続・サディスト的愛情表現論


 


「たまには男キャラ使えって」
「別に人が何のキャラ使おうが関係ないじゃん」

自身のキャラが敗北した瞬間にシンはゲームのコントローラーを投げ出した。勝者であるアウルはその様子に満足したようにコントローラーから手を離す。

「このサディスト」
「じゃあシンはマゾヒスト?」
「違う!!」

悔し紛れに言った言葉を軽く交わされ、カッとなり言い返してしまいシンは拗ねたようにアウルから顔を背けた。

「お前らは人の家に来る度に勝手にゲームして喧嘩して何なんだ」

家の主であるアスランが文句を言いながら、二人が背にして寄り掛かっていたテーブルにティーカップを置いた。

「それにそんな近くでゲームをやるな」

アスランの言葉は無視してシンは顔を背けたまま、アウルはお茶が注がれたティーカップを引き寄せた。

「まるで保護者みたいな物言いが面白いよね」
「またお前は勝手に入ってきたのか」
「嫌だなぁ、たまたま鍵が開いてたんだよ」
「たまたま閉まってる日なんてないんじゃない?」
「そうかもね、アスランそそっかしいから」

アウルは嫌味のつもりで言った言葉を笑顔で返ってきて、何も言わずにティーカップに口をつける。
アスランはキラの分のお茶を用意しにキッチンへと行ってしまった。

「何?またシンくん負けたの?」
「聞かなくても画面見ればわかりますよ」

キラに背を向けたままぶっきらぼうに答えたのも束の間、シンは慌ててキラの方に身体を向けコントローラーを差し出した。

「アウルと対戦してみて下さい!」
「げっ」

シンの予想外な発言にアウルは心底嫌そうに、キラは面白そうに笑った。

「ふざけんなよ、シン。僕に負けたからってあいつを使って復讐なんて……」

シンの腕を掴みキラには聞こえないように文句を言う。それを楽しむようにシンは間をあけてから答えた。

「何だよ、勝てばいいだけの話だろ」

シンの物言いには腹が立ったようだが、ぐっと堪えて立ち上がって部屋から出て行ってしまった。

「行っちゃったね」
「へ!?は、はい」

まさかアウルが逃げるとは思わずこのままでは自分がキラと対戦する羽目になってしまう。
こうなれば急用とか理由をつけてと考えているとアスランが戻ってきた。

「あれ?アスラン、お茶は?」
「アウルが持ってきたいって言うから。何かシンが俺を呼んでたとかで」

そうきたか。とシンは瞬時に納得した。
この場合戦わずに済ませ尚且つ逃げ帰る以外には生け贄を捧げなくてはいけない。
何だかんだと言いながら家に来ても追い出さなかったり、お茶まで出してくれたりと恩を仇で返すようで申し訳ないがこれしかない。

「どちらが強いのか気になりまして……」

シンは言いながら我ながら情けないと思っていた。

「昔は俺の方が強かったが最近はやってないしな」
「僕もゲーム機自体今は持っていないしどうだろう」
「ブランクも同等という事でやってみて下さい!」

立ち上がり、コントローラーをテーブルの上に乗せた。
キラとアスランはソファに座りコントローラーを握る。

「自分がやりたくないのに人にやらせようとするなよ」
「出所伺ってたみたいに戻ってくるなよ」

ソファの後ろに立つとティーカップとポットを乗せたトレーを持ったアウルが戻ってきた。それをテーブルに素早く置いてシンの隣りに立つ。
その頃には二人の操作キャラは決まっていた。

「キラさんが男キャラでアスランさんが女キャラ?」
「うわー、へたれのくせにSなんだ」
「聞こえてるぞ、アウル」
「じゃあ、はじめようか」

キラの合図でシンとアウルの予想とは選択キャラは反対で対戦が始まった。
二本先取の対戦は双方一本ずつ取り、最後はキラの勝利となった。

「僅差って感じだね」
「でも昔より上手くなってないか?」

二人の対戦後はシンとアウルに比べると遥かに穏やかだった。

「なんていうか……」
「無駄がなさすぎて逆に怖い」
「何か言った?」

小声で呟いたはずなのにキラはあたかも聞こえていたように聞き返してきて首を横に振った。
明らかにわかっているのに白々しく“そう?”ともう一度聞き返してくるのに恐怖さえ感じる。

「やっぱりキラさんはサディストじゃないじゃないか」
「ばーか。女キャラ使うからってサディストとは限らないし。だから言ったじゃん、あいつみたいのがタチが悪いって」

アウルの言ってる意味がわからず僅かに首を傾げる。

「僕はサディストじゃないよ」
「やっぱ聞いてんじゃん」

突然の会話の乱入にシンは驚くがアウルは平然と返していた。

「痛いのはやっぱり嫌だしね。でも……」

思わせぶりな間にその続きが気になってしまう。しかし続きは笑みでごまかされた。代わりに自分の事から二人へ話は向いた。

「君はちょっと極端かもね」
「は?」
「シンくんは……」
「何ですかそのコメントに困ったんだけど見守るよ的な生温い視線は」
「シンは俺に少し似てるよな」

今まで傍観していたはずのアスランが口を挟む。

「アスランよりはいいんじゃない?」
「……何気に酷くないか、キラ」

結局シンはキラが言いかけた事が気になったが、聞けずに冷めたお茶を飲み込んだ。



H19.6.3




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