やがて光の空になる


 


「ラクスの誕生日っていつ?」
「そういえば明日ですわね」

何となく聞いてみたらそう答えられた。
その時はそうなんだとか気のない風に答えたけど、もっと早く言えよと言いたかった。
でも早く言われても仕方ない。何をあげたらいいかわからないし。



「なのに何で探しに来てんだろ」

摘んできた花を片手に浜辺を歩いていた。あまり花が見つからなかったから、貝殻とかないかと探している。
すぐに帰るつもりが気付いたら陽が沈みそうな時間になっていた。
起きてすぐに出てきたから今日はラクスに一度も会っていない。
たった数時間でもこんなに顔を見ないのはここに来て初めてかもしれない。
来た当初を思い出すと何となく笑えた。笑えるのはいいことだ。
ラクスが教えてくれた。思い出に浸って自分を笑うのはそれだけ変わった事なのだと。
それが進歩じゃなくても僕にとって変化というものは新鮮でいいものだと感じるようになった。

「あ……見っけ」

オレンジの光に反射した小さな貝を拾うとそれは薄い桃色だった。
これがいい、そう直感した。



「ただいま」

いつも返事がないとわかってはいても言ってしまう。
今住んでいる場所は何かの食べ物屋だったのか1階にテーブルや椅子がたくさんあるスペースで、2階が住居になっている。
普段は2階にいるからここでただいまを言っても聞こえない。
いつものように階段をあがり、ラクスの部屋の前に来る。
片手には摘んできた花、ノックをしようとしている手には貝殻を手にしていた。

「ラクス?」

ノックをしてから呼び掛ける。

「ラクス?」

いつもならすぐに返事が聞こえるのに今日は返事がない。
もう一度ノックをして待ってみるものの中から物音も聞こえてこない。

「わっ……」

扉を開けると強い風に目を閉じた。
目をあけると開け放たれた窓にカーテンがはためいている。
部屋を見回してみてもラクスはいない。主のいない部屋に沈みかけた陽の光が入っているだけ。

「ラクス〜?」

ラクスの部屋の扉を閉めてから2階に響き渡るように呼ぶ。
それでも返事はない。
自分の部屋を確かめてもラクスもいないし置き手紙もない。
何も言わずに出かけるなんてなかったのに。
これは僕とラクスとの約束。
出かける時は一言いって行くか、置き手紙を残す。

「あっ!?」

ラクスへの誕生日プレゼントの事で頭がいっぱいで何も言わずに出掛けていたと今気がついた。
そもそもそんな約束をする事になったのも僕がしょっちゅういなくなるからだった。
外に行くわけじゃない。隠れてたんだ。
ここへ来た当初はよく隠れていた。ラクスが探してくれて、呼んでくれて、見つけてくれる時安心できたから。
もちろんラクスは怒った。心配だから、と。それでも繰り返した。
だからラクスは約束をしようと言ってくれたんだ。
いくら誕生日プレゼントを探すためとはいえ約束を破るなんて。
ラクスがいなくなっても当然かもしれない。

「そう……だよな」

こんな摘んできた花とか拾った貝殻なんて貰っても嬉しくない。

「何?……歌?」

かすかに聞こえる聞き覚えのあるメロディ。

“もし、またいなくなるなら一緒にいなくなりましょう?この箱の中で”

「そっか」

離しかけた花と貝殻を掴み直して階段を下りた。
まだ陽は沈みきってなくてかろうじて真っ暗ではない。
僕はよく箱の中に隠れた。ちょうどいい木箱があったのもあるけど、開けてくれた時に光が入るのが好きだったから。

「ラクス」
「遅いですわ」
「ごめん」

木箱の蓋をずらすとラクスはいた。僕を見上げて遅いというが笑っている。

「誕生日おめでとう」
「はい」
「……わかってたんだろ?」
「はい」

何で僕がいなかったかはラクスにはお見通しだった。

「アウルにお金渡してませんから」
「もらってても探しに行ったよ」
「はい」
「僕も入ろっと」

片足を箱に突っ込むとラクスは膝を抱えてスペースをあけてくれる。
僕もラクスと同じように膝を抱えて座った。
よく入っていた箱だけど全然違う。明るくはないけど暗くもなくて、二人では少し狭くて、でも触れ合うと暖かい。

「もう少しこのままでもいい?」
「私もそう言おうと思っていたところですわ」



二人で一緒にいなくなって
探す人はいないけど
塞ぐ蓋もないから

差す光もないけど
妨げる蓋もないから
やがて光の空になる



H20.2.6




book / home