砕くは鮮やか、枷は色:3


 


浮かんでいるような
でも沈んでいるような
境界線がわからずに
僕は流れる
色は流れていく
鮮やかに真っ青に
それは悲しい色
それは優しい色
目を覚ませば
また戻る
色なき世界



「アウル、最近見掛けなかったが大丈夫か?」
「僕もよくわかんないんだけどさ、部屋にいろっていわれた」

食堂で飲み物を飲んでいるとスティングが近付いてきて僕の前の席に座った。

「監禁に近いよねー。何もしてないのに出るなってさ」

始めはしかめっ面だったスティングも僕のいつもの口調にそうかと少し笑った。
本当に何もわからないんだからこう言うしかない。

「監禁といえばプラントの女を捕虜にしたらしい」
「へぇー……オーブにいたの?」

プラントにいた奴をわざわざオーブにあるここに連れてくる必要がない。
オーブにいて捕まったならそうとうの馬鹿だ。

「俺もよくは知らないがプラントにいるはずなのにオーブにいて思わぬ収穫とか言ってたな」
「ふーん」
「どこ行くんだ?」

立ち上がるとそう聞かれた。そんなわかりきった事聞くなよと思うけど答えてやる。

「その馬鹿を見に行ってくる」



「いてっ」

何もない所で躓き思わず辺りを見回した。見られたら見なかった事にしてやる、と拳を握る。
が、誰もいなかった。
何かを落としたような気がして落ち着かない。
でもなくした物なんてない。そんなに執着してるものもないし。
記憶が飛んでいる気もする。いつゆりかごに入ったのか、目を覚ますとゆりかごですぐさま部屋に閉じ込められた。日にちの感覚もない。
そうこう考えているうちに監禁してるっていう部屋の近くに来ていた。

「どうした、アウル・ニーダ」

見張りに止められた。
僕は絶対に入らせるなって言われてるんだとか。
そう言われると余計入りたがるってわかんないかな。



「馬鹿を見れなかった」
「そりゃあそうだろうな」
「見れないとなると余計見たくならねぇ?」

スティングは僕を一度見ると呆れたようにさあなと返してきた。

「気になるっ」
「ならない」

無言でじーっと、目を伏せ顔を横に逸らしているスティングを見る。

「深入りはするなよ」
「わーかってるって。見るだけ、ちょっと見てくるだけだから」

でもなぁと渋るスティングをこのあと丸め込み協力してもらう事にした。
何でそこまでして見たいんだと聞かれた。
何で見たいかなんてわからない。ただの好奇心。物珍しいものを見たいだけ。そう思う事にした。


そして今、監禁されている部屋の前にいる見張りにスティングが近付いていってる。
二、三言葉を交わすとその見張りとスティングは歩いて行ってしまった。

「さっすがスティング」

見張りがいなくなったドアの前に駆け寄る。ロックがかかっているがすぐに開けられる。難しい鍵なわけではないから。
ドアが開くけど中は真っ暗だった。中に人がいるのかすらわからない。

「どなたですか?」
「どなたってあんたこそ誰?」

柔らかい声がした。
明かりのスイッチを見つけ、押すと明かりが点く。

「あっ……アウル?」

僕を見て一瞬泣きそうな顔をして呼ばれた。
長い桃色の髪の女性。少女というには中途半端に成長していてあわない。
でもその女性に見覚えはなかった。

「何で僕の名前知ってんの?」

近付いて屈む。いくら見ても記憶にはない。
僕がじっと見ていても女性は視線を逸らさず僕を見ていた。怖がってる様子もない。

「普通さ、こんな所にいれられたら怖がんない?」
「……怖くありませんわ」

少しの間があり笑みを浮かべながら答えられた。
その間が恐怖を感じての間ではない事はわかる。何かを戸惑っているような感じに見えた。
両手両足に枷をつけられ鎖で壁と繋がれている。身動きができず殺されかねない状況で何故怖くないと言うのだろう。

