砕くは鮮やか、枷は色:1


 


─色がない世界があたりまえで
いつも色がついた瞬間白黒になる
白黒という色に
塗りたくられていく
色なんてないのに
矛盾だらけな世界
それでもこの視界に残る
鮮やかなものがあるとしたら
砕けという警告
自分が壊れないように
だから色がついた僕をあげる
だからあなたが……
壊れて─



「僕一人〜?二人して楽してんなよ」
「馬鹿、俺らは俺らでやる事があるんだ。お前だけがやるわけじゃない」
「なに、するの?」

一人で外での任務を言いつけられた。ここにいてもやる事は決まってるしつまらないけど一人で外には行きたくなかった。

「こっち一人でも大丈夫じゃん。どっちか来てよ」
「駄目だ。ただの偵察なんだから一人で十分だろ」
「偵察ならスティングの方が……」
「いいから行け」

追い出されたような気分で僕はオーブの街へ行く事になった。
偵察とは名ばかりだ。何かおかしな所なんて僕らよりも大人な奴らが見つけるに決まってる。
前も一度一人で外に来た。その時はネオに社会見学だかなんだか言われて出てきたんだけど気がついたら揺りかごで目を覚ました。
その事でネオは偉い奴に怒られて、僕は部屋から出る事を一時的に禁止された。
それ以来外には出たくなかった。スティングやステラがいるならまだしも一人で出たらまたこの間みたいになるんじゃないかって。
怖い事しか覚えてない。ただ怖かった。何に対しての恐怖かはわからない。でもいいものではないという事だけはわかる。

「考えんのやめよ」

適当に見て回る。別に普通の街だ。どこを見ても同じに見える。
同じに見えるなら空か海を見ていたい。
変わらない景色でもどこか安心できる。

「ステラがいたら喜ぶだろーなー」

砂浜を歩いて人がいないのを確認するとその場に仰向けに寝転がった。

「涼し……」

うとうととしてきて目を伏せる。太陽が高くて目を閉じても眩しい。真っ白だった。
歌が聞こえる。
風にのって届くようで心地がいい。

「オレンジだ」

目をあけると橙色。もうそんな時間かと体を起こす。

「歌?」

幻聴かと思った。朧気な意識の中で聞こえたから。でも意識がはっきりしても聞こえる。
誰もいない。先を見ても。

「……あ」

反対方向を向くとこちらに歩いてくる人影。長い髪が靡いてる。

「ねぇ!何してんのっ!」

僕が呼び掛けると少しだけ俯いていた顔があげられ僕を見た。
個人的な美的感覚はよくわからないけど“綺麗”って言うのかな。
大人でも子供でもない。僕より年上に見えるけど大人になれてはいない。そんな風に見えた。

「おはようございます」
「おは、え?」

少し離れていても挨拶をくれた人。でもその挨拶を返そうとして違和感に気がついた。

「オハヨウゴザイマス?」

はてなマークが頭に浮かび首を傾げる。すると少女はくすっと笑った。

「何がおかしいんだよ」
「すみません。でも何だか可愛らしくて」

可愛らしい。
言われた事はあるけど、いつも腹が立っていた言葉。
でも今は腹が立たなかった。

「朝早くにお散歩ですか?」

この言葉で今の時間帯がわかった。
てっきり今までここで寝ていたから“おはようございます”と言われたのかと思っていた。
まさにその挨拶が適応される時間帯だから言われたんだ。

「て事は……今、朝?」
「はい。綺麗な朝焼けですわね」

少女はそう言いながら落ちているとばかり思っていた太陽を見た。
その視線を追って僕も太陽を見る。
まだ弱い光が肌寒い朝ではとても暖く感じた。

「あっ!やばい、帰らないと」

こんな事をしてる場合じゃないと気がつく。
帰ったら怒られるだろうが帰らないわけにはいかない。

「気をつけて帰ってくださいね」
「何脱いで……あんたが寒いじゃん」

突然上着を脱ぎだしたかと思うとその上着を僕の肩にかけた。
薄紫色のカーディガン。今まで着てた人のぬくもりでとても暖い。

「私の住んでいる所はすぐ近くですから」

返そうと思うけどその笑顔が返そうとする手を止めた。
カーディガンを掴んだ手を見てしばし考える。

「返しに来る」

僕の一言に少女は驚いたようだがすぐに笑みを浮かべた。

「そのまま持っていてくださって構いませんわ」
「返しに来る!だから明日の昼間ここにいてよ」

少女は僕を見つめ考えている様子だったけど、頷いてくれた。

「じゃあ、明日ね!絶対いろよ!」

背を向け振り向きながら言うと少女は手を振り笑顔で見送ってくれた。

“明日”

