片方は笑えて、片方は笑えない


 


「おめでとうございます!」
「はっ!?」

突然の大きな音にもびっくりしたけど、それ以上にラクスに驚いた。
朝から姿を見ないと思って、しばらく待っていた。
外かと思って出た瞬間にこれだ。クラッカーまで鳴らしてなんなんだか。

「ずっとそこで待ってたのかよ……」
「はい」

寒いからとりあえず中へ入り直し、椅子に座る。
ラクスは鳴らし終えたクラッカーを持ったまま座った。

「で?」
「はい」
「いや、だから何がおめでとうなんだって話なんだけどさ」
「予行練習です」

さっぱりわからない。
おめでとうに練習も何もあるのか?こんな寒空の下待ってまで練習する事なのかよ?
色々言いたい事はあるけど言っても話は進まなそうだからあえて口に出さない。
しばらく暮らしてからラクスのテンポが何となくだけどわかってきていた。

「昨日は私の誕生日でしたから、次のアウルの誕生日に備えておこうと思いまして」
「僕の誕生日はわからないって前にも言ったじゃん」

ラクスの言う通り昨日はラクスの誕生日だった。
前にも僕の誕生日を聞かれてわからないと答えていた。そのときはそれで終わったのに何でまたその話になってるんだ。

「ではアウルが決めて下さい」
「誕生日って決めるもんじゃないじゃん」

決まってるもんだと言いかけてやめた。

「別になくても困らないし」
「記念日は大切ですわ。その日に思いを馳せて、重ねていくんです」
「何を?」
「思い出です」

もう使い終わってしまったクラッカーをラクスは僕に持たせた。
そしてそれを指さす。

「クラッカーを見たらこの日の事を思い出します」
「記憶だけじゃ心許ないって事?」

何かのきっかけがなければ思い出せない事なんてそれまでだ。
物なんてただ朽ちていくだけ。なら、同じ記憶を繰り返し見せられて覚えていたほうがいいぐらいだ。

「形があるものに頼るのではなく、それさえも思い出なんです。他の人がそれを見ても私達のやりとりはわかりません」
「そうかもしれないけど、よくわかんない」

クラッカーを見つめるとさっきラクスが突然出てきた事、ラクスがいなくて探し出した事を思い出した。片方は笑えて、片方は笑えない。

「一緒にいるからできる事なんです」
「……過ごしやすい時がいい」

誕生日の時期を言ったけど、いきなりで通じなかったのか間があった。
夏と冬の間がいい。そう思って言ってみた。

「ラクス?」
「そうですわね。カレンダーを持ってきますわ」

ラクスが立ち上がると後を追う事もできずにいた。
きっとラクスにはその間のある日に何か思い出があるんだろうな。
寂しそうに微笑むのを見ると聞きたいのに聞けなくなる。

一瞬夏と冬の間はやめて、違う季節にしようかと思った。僕らしくもない。
だからやめた。秋を思い出してもラクスがあんな表情をしなくなればいいなとかじゃない。
ただ僕がそうしたいだけ。
それがきっと僕らしいんだろう。

一つの思い出に笑えるものと笑えないもの二つが一緒にあってもいいんだ。



H21.2.11




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