たとえ明日にその形が見えなくても動き続ける
「何それ」
「風車ですわ」
棒の先端に赤い紙がついていた。
形状が見た事もなくてどうやって使うかもわからない。
「アウルも作りましょう」
「は?」
疑問形ではなく決定事項のように言われ、腕を引かれて仕方なく椅子に座った。
「誕生日までに窓際にたくさん飾りたいんです」
「何のために?」
「飾りたいからですわ」
これはただ飾るものなのか?
断る理由もなくラクスに教えてもらいながら作り始めた。
「……できた」
ラクスが軽く手にしていたからと簡単にできると思ってたのに時間がかかった。
ラクスはあくまでも自分の物にしか手をつけず、本当に教えてくれるだけだった。
手を出されても僕は断るんだろうけどさ。
「お疲れ様でした」
「窓際に飾ればいいの?」
見た目はラクスが作った風車ほど綺麗ではないけど、初めて作ったんだ。大目に見てもらう。
不格好な風車を手にして窓際に行こうとすると勢いよく反対方向に引っ張られた。
「なにっ?」
「外で試しましょう」
何を?と聞く前にラクスに手を引かれて外へと出た。
まだ陽は高く、明るい。
陽光が海に反射して眩しくさえ感じた。
程よい風にラクスの長い髪が靡いて毛先が引かれている腕に触れてくすぐったかった。
「風も出てますわね」
ラクスはそう言いながら自分の風車を前に突き出した。
すると緩やかに紙が動き出して回り出した。
「風で回るんです」
だから風車なんて名前なんだと思いながら、自分の風車も突き出してみた。
ラクスの風車と並べてみる。
でも僕の風車は動かなかった。
「やっぱダメか」
動き続ける風車を見ると光を遮ったり入れこんだりする。
動いているから常に変化する。
「大丈夫ですわ」
掴まれていた手が離れて、ラクスの指先が僕の風車に触れる。
その瞬間に強い風が吹いた。
思わず目を閉じてしまい、風に靡いたラクスの髪の感触と握りしめる風車だけは確かに在った。
「回った……?」
「はい」
目を開けるとまるで先程全く嘘かのように風車は回っていた。
ラクスが嬉しそうに頷いて僕は違和感を覚えた。
僕の風車の隣には何もない。
「ラクスの風車は?」
「飛ばされてしまいましたわ」
そう言いながら指さす水面には赤い物が浮いていた。
「あの距離ならまだ……ラクス?」
取りに行けると言い終わらない内に手を握られた。
「だってラクスのなのに!」
また作ればいい事なのに聞き分けのない子供のように言っていた。
だって動いたって一つじゃ意味ないじゃないか。
「一人で無くしたのではなく、二人で無くしたのですからいいんです」
「僕のはここにあるのに?」
「無くした物を二人で見たのなら一緒ですわ」
果たして諦めなのか。
わからない。
動いたのに動いていた方は止まってしまった。
「わかった」
「アウル?」
僕は屈んで風車を砂浜に突き立てた。
緩やかな風によって動く風車。
「また作ろう。誕生日までにたくさん作るんだろ?」
風車はそのままに、今度は僕がラクスの腕を引いた。
ラクスは僕の風車が気になったようだけど、流された風車に視線を向けるとこちらに向き直った。
「はい」
笑って頷くラクスに僕も笑って返した。
止まらない。
一緒に作ったのだから離れなければ止まらない。
たとえ明日にその形が見えなくても動き続ける。
H22.2.3
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