君のハートに胸キュンA
「クリスマスイブで〜す」
「……いきなりなんだよ」
玄関の扉を開けると赤いセーター姿のキラが片手を高く上げ、明るい口調で言った。
「だから今日はクリスマスイブなんだよ」
「それぐらい知ってる」
アスランの言葉に一瞬制止すると大げさにえぇ!?と驚いた。
「そこまで驚かれるとさすがに俺でも傷つくぞ?」
「……知ってたのか」
「何であからさまに残念がるんだっ!また俺に何か渡そうとしてたんだろ?」
幾度となくキラに変な物を渡され大変な目に合ってきたアスラン。
自分の誕生日の時はラクスに猫耳が生えたり、ハロウィンの時なんて体が小さくなったりした。全てキラが仕組んだ事だった。
それでもアスランはそんな状況を楽しんでいたりする。キラには言わないが。
「……今回は諦めるか」
「聞こえてるぞ」
小声で言うキラにツッコむがキラは聞こえないふりをしてまたぼそりと呟いた。
「そういえばラクスってアスランの好みのタイプじゃないよね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
かしゃかしゃと音が響くアスラン宅のキッチン。
アスランは果物を切りながら隣で生クリームを泡立てているラクスを見た。
黙々と泡立て器で泡立てている。電動の物もあるのになぜか手動で必死に。
「あの、ラクス」
呼びかけるがラクスは相づちすら返さずにひたすら泡立て続けている。
「電動の物があるのでそれを」
「駄目ですわ」
一言そう言うだけでアスランに目もくれず視線は生クリーム、手を休める事はない。
“そういえばラクスってアスランの好みじゃないよね”
「好みか……」
「やはりチョコケーキの方がよかったでしょうか?」
その言葉に対して手を休め不安そうに聞くラクス。
近くにいるとはいえ小さな声で言った言葉にそんなふうに聞かれるとは思わずしどろもどろしてしまう。
「だ、大丈夫ですよ。こうして作っていて美味しそうだなと思ってますし」
「きっととても美味しいですわ」
アスランの言葉に安心した笑みを浮かべまた泡立て始める。
確かに自分の好みの異性はと聞かれるとラクスとは違った気がする。
正直彼女が何を考えているかわからなかったし近寄り難かったというのもある。
元気ではっきりしていて感情が顔にすぐでておもしろい子。そう、カガリのような子が“タイプ”と言っていいほど。
そんな思案に耽っていると隣から喜びの声が聞こえてきた。
「アスラン、ツノが立ちましたわ!」
ボールをアスランに見せ喜ぶラクス。先ほどまで黙々とやっていただけにその笑顔がいつもより輝いてさえ見えた。
「もうすぐでスポンジが焼き上がる時間ですからそっちに置いておきましょう」
「はい」
自分達から少し離れた場所といっても1メートルもない場所に置いておこうとラクスはボールを持った。
「あ、ラクス!」
「何ですか?きゃっ、ぁ」
突如ラクスの足下に現れたピンクハロに足をもつれさえ床に尻餅をついた。
「大丈夫ですか?」
「はい……でも生クリームが」
どこぞのギャグ漫画のごとくラクスはボールを頭に被った。
それをアスランは急いで取るが生クリームは髪から体にかけて付き見るからにべとべとな姿。
「……泡立てましたのに。アスラン?」
顔を俯かせ呟くラクスの顔に付いている生クリームをアスランは舌で拭った。
「美味しいです」
「でもケーキが……」
「大丈夫ですよ、まだ生クリームはありますから」
アスランの言葉にラクスは顔をあげ顔を輝かせた。
「ではすぐに泡立てませんと」
生クリームを全身に付着させたまま作業しようとするラクス。
「ラクス、そのままだと気持ち悪いと思いますから」
「?」
不思議そうにアスランを見つめるラクス。むしろ不思議なのはアスランの方なのだが。
普通はべとべとしてる体をシャワーで流したいと思うはずなのに特に気にせずにケーキ作りを続けている。
「生クリームは俺がやっておきますからシャワーを浴びてきて下さい」
「でも……」
何故か少し悲しげに生クリームがある冷蔵庫を見るラクスにアスランは耳打ちした。
「その姿だと俺が困るんです。さすがにここで押し倒すと」
「わ、わかりましたわ!!」
顔を少し赤らめ視線を逸らしながらラクスはキッチンを出て行った。
そんな様をアスランは口に手を押さえくすくす笑う。
「さて、生クリームを泡立てるか」
生クリームを泡立てる体制になり、電動泡立て器と手動泡立て器が目がいく。
“一生懸命混ぜたらきっともっと美味しくなりますわ”
