あなたにあげる、僕の手を


 


ただ君に
ただ君から
貰った
この暖かさを
渡せたらと
願った
叶いもしないくせに
願う自分は
どうなんだろ……



「アウル」
「あっ、おっかえりー」

砂浜に座り込んで海をぼぉーっと眺めてたら後ろから呼ばれた。
振り返ると僕が待っていた人がいた。

「アウルは海が好きなのですね」
「そう?よくわかんない」

立ち上がり駆け寄る。駆け寄る間も僕を見て優しく微笑んでいてくれる。
まるで……そう、海みたいな女性。

「海、好きかな…」

どこかにもいた。僕みたいに海を眺めてる人が。誰だろう。
僕みたいに何かを待ってたのかな。その人が待っていたモノは訪れたのかな。

「広く綺麗ですわね。……私も好きですわ」

暗い。夕日が沈んで暗くなった。隣りにいるのに見えない。表情が見えない。

「何考えてんの?」
「何も……」

嘘だ。
そんな事言えない。この人が言う事は僕の全てだから。
そんな事言ったら壊れちゃうよ。僕も。この人も。

「海も暗くなっちゃったね」

さっきまで夕日に照らされてあんなに色づいていたのに今は真っ暗。
濃紺……っていうのかな。真っ暗だけど真っ黒じゃない。

「家入ろ」
「もう少しだけ……」

ずっと海を見て、海に映る空も見て。


あなたの境は
どこ?
空を見る事は
できないの?
映る虚像に
囚われてるの?


「僕の手あげるよ」
「アウル……?」 

両手を差し出した僕。そんな僕を見つめる貴女。

「僕が掴んで持ってくるから、だから笑って泣いてよ」

差し出した両腕を空に向かって上げる。目を瞑って、ただそれだけ。
それだけしかできないんだ。
貴女がどんなに笑っても、貴女がどんなに泣いても。
僕はこうしている事しかできない。
だからせめて、貴女が欲しいものが何なのか知りたい。

「アウル……」

呼ばれて目を開けると困った顔。困らせてるのかな、僕。

「アウ、ル」

そのまま僕に近付いて抱き締めてくれた。困った顔?泣きそうだったんだ。
真っ黒でも真っ暗でもない空を見上げる。星があった。
いっそ真っ暗で真っ黒なら何も見なくてすむのにね。
それができないから苦しむんだね。
見えてるのに掴めないなんて現実は残酷。僕はどうなんだろ。見えないのかな。

「……星がある」
「そうですわね」

眩しいね。こんなに弱い光が。
見たくないなら見ないよう、僕が隠すから。

「ラクス」

あげていた両腕で僕はラクスを抱き締めた。



H17.9.20




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