「誰かが助けに来ると思ってんの?」

今度は何も答えない。それは肯定とも取れる。

「助けに来てくれるコイビトとかいるんだ?」

コイビトがどんなものなんか知らない。でも特別な好きならなる関係だとネオから聞いた事があった。特別な好きなんてわけがわからない。
今度もまた答えない。

「でも残念。助けになんか誰も来ないよ?」

恐怖を与えてやろうと言ってみても女性は変わらず僕をみているだけだった。
その瞳に腹がたつ。捕まりたくないなら逃げればよかったのに。プラントのやつならコーディネーターってやつなんだろ?
持って生まれた優秀な体と頭脳で逃げてみろよ。

「何か言いなよ」
「何も言う事はありません」

静かなその声を荒れたものにしたいと思った。

「っ……!」
「ハッ!何されるかも知らないでそんな澄ました顔しちゃってさー」

長い髪を思いきり掴み引き上げるように顔を上に向かせる。痛いのか少しだけ表情が歪んだ。

「何も言わないなら喘がせてあげようか?」

いくら言っても恐怖に染まらない。まるで僕が言ってる事が全て聞こえていないかのよう。
それが嫌だと感じた。
いくら責めても泣きはしない、懇願もしない。きっと初めてというやつではない。

「こんなにしても欲しいって言わないんだ?」
「……ん、ふ」

床が濡れてる。拭くものもないから乾かせば大丈夫かななんて思う。

「じゃあいいよ。勝手に入れるから」

両足を大きく広げると枷に繋がる鎖が鳴った。

「何見てんの?」

反応した自身をそこにあてがうと視線を感じた。荒い息を押さえながらその部分を見ている。

「やっぱ怖いんだ?でももうそんな事言っても遅いっての」
「ひっ!ぁあああ!!」
「ばっ!あんま声出すなって」

一気に押し込むと女性は顔を上に向け声をあげた。
何本指をいれこんでも、舌で刺激しても反応を見せようとはしなかったのに僕が入った途端反応を見せた。

「もしかしてさっ……僕が入ってくんの待ってたの?」
「んっ……」

瞳に涙を溜めて早く動いてと懇願してくる。わざと押し込んだ自身を引き抜こうとすると離さないように絡みついてくるよう。
それが嬉しかった。やっと彼女が僕を見てくれたようで、求めてくれた事が嬉しかった。

見えてなかったのは僕の方だったのに



「遅かったな」
「そう?」

部屋に戻るとスティングが雑誌を読みながら話しかけてきた。

「見張りはどうしたの?」
「適当に理由つけて放置した」

遅くなった理由を隠す必要もなかった。でも言う気にはなれなかった。

「アウル、深入りするなよ?」
「何が?」

いつになく真剣な表情のスティングに僕は笑った。
さっきも聞かれた事だけど今度は聞き返した。

「捕虜が来た日からお前は外出禁止になった。何も関係なければいいが関係ないとも言えないからな」
「はいはい、優しいお兄さんの忠告は聞いておきますよー」

聞いておくけどもう遅いかも、と思ったりしたけど口には出さなかった。
そのままベッドに寝転がり目を閉じた。
誰かが僕を見て微笑んでいる気がした。
目の前には誰もいないのに脳裏に焼き付く何かがあった。
どうしてここにいないのだろう。
どうして僕を呼んでくれないのだろう。

「名前、教えてないんだった」

誰に?

僕はまたあの人に会いたいと思っていた。別にあれが目当てなわけじゃない。



「この前みたいに遅くなったら今度はないからな」

何だかんだ言いながら協力してくれるスティング。
多分何度も通用する手じゃない。いくらスティングでも怪しまれるだろう。
これが最後。ドアのロックを解除し僕はあの人がいる部屋に入った。
相変わらず真っ暗な部屋。ドアが閉まると目が慣れるまで動けない。

「またいらしたんですか?」
「何、僕が来るのが不満なわけ?」
「アウル?」

目が慣れてきて女性の姿が視界に入った。
目の前まで行くと腰を下ろす。少し驚いたような、そんな表情。
僕だと思わなかった?じゃあ“また”って?
聞けばわかる事だけど何故か聞くのをためらった。