するとラクスが生クリームを泡立てる前に言った言葉が頭をよぎった。
苦労したからこそその後の物をより一層喜べるという事か。
アスランは手動泡立て器を手に取り生クリームを混ぜた。
「普段の俺なら迷いなく電動だな」
苦笑しながらもどこか嬉しそうに言った。
一緒にケーキを作ろうと言われた時、クリスマスを一緒に迎えようと言われた時。
昨日の事だけを思い出すだけで胸は暖かくなる。
同時に生まれるモノは苦しくて、彼女に向かう。求めてしまう……彼女を。
「……重症だな」
ため息はついても笑みは消えない。
「アスラン、すごいですわ!!」
「へ?」
ラクスがシャワーからあがってきたのに気づかず思わず、驚いて間抜けな相づちを返してしまった。
「もう生クリームできましたのね!スポンジも焼きあがったみたいですし仕上げを致しましょう」
ラクスに言われ自分が手にするボールを見ると使い時の生クリームができていた。
ラクスがスポンジを台に出しその光景を呆然と見ているが服装を見て顔を赤らめた。
「アスラン?顔が赤いような」
「な、なななんで俺の服を」
何でアスランがそんな反応をしたのか自分の服に一度目をやりにっこり笑った。
アスランのYシャツとズボンを着ているラクス。体格が違うため明らかにダボダボで足の裾やシャツの袖を折っていた。
多少はラクスの服もアスラン宅にあるのにあえて着ているのはアスランの服。
「さぁアスラン、仕上げを致しますわよ!」
わざとらしくそんな事を言われ、アスランはあえて深くツッコむ事はやめた。何より可愛いしなんて思ったからだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあケーキ食べましょうか」
「はい」
チキンなどクリスマスには食べがちな物を夕食に食べ、デザートに二人で作ったケーキを食べる事にした。
小分けにして皿に乗せラクスに渡すと瞳を輝かせながらそのケーキを見つめていた。
「あの……」
「はい?」
アスランが言いにくそうに切り出すとラクスはケーキから視線をアスランに移した。目は輝かせたまま。
「もう服も乾いたと思いますし着替え、む」
「美味しいですか?」
言葉の途中でケーキを口に入れられた。
これは服を脱ぎたくないと……?
そう思いながら口に入れられたケーキを味わう。
「美味しいです」
「アスランが一生懸命生クリームを泡立てたからですわ……きゃ」
アスランにその場に押し倒され持っていたフォークが床に転がった。
「きっと二人で作ったからですよ」
「そうですわね。あ、アスラン?」
「何ですか?」
少し気恥ずかしそうに名前を呼ぶラクスに笑顔で答えるアスラン。
「手が……私の服を」
「気のせいですよ」
明らかに気のせいではないがそう言いのけるとアスランはラクスのズボンを脱がせた。
「ダメですわ……こんな所で」
抵抗しようとするがすでに押し倒していた人は体を起こしていた。
「アスラン?」
「ラクス、口を開けて下さい」
体を起こし言われるがまま口を開けると、アスランの持つフォークからケーキが口に運ばれた。
「美味しいですか?」
「はい、とても美味しいですわ。でも……」
「何か?」
「何故ズボンだけはぎ取ったのですか?」
「それは……」
顔を逸らし言いにくそうにするアスラン。
「下の履物がないと寒いですわ」
「それなら大丈夫です。ここに座れば」
アスランが手でポンポンと叩く所を見て一瞬静止する。
「密着すれば暖かいですから!」
自信満々に拳まで作って訴えかけるアスランにラクスは思わず笑いながらもそこへと座った。
アスランの膝へと。
「アスラン、食べさせる時は“あ〜ん”と言うのですわ」
「それは少し恥ずかしい気が」
「あ〜ん、ですわ」
フォークにケーキを乗せアスランの口へと差し出す。
何だかその言葉があるとさっきは恥ずかしくなかったのに恥ずかしく感じてしまう。
少し躊躇しながらも口を軽く開ける。
「ダメですわ、食べる方も“あ〜ん”と言うのです」
「それはかなり厳しいような……あ〜ん」
恥ずかしさをごまかすように目を瞑って口を開ける。すぐに甘いケーキが口に運ばれる。が、その後に柔らかくてほんのり甘い何かが触れた。
「ラクス……今」
「美味しいですわね」
笑顔でそう言うラクスにアスランも笑みを浮かべながら自分の頬をラクスの頬に寄せた。
「明日は一緒に外に行きましょうか」
H16.12.24
H17.3.10修正
book /
home