その言葉を口にすると苦しくなった。
急いで走って帰ってるからかな。呼吸が乱れて苦しい。



終わりだと思っていた時に
始まりに出会った
それはあまりにも鮮やかで
僕の世界にはないモノ
その光が僕の身体を重くさせる
蓄積されていつかは色のないモノになってしまう
矛盾だらけの世界は
もしかしたら勘違いから
壊してしまえるのかもしれない
でもあまりにも重い枷がついていては
僕の身体は動けない
そうなる前に砕かなければいけないのに
僕はまだそれにさえ気がついていなかった



「長かったな」
「うるさいなー」

僕が部屋に戻るとスティングが嫌な笑みを浮かべ話しかけてきた。
帰るなり怒られたのは言うまでもない。

「また外出禁止になったんだろ?」
「残念でした〜。今回はお咎めなし!僕って日頃の行い良いからさー」

勝ち誇ったかのような言い方をしてやると案の定スティングはつまらなそうな表情を見せた。
ネオが何とかしてくれたと言ったらまた何か言われそうだから言うのはやめておいた。
本当は外出禁止のはずが今回は何もなかったからとネオが言ってくれたおかげで外出禁止にはならなかった。

『何事も経験だろ?』

なんて事言ってたけどよく意味がわからなかった。にやにやしてたけど頭でも打っておかしくなったのか?
まあネオはいつもおかしいし気にする事でもないか。

「アウル、そのカーディガンは何だ?」
「これ?借り物」

僕のベッドに投げ出されたカーディガンを指さしながらスティングが聞いてきた。
嘘は言ってない。借りたから返しに行くんだし。
でもただ返すってだけなのも味気無い。
別に気を使う必要はないけど何となく何かしたかった。
でも何をすればいいだろう。何をあげれば喜んでくれるだろう。

「アウル……帰ってきた?」

部屋のドアが開いたかと思うとステラの姿があった。
とことこ歩いてきて僕を見上げる。

「な、なんだよ」
「アウル、元気……よかった」

こいつもこいつなりに心配してくれたんだろうか。
わからない言動をよくするけどそれも慣れれば面白い。

「そうだ。ステラ、ネオに何かあげた事あんの?」
「うん……ネオにあげた」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「で、お前は何を作ってるんだ?」
「折り鶴」

ベッドの上に座り込み何枚もの折り紙を置き、手には折り途中の折り鶴。
ステラはネオが戦闘で負傷した時に折り鶴をいくつも作ってあげたと言った。
ネオの事だからステラがあげれば何でも喜ぶんだろうけど、何も思いつかない今は折り鶴に頼るしかない。
スティングが訝しげな目で僕を見るが無視した。
というよりそれどころではない。
この折り鶴がなかなか難しい。
ステラに教えてもらったもののステラみたく綺麗な折り鶴ができない。
よれよれで飛べない鶴みたいだ。
それでもいくつか作っていくうちに少しはマシになっている気がした。

「まぁ、頑張れよ」
「子供扱いすんな!」

頭を二、三回軽く叩かれ僕は怒った風に言う。
その反応が楽しそうに笑うスティングに更に子供扱いされている気がして、蹴りつけてやった。



「何でだよ!外出は禁止されてないだろ」

次の日。
外に行こうとすると止められた。ネオがいればすぐ出かけられるのに、当のネオが見つからない。

「仕方ねぇな……」

気絶させてその隙に行こうと考えていると、先の通路からスティングが現れた。

「ネオから頼まれた用事で行くんだ。俺も行くならいいだろ」

スティングが言うなり止めた奴は引き下がった。納得はしてなかったみたいだけど。

「僕行かないよ」
「ばーか、ネオからなんて何も頼まれてねぇよ」

僕やステラに比べてあまり問題がないとされているらしいスティング。
優等生タイプに見えて実は結構悪い。大人って騙されやすいよね。
でもその方がこういう時に役立つ。

「さっさと行ってこい。また朝帰りなんかになんなよ」
「わかってるよ」



─何をわかっていたというのか
ここで止まればよかったのに
色のない世界にいればよかったのに
僕はいったい何を望んでしまったのだろう
僕の中で段々と砕けていく音が聞こえた
砕けたカケラは僕の腕にからみついて
それはやがて……─


僕はまだ何もわからずに
そこへ向かっていた



H17.11.19




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