるほどの水を
最後の視界を覆った
あの赤い水が
僕の身を焼く
誰か……
誰か
……母さん
「うっ……あ」
目を開けると見た事があるような白。でも知らない場所だった。
体を起こしたくても痛くて何もできない。
息をしていても苦しい。どうして。
怖い。怖いのか。どうしてあのまま死ねなかったんだろう。
負けたのに。負けたら消えてしまえるのに。
「はっ……」
自分の思考に笑えても笑えない。息が出ただけ。
扉が開いた音がした。こつこつとこちらに近寄る音も聞こえる。
「目を覚まされたのですか?」
「ピ、ンク」
白い視界にピンクが広がった。淡い、淡い色。
「まだ話されてはいけませんわ。傷が酷いようですから」
「腹……が」
「痛むのですか?」
掠れた声で言うと僕の口に耳を近付けてきた。
そして不安そうな表情を見せる。
腹部を取ってしまいたいほどの痛みがあった。焼けるような痛み。
どうしてかはわかった。敗北者の証、死に損ないの烙印。
「大丈夫ですわ、治っているから痛むのです」
そう言いながら僕の頭を撫でた。
痛みで意識を保っているのも辛く、何よりその手が柔らかくて心地良くて僕は眠りに落ちた。
起きるといつもいる人。微笑んで頭を撫でてくる。
それをただ眺めるだけ。名前さえ知らない人。
「痛い……」
「生きてる証拠ですわ」
綺麗事だらけ。でも何故か心は静かだった。
悪態をつきたい気持ちすらない。ただその微笑みを見ていたい、向けられたい。
「ここは……どこ」
「何も心配はいりません。あなたは無事ですから」
何も教えてはくれない。
「どこか痛むのですか!?」
名前も知らない人が慌てる。頬に触れられ何かを拭われた。
「痛……ぅあ」
「起きては……」
一瞬だけ痛みがなくった気がした。でも起き上がる事ができなくて、両腕を伸ばして抱きついた。
「か……さん」
「大丈夫ですわ、あなたは一人ではありません」
落ち着かせるように背中を叩いてくれる。
それでも涙は止まらなくて。
「アウ……アウルって呼……で」
涙に息が奪われたようにたどたどしく言った。
「アウル」
「うぁ……ぁああ」
目の前が滲む。淡い、淡い世界。何もかもがはっきりしていない。
ただ抱き締めてくれる腕と呼んでくれる声が全て。
海の中に自分がいる感覚は沈んで得る。
そんな感覚がした。ここは海じゃないのに。
「アウル」
水が体内に流れこんでくるように、流れこむ声。
その存在に溺れる。
冷やす水が
身体を焼くようで
もう消えるのだと
還るのだと
かえりみちも
わからぬまま
沈んでいった
暖かかった
淡い色が蒼い世界を
何故か思い立たせる
僕自身を明るみに出される
暗い所へ
還して
この身もオモイも
錯覚するほど
焦がれる
先がないモノに……
ただ包まれ眠りたいだけ
蒼に焦がれる身よ
水に溺れて……
流れるは歌声かのようで
それはきっと子守歌
H17.7.24
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