Trick or Treat!!
「アスラン何見てるの?」
「いや、別に」
買い物帰り道、突然立ち止まったアスラン。何かを見ているようだ。
何を見ているか気になったキラはアスランの視線の先にあるものを見た。
そこには手のひらサイズの丸い缶があり、その中には飴が入っているようだ。
「猫?」
その缶にプリントされていたのは赤いリボンをした猫だった。
「買っていけば?」
「な、何で俺が!?」
見入ってたいたのに買うのはためらうアスランにキラは何か企んでます的な笑みを向けた。
「今日はハロウィンだからきっと必要になるよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「Trick or Treat!ですわ」
突然の訪問者にアスランはぽかんとしながら名前を呼んだ。
「ラ、クス?」
ラクスはにこにこしながらアスランを見つめ、アスランの行動を待っているようだ。
訪問してきた事にぽかんとしているわけではなく、服装にぽかんとしているのだった。
「あのその衣装は?」
聞いてもにこにこしたまま何も言わない。
ラクスの頭には少し大きな黒いとんがり帽。服装は黒く、ロングスカートなのだが真ん中に深いスリットが入っていた。
そして先に星がついた細い棒を持っている。
言うなれば“魔女”。
そういえば今日はハロウィンって言ってたな…と先ほどのキラの言葉を思い出ながら思う。
しかしなぜいきなり彼女が魔女の格好をしているのかはわからなかった。
「お菓子をいただけない場合イタズラをしてしまいますわ」
やっと話してくれたと思いきやまたもや意味のわからない言葉。
ハロウィン……ハロウィンって菓子をあげないといけないのか。
そう認識すると家の中へ戻り一つの缶を手に戻ってきた。
「飴でも大丈夫ですか?……ラクス?」
ラクスはアスランの持つ小さい缶を不服そうに見つめていた。
そして何かをひらめいたと言わんばかりにポンと手のひらを合わせ、持っていた棒をアスランにかざした。
「な、何を……」
何か嫌な予感がして後ずさるアスラン。しかしラクスは棒をかざしたまま詰め寄ってくる。
「すぐにお菓子をいただけませんでしたからイタズラしてしまいますわ〜」
半ば、語尾にハートがついていそうな言葉のあとにラクスは棒を振った。
「えっ」
棒を振られた瞬間アスランの周りはボンッと煙が立ちこめ、アスランの姿は見えなくなった。
「可愛いですわ〜アスラン!」
ラクスは歓喜の笑みを浮かべ腰をかがめた。
そんなラクスをアスランはわけもわからず“見上げた”。
「俺がラクスを見上げてる!?」
慌てて辺りを見回すと全てが大きくなっていた。
自分が立っていた玄関も、その玄関にある扉も、足下にある靴も。
何よりも愛しい恋人がにっこりと微笑み、膝を床につけて自分を見下ろしている。
「ラ、ラクス?」
「はい?」
驚いた様子がないラクスにアスランは答えを確信していながら問いかけた。
「その棒、キラにもらったんですか?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「くしっ……」
「アスラン、やはりこちらに」
「それは遠慮しておきます」
アスランに起こった異常現象はキラのせいだとわかり、戻し方を聞くためにキラ宅を目指していた。
まだ冬ではないと言っても陽が沈めば気温は一気に下がる。
アスランはそんな中部屋着のままラクスの肩に乗っていた。
ラクスが手の中の方が暖かいからと言って手に招くがアスランは拒否した。
今のアスランはミニマムサイズ。つまり手のひらアスランになっていた。
「小さいのはそんなにお嫌ですか?」
ラクスはアスランが決して喜んでいない事を察して(喜ぶわけがないが)聞くがアスランは無愛想なまま嫌ですときっぱり答えた。
「可愛いらしいですのに」
ラクスのそんな言葉でアスランは更に無愛想顔になっていた。
「いらっしゃらないのでしょうか?」
キラ宅の呼び鈴を鳴らしても誰も出てくる気配はなかった。
電気もついていないようで人がいる気配もない。
「俺達が来るのを想定して出かけたのかもしれませんね」
キラの企みにまんまとハマったのがさほど悔しいのかアスランはあからさまに苛立っていた。
今までラクスを幼くしたり、半猫化したりはあったが今度は自分にけしかけるとは思っていなかった。ラクスに何かあっても困るのだが。
「ここで待ってればきっと会えますわ」
「でもそれではラクスが風邪を」
キラ宅の玄関前に座り込むラクスをアスランは止めようとした。
「私なら大丈夫ですわ。アスランの方が風邪をひいてしまいますから私の手の中に……」
ラクスはアスランに手を差し出すがアスランは乗ろうとはしなかった。
「…ごめんなさい」
「え?」
突然の謝罪にアスランはラクスの顔を見た。
先ほどまでは微笑んでいた表情は曇り、申し訳なさそうに目を伏せている。
