戸惑い思想


 


「本体が悪だったならドッペルゲンガーはもっと悪くなんのかなー」
「どうなのでしょう?」

頬に手を添えて首を傾げるラクス。

「そんなもの信じないけど気になってさ」
「確かに少し気になりますわね」

そんなものいるわけがないと否定すればするほど、怖がる子供みたいだ。
くすくすと笑うラクスにそれが見透かされている気がして、ふて腐れて視線をそらし机に頬づえを突いた。

「その人にとっての“邪悪”ないではないでしょうか」
「人それぞれって事?」

僕の問いにラクスは嬉しそうに頷いた。話してる事とは似つかわしくない。でも違和感はなかった。

「じゃあさ、ラクスの“邪悪”ってどんなの?」
「想像してみて下さい」

わからないから聞いてるのにそんな笑顔で言われたら考えてみるしかない。

「ラクスがじゃあく〜ラクスがじゃあく〜」

目をつむり、机を顎を乗せながら念じるように繰り返す。
目を閉じていても僕を笑ってみているラクスが思い浮かんだ。それがとても心地いい。

「無理!」

思いっきり目を開くとやっぱりラクスは微笑んでいた。
目を閉じても僕を見て微笑んだり心地いいその声で歌ってくれたりするラクスしか思い浮かばない。
重症と言われても事実なんだから仕方ない。

「極端かもしれませんが反対を考えてみればいいのではないでしょうか?」
「反対?はんたい……はんたい」

再び目をつむり想像してみる。
ラクスは僕を見て微笑むのだから、反対はラクスは僕を見ないで怒ってる?それとも無関心?
歌をうたうのだから、反対はうたわない?声を出しもしない?

「アウル?」
「それでもラクス、なんじゃん……どうすればいいんだろ」

今度はゆっくり目を開くとラクスは困ったように僕を見つめていた。

「ごめんなさい。アウルに悲しい思いをしてほしかったわけじゃないのです」
「悲しくないって」

ラクスの右手が僕の左頬に伸ばされてやんわり触れた。

「僕はラクスが好きだから、ラクスのそばにいたいんだ」

暖かい手はやっぱり心地よくて眠気を誘った。

「でもラクスが僕を見なくなったらどうするんだろ。ラクスが決めた事だから……だから」

段々声にも力が入らなくなる。でもこのまま話していても答えは出ないんだろう。

「いいのですよ」

なにがって聞きたくてももう意識はまどろみの中。
でもラクスの一言だけで答えは出てしまうんだ。
どこかで戸惑って迷ってしまっていても、いざなう手が見えるから。
今はもう少し眠りの中で。



H20.4.14




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