「暗いからこれ持ってきた」

手にしていたものを自分の顎の下に持っていきスイッチを入れる。

「っ……」

スイッチが入った瞬間視界が真っ白になった。
しまった。暗闇に慣れた目にこの光は強すぎた。数日こんな所にいるこの人には尚更だろう。
目を閉じ少しして薄く開くと今度はちゃんと目の前の女性が見えた。
やっぱり眩しかったらしく顔を背け両目を伏せている。

「ほら、これで少しは大丈夫だろ」

光を放った懐中電灯を目の前から床に向けた。

「はい……」

ゆっくり開かれた目が同時に僕をゆっくりと見た。

「暗かったから持ってきたんだけどいらなかったか」
「いえ、光があった方が安心しますわ。ありがとうございます」

この人は僕にこの間された事を忘れたんだろうか。
そんなわけがない。
でも僕に礼を言ってる。ただのきまぐれで持ってきただけのこんな懐中電灯だけなのに。

「何で捕まったの?」

何も考えずに出た言葉がそれだった。女性は一瞬だけ戸惑ったような表情を見せるが微笑んだ。
戸惑うとはまた違う表情に見えたけど僕にはわからない。
返事はなくただ笑むだけ。答えがなくて馬鹿みたいに見つかって捕まっただけなのか、それとも何か理由があるのか。

「名前は?」
「ラクスですわ」

すんなり答えられて拍子抜け。
初めて聞いた名前なのに初めてな気はしなかった。プラントの偉い奴とか?
覚えてはないけど偉い奴ならどっかで見聞きしたぐらいはあるのかもしれない。

「僕はアウル、って何で名前知ってたの?」
「アウルはアウルだからですわ」
「は?」

よくわからない。天然ってやつ?ステラとはまた違うタイプ。

「アウルはどうしてここに来たんですか?」

反対に聞かれて答えに困る。始めは馬鹿を見たくて、でも今は?
自分でもわからないのにすぐに答えられるはずがない。

「僕さ、軍人ってやつなんだ。でも外に出たのは最近で何か興味が……」

途中で何言ってるんだかわからなくなってきて言葉を止めた。
床に視線を向けて、懐中電灯の光を遮るように頭を床に押しつける。スイッチを切ればいい事なんだけど何となく切りたくなかった。

「アウルは守りたいものはありますか?」
「え?別に……ない」

顔をあげるけどまたすぐに下を向く。
考えた事もなかった。まるでゲームのような勝ち負けで生き残れる。守るとかはいらない。ただ戦うだけ。

「見つかりますわ、きっと」
「……うん」

何で頷いたのかもわからなかった。わからない事だらけ。
でも気持ちが悪いわけでもなかった。わからないのに。
またラクスと話せる時はあるんだろうか。
何で話したいと思うんだろう。わからない。いつかわかるかもしれない。



「この前よりは早かったな」
「ちゃんとお兄さんの言う事は聞かないとねー」
「だからっ!……まあいい」

部屋に戻るとスティングがいた。
ベッドに腰をかけた。スティングが何か話したさそうだったから。

「見張りのやつに聞いたらろくでもない事やってたぞ」

僕が聞く姿勢なのを見るとおもむろに言った。

「ろくでもないこと?」
「捕虜を強姦したんだと。プラントでも有名な奴だとか言って自慢してきた」

言葉が出なかった。
だからラクスはまたきたのかと言ったんだ。
一回だけじゃなく何度も。

「俺達には関係ない話だけどな。アウル?」
「えっ?あ、そうだね。もう寝る」

顔を枕に伏せてベッドに寝た。枕を両腕で握り締める。息が苦しい。
どうしてラクスは言わなかった?
僕も同じ事をしたからか。
そう思うと笑えた。
まだ気がつかない枕の下にあるピアス。
飛ばすも千切るも僕の自由。
近くにいてほしい、そばにいたいと気がつくのはすぐそこ。


段々と色のつく世界が
僕に枷の重みを教える



H18.5.6




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