「私がキラにお願いしたのです。一度でいいからアスランをハロちゃんみたいに手のひらに乗せてみたいですわ、と」
「どうして手のひらに?」
アスランの問いかけにラクスは瞼をあげると瞳を潤ませながら笑んだ。
「アスランにいつも包まれていますから、今度は私がアスランを包みたかったのです」
「俺がラクスを?」
アスランは何だか目頭が熱くなる感覚がした。
悲しい事なんてないのに涙を流しそうになる。
それは嬉しくてたまらない涙だった。
「ラクス、手を貸していただけますか?」
涙を堪えながらラクスに言うと、ラクスは不思議そうな顔をしながら両手をアスランの前に差し出した。
その上にアスランは乗った。
「……アスラン?」
アスランを乗せた手をラクスは顔まで近づけると、乗ったきり何も言わない彼を呼んだ。
「暖かいです。その……うまく言えませんが、いつも中から暖かいというか」
一生懸命何かを伝えようとしているアスランをラクスは見つめる。
その視線が恥ずかしかったのはアスランの顔はどことなく赤みを増していた。
「だから……ラクスと少しでも離れてると凍えて死んでしまいそうなんです!!」
顔を真っ赤にしながらもはっきりと言ったアスランに驚きながらもラクスはくすくすと笑った。
「私もですわ」
曇っていた表情が笑顔に満たされ、アスランは安心した。
そしてラクスをじっと見つめると手のひらの上で背伸びをして唇にキスをした。
「小さいと何か変な感じですね」
「小さくてもアスランはアスランですわ」
先ほどまで“可愛い”と言われ不機嫌になっていた自分を馬鹿馬鹿しく思った。何故不機嫌になったのかもわからないほどに。
「うわっ」
そんな事を思っていると突然ボンッと煙があがりアスランを包んだ。
「まぁ」
「あ、あれ?」
煙が晴れるとアスランは元の大きさに戻っていた。
いきなりの事にアスランもラクスも呆然としている。
「まさかキスで戻るオチか?に、したって微妙に時間差だろ!」
「だから面白いんでしょ」
アスランの自己ツッコミに更にツッコミの声が聞こえ振り返るとキラとカガリが立っていた。
「人の家の前で魔女さんにイタズラしてないでよ、狼さん」
「は?」
キラの言ってる意味がよくわからず、自分の体勢がどうなっているか考えた。
「うわっ!?」
アスランは慌てて立ち上がると体勢を崩し後ろに倒れた。
座っているラクスの腹に跨っていたアスラン。
戻った場所が場所なだけに仕方ない事だがはたから見たら少女を襲っている少年に見えた。
「アスランは年中ハロウィンだよね。お菓子くれないと卑猥なイタズラするぞーって。くれてもするだろうけど」
キラの冗談にカガリは笑っていた。
が、アスランは笑うはずもない。
「あっ、アスラン。棒をどうなさるおつもりで……」
ラクスが持っていた棒を掴み取るとキラに向かってかざした。
「じょ、冗談だよ!謝るから!だから」
アスランが持つ棒を見て後ずさりながらも謝ろうとするが
「問答無用」
一言だけ言うとアスランは棒を振った。
「あのままでよろしかったんですか?」
暗い夜道を歩きながらラクスはアスランに聞いた。
「俺達がいてもどうしようもないですから。元はあいつの棒ですし戻し方は知っているでしょう。今までの事を考えればあれぐらいじゃ足りないぐらいです」
無情にも許しを乞うキラに棒を振りかざし手のひらサイズにした。
今まで実験に使われているような気がしていて前々から仕返しはしようと思っていたためためらいはなかったようだ。
「アスラン」
ラクスはアスランの手を握り近寄った。
「Trick or Treatですわ」
そう言われるとアスランは悪戯っぽい笑みを浮かべ、ラクスに口づけた。
「甘い、ですわ」
口うつしで飴玉が口の中に入り、口内を甘さが満たした。
「お菓子も悪戯も両方共差し上げますよ」
「悪戯をするのは私ですわ」
少し納得がいかないながらもアスランの悪戯を嬉しそうに感じているようだった。
「アスランっ」
「え、うわっ」
少し何かを考えにっこり顔で呼ばれたかと思うと、ラクスはアスランから一歩下がり少しだけ助走をつけて飛びついた。
突然の事に少し体勢を崩すが倒れることはなくラクスを抱き止めた。
「アスラン?」
そのままの体勢で何も言わないアスラン。腕はしっかりとラクスを抱きしめている。
「ははっ。ラクスは本当……」
そして笑い出す。何がそんなにおかしかったのか。少なからず自分の行動を笑っているのだと思いラクスは頬を膨らませた。けれどすぐにアスランの笑顔を見るとラクスも笑顔になった。
「こんな悪戯なら大歓迎ですよ」
「はいっ」
ぎゅっとアスランを抱きしめると耳元に囁かれる。
「俺の悪戯も受け止めてくれますか?」
少し照れたようにしかし嬉しそうにラクスは小さくはいと言った。
H16.11.24
H17.3.9加筆修正
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