宝を見つけたような気持ち


 


いつもなら1階のカウンターに置かれているカレンダーがない事に気がついた。
あるべき場所の前に立って最後にいつ見たかを考えてみる。

「いつだっけ?」
「何がですか?」

2階から降りてきたラクスが僕の言葉に問い掛けきた。

「ラクス、ここにあった……」

近づいてきたラクスにカレンダーがあった場所を指さしながら言いかけてやめた。何故やめたのかはわからない。
本能とかいうやつかもしれないし直感で何となく言わないほうがいいかもしれないと思ったのかもしれない。
特にラクスの何がそうさせたわけでもなく変わりはないはずなのに。

「アウル、お茶にしましょう」

そう言うラクスに頷く事しかできなかった。



次の日。
買い出しにはついて行かずにラクスがいないのを見計らってカレンダーを探す事にした。
日付感覚があまりなくて今日が一体何日なのかはわからない。わからなくても困らない。
困らないけどずっと飾られていたカレンダーがないのは寂しい気がした。


まず無難に1階。
カウンターの下やキッチンの棚、テーブルの下などを探してみてもない。
ここで今日は時間切れ。


次の日。
ラクスが少し出掛けた隙に物置を見てみる。あまり物は置かれていなくてすぐにないとわかった。
空き部屋を見てみてもなく、時間切れ。


さすがに連続だと怪しまれるから数日してまた探してみる事にした。
そもそも何で僕はこんなこそこそやってるんだ?ラクスに聞いたほうが早いじゃんとは思っても聞けなくて今日はラクスの部屋の前にいた。
入った事もあるし、入るのを禁止されてるわけじゃない。
でもやっぱりラクスがいないのに勝手に入るのはどうだろうとさすがに考える。

「少しパッと見るだけなら……ラクスの部屋にあったとして隠す理由なんてないはずだしあるなら目につくところに置くはずだし」

自分への言い訳みたいで情けない気がして、それを吹っ切るように扉を勢いよく開いた。

「……ない?」

出入口から部屋を見渡してもそれらしいものなかった。
部屋の中に足を踏み入れてもやっぱりない。

「捨てた?」

僕でないならラクスが捨てた事になる。でも何のために?

ここにずっといても仕方ないと出ていこうとして振り返る。
何度ラクスの部屋にきても慣れない。ラクスの部屋はラクスそのもののようで複雑だった。知らないものが飾られている、それだけなのに。それが部屋として正しいはずなのに。

「どうしよ」

カレンダーはやはりないんだろうか。見つかるだろうと探しはじめてまさか見つからないなんて事になるとは。
自分の部屋に戻ってふとここだけ探してない事に気がついた。

「でもないし」

部屋の中央に立ってぐるっと見てみてもそれらしいものはない。
来る前から置かれている机はほとんど使う事はない。引き出しも開けた事があるかすら怪しい。
ほんの気まぐれで引き出しを開けた。

「あった」

カレンダーは2月を表にして引き出しに入れられていた。



「宝探しはいかがでしたか?」

1階に降りていくとラクスはすでに帰宅していて座っていた。

「それはカレンダーが宝って事?」

ラクスの前まで近づき、見つけたカレンダーを手渡す。
ラクスはカレンダーを撫でる。その表情はどこか寂しそうだった。
すぐに僕を見上げて笑う。でも僕には無理をしているように見えた。僕のせいなんだけどさ。

「宝かどうかはアウル次第ですわ」
「誕生日」

ラクスが驚いた表情を見せてその頬に触れた。

「僕が覚えてなくて拗ねた?」
「……拗ねてません」

言葉と表情が合ってなくて面白い。

「ごめん。せっかくカレンダーあるのにさ」

ラクスは持っていたカレンダーを膝に置き、顔を俯かせた。
2月はラクスの誕生日だった。でも僕は覚えてなくて、ラクスはカレンダーを隠す事で意思表示をしたのかもしれない。

「少し寂しかったですわ」
「うん」

悪いのは僕のはずなのにラクスの気持ちが聞けて嬉しく思ったりもしてる。
もう片方の手も頬に触れるとラクスはゆっくりと顔を上げた。困ったような照れたような拗ねてるような表情。

「宝だった」

そう言うとラクスは微笑んだ。

宝を見つけたような気持ち。ラクスの気持ちが聞けて、見た事のない感情を見れた。



H23.7